王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第78話 抜け出せない

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戦争が終わった、と一口に言っても、その後の処理は目がまわる程に大変なものだった。激しい戦いによって損壊された建物の補修や土地の修復作業は早急に国民から対応が求められるだろう。
そして生き残った‪……‬生き返った魔道士の処遇にはとくに頭を悩ませられる。一旦は城で拘束をしてあるが、彼らをこれからどう扱うべきか‪……‬‪……‬母上やフロストと話し合った。

だけど僕の答えは最初から決まっている。“共生”だ。
彼らを自由にして家に帰し、今まで通りの生活を送ってもらう。

‪‬魔道士軍の彼らは僕とトルテの祈りによって、父上を除く全ての人間が生き返った。どうやら聖女であったらしい僕と、精霊であったらしいトルテの力が合わさると――――すべてを元通りにする【還元】の力が働くらしい。その力が彼らを生かした。
異物は父上のみであり、それ以外は無罪だと証明されたようなものだ。父上が唆さなければ、彼らは無害な普通の国民でいられたのだ。
‪……‬それならば、父上の呪いが解けた今、彼らに咎を背負わせる必要は、ない。

「‪……‬ベル、私は‪……‬魔力を持つ身ではあるけれど、この国から魔力は排除したほうがいいと思うのです……‬」
「魔力を持っていても、我が軍に協力してくれた人はいます。彼らを切り捨てることなどできません」
「ベル様、王妃様は「魔力を利用してこの国を運用する是非」についてお話ししておられるのでは?」
「それも考えなくてはいけないな。‪‬だけどまず注力すべきは、魔力を持つ者だからといって差別する風潮を作らないこと。……今までと同じにならないために」

そうでなければ、女人が虐げられた今までのルアサンテ王国から何も変われやしない。女のくせに。女だから。オトメや英雄の子らに多くを強制してきた僕らの罪を、繰り返してはならない。
少々意固地になっているのは自分でも自覚していた。だけど、これだけは曲げてはいけない。トルテは彼らを“赦した”のだ。僕にはそう思えてならない。最小限の断罪をして、この国の未来を僕らに託してくれた。トルテがガッカリするような国づくりはできない。

「彼らを解放しよう」
「すぐには危険です。反抗的な者は引き続き監視下に置くべきです」
「‪……‬‪……‬」
「ベル様。また暗殺されますよ」
「また‪……‬?」

フロストの不穏な発言に母上が動揺する。しまった。思った時にはもう遅く、母上は泣きそうな顔で僕に縋ってきた。

「ベル! あなた殺されそうになったことがあるの!?」
「ああ母上違うんです、それは‪……‬」
「隠さずこの母にすべて話すのです!」
「ええ~と‪……‬‪……‬」

話を完全に逸らされてしまった。フロストが衛兵に何かを指示している。母上の追求を受け流して耳を澄ますと、反抗的な態度ではない魔道士は家に帰すようにと言っている。
やっぱり‪……‬全員を解放するのは時期尚早なのだろうか。感情が先走ってうまく思考がまとまらない。ああ、先が思いやられるな。

「ベル様、少し森をお散歩してきたらどうです? 今日は天気も良いし、気持ちが落ち着きますよ」

少し落ち着け、と言いたいのだろう。確かに今の僕は良くない。興奮する母上をフロストが引き取ってくれたので、僕はそそくさと会議室から退散した。





良い天気だ。あの嵐の日が嘘みたいに。

あの日の天候のせいで国内の至るところが風害や雷害に遭い、英雄親子と多くの衛兵はその修復の手助けに駆り出されている。つまり、あのプロポーズ以降、ジャオにはほとんど会えていないのだ。
たまに帰ってきて睡眠は取っているようだけれど、僕が気付く前にまた忙しなく出掛けてしまっているようだ。‪……‬もしかして、避けられている? なんで。だって、プロポーズまでしてくれたのに‪……‬。
一度思いついてしまったいやな考えを振り払うのは容易ではない。もしかしてジャオも、ユーリと同じように僕の横恋慕に気付いているんじゃないのか。知らないうちに怒りを溜めて、帰って早々絶縁‪……‬なんてことに、なったりしないだろうか‪……‬?

「ああ‪……‬」

こんな時に話を聞いてくれるトルテはもういない。ユーリだってあれ以来会っていないし、フロストも‪……‬今は政で手一杯なのが見て取れる。とても僕のモヤモヤに付き合わせる時間なんてない。

‪……‬‪……‬憂鬱だ‪……‬‪……‬。

晴れ渡る空に見送られて、深い木陰の中に突き進んでいく。城の裏手にある森の中はジャオと過ごした思い出でいっぱいだ。
会いたい。会いたいよジャオ。お前が頭を撫でてくれるだけで、僕の気分は一気に明るくなるのに。どうしてこんな時に離れ離れでいなくちゃならないんだよ‪……‬。

クシャ。前髪を掴むようにして後ろから頭を撫でられる。気のせいかと思った。ジャオにそうされたい願望のあまり、風のいたずらをそう取り違えてしまったのだと。だけどその手は確かな感触を持って、繰り返し僕の髪を柔く混ぜる。
呼吸を止めて振り向くと、そこには思わぬ男の姿があった。

「よ。なんか元気ないね」
「ルシウス‪……‬!?!?」

ルシウス、だ。以前と変わらない、あの。
木陰の中で桃色の髪は輝きを潜め、屈託のない笑みを湛えて穏やかに佇んでいる。

「どうしてここに‪……‬? どうやって‪……‬城の敷地内だぞ?」
「忘れた? 俺一級魔道士よ?」

‪……‬‪魔法は相変わらず万能のようだ。あまりにも普段通りの奴に油断していると、スッと伸びた手に、さもそれが当たり前であるかのように手を握られた。
鳥のざわめき‪……‬風で葉の擦れる音‪……‬それだけで‪……‬僕とルシウスは、たちまち世界に二人きりになる。

「またジャオに放置されてるだろ」

図星をつかれて所在なく視線を彷徨わせた。一体どこで見ているんだろうコイツは。コイツこそ城で拘束したほうがいいのではないか。思うが、ジャオが不在の今、我が軍の戦力だけでコイツを捕らえるのはほぼ不可能だ。
ルシウスはほんとうに以前と何も変わらない。‪……‬僕を付け狙うような、怪しい視線の他には。握った手の強さに強まる危機感、この息苦しさから逃れたくて、口走った。

「お前こそ‪……‬ユーリのことは」
「会ってきたよ」

意外な一言に弾かれるように見上げた。ルシウスは僕の手を離さない。生温い体温は不穏で、恐ろしいのに、心が囚われて逃げ出せない。

「ちゃんと話した」
「仲直り‪……‬できたのか?」
「うん」

チクリと胸が痛む。喜ぶべきことの筈なのに‪……‬自分の中にまだルシウスへの未練があると知って、自分で自分が憎らしくて仕方ない。自己嫌悪に絡め取られる中で、ルシウスの話は続く。

「でも俺、ベルのことも好きだから」
「もう、そういうの‪いいって‪……‬」
「これで最後にするから」

繋いでいただけの手が指を絡めてくる。僕らはごく自然に寄り添って抱き合った。ルシウスの体温‪……‬間近で感じる息遣い‪……‬これで最後だ‪。
ルシウスは人のモノなんだ。僕がどうこうしていい存在じゃない。

「ベル‪……‬‪……‬キスしたい」

ゾクッ‪……‬ほとんど吐息だけの声が耳朶をくすぐる。ルシウスとキス‪……‬こんな、二人きりの場所で‪……‬想像しただけで身体が熱くなる。誰も見ていない、今なら‪……‬さ、最後だし‪……‬自分に言い訳を重ねていると、ルシウスが身体を離して真剣な顔で見つめてきた。
ルシウスはいつも僕のこと、見ててくれた‪……‬僕だって、ルシウスのこと‪……‬でももう、忘れなきゃいけない‪……‬だから、これでほんとうに、最後だ。

「愛してるよ‪……‬」

背中の中心を優しく指で撫で上げられて、思わずルシウスに胸を寄せてしまう。至近距離で顔を見上げてすぐに――――塞がれた。

ルシウスとキスしてる。自分の意思で。
ルシウスと。ルシウス。ルシウス。

唱えるたびに興奮が募る。舌を絡めて、ハアハアと吐息を交換し合う。ルシウスの手が激しく胸を揉みしだいてくる。ダメ。言いたいのに、僕は縋るばかりで‪……‬。

「気持ちいい? ベル‪……‬」
「ん、はっ、あ」
「おっぱい出して」

胸当てをずらされ、服を捲り上げられる。乳首を弾かれながらしつこく口内を舐めまわされて、僕、もうドキドキしすぎて‪……‬その場に崩れ落ちてしまった。すぐにルシウスが追ってきて座った状態でふたたび唇を重ねる。地面にしっかりと指を絡めた手を置いて、僕らは‪……‬秘密の時間に酔いしれる。
ルシウスの息、熱くて、気持ちいい、指も熱い、僕のカラダ全部、ルシウスが欲しいって叫んでる‪……‬おっぱい、グニグニされて、ルシウスの指の股にまで僕のおっぱいの肉が挟まれて‪……‬「もっと」って言いたいの、必死で我慢してる‪……‬我慢、しなきゃ‪……‬。

「気持ちいいな、ベル‪……‬二人で、裸になっちゃおっか‪……‬?」
「あ、ダメ‪……‬そんなのっ‪……‬」
「でももうおっぱい丸見えになっちゃってるよ?」
「下は‪……‬ダメっ‪……‬」
「ハアッ‪……‬!!」

ルシウス、ついに僕を押し倒して両手に指を絡めてくる。そうして僕の首筋にたっぷりと擦り寄った。ルシウス、僕の匂い嗅いでる‪……‬アア、気持ち良い‪……‬首にもいっぱい、キスされちゃってる‪……‬。

「いい匂い‪……‬嗅いでるだけでタつ‪……‬」
「ルシウス、もうやめて‪……‬お願い‪……‬」
「なんで? いいじゃんヤっちゃおうよ、バレないって」
「お願い‪……‬」

涙がこみ上げてくる。早くこんな時間、終わらなきゃいけないのに。最後だからってどこまでやってもいいのかなんてそんなのない。今やめないと。今やめないと僕‪……‬もう抗えない‪……‬。

「お前だって俺とヤりたいんだろッ?」
「ダメ‪……‬んぶッ‬」
「俺、キスだけのつもりだったのに‪……‬お前がこんなにもエロいからッ‪……‬」
「んぶ、んうぅ~~っ」

これでもかと口内を蹂躙されながら乳首を乱暴に摘まれて、たぶん、僕は軽くイった‪……‬。ルシウスはハッと顔を離すと、まじまじと見つめてくる。恥ずかしい‪……‬発情した顔が、取り繕えない‪……‬。

「ベル、可愛い、可愛いな‪」
「ふぇ」
「俺、諦めたくないよ‪……!‬」
「ふぁあ、もぉ‪……‬」

首筋をジュルジュルとしゃぶられる。細かくビクビクと震えて、無意識に下半身の疼きを訴えてしまう。
どうしよう。僕のカラダがルシウスを欲してる。ダメだってわかってるのに‪……‬ああ‪……‬。

「ベル、俺、やっぱりお前のこと諦められない‪……‬!」
「んっ、うンッ」
「いい? ずっとおまえのこと好きでいてもいいっ?」
「ん、うんンッ」

乳首を引っ張られる気持ちよさに夢中で、思わずコクコクと頷いていた。ルシウスにずっと好きでいて欲しい。ルシウスの妄想の中で、何度でもこうされたい。
僕、ダメだ‪……‬なんでこんなに意志が弱いんだろう‪……‬こんなんじゃ、最後になんてならない‪……‬ルシウスとズルズル関係続けちゃう‪……‬。

「ベル、嬉しいよ、俺‪……‬ベルも俺のこと、好きでいてね‪……‬?」
「ン‪……‬」

ルシウスからのキスを受け入れる。後頭部に手を添えて、髪に指を入れて‪……‬ささやかに引き寄せると、ルシウスが「ハッ」と昂ったように熱い息を吐いて、深いキスを続ける‪……‬。

「おい」

二人きりの世界に、突如として闖入者が現れた。それが誰だか僕らは瞬時にわかる。慌てて手を解いて胸を押すけど、ルシウスは鼻息荒くさらに深く唇を埋めてくる。

「ベル、さっきみたいに舌絡めてっ?」
「ンンン~!!」

変なこと言うな。絡めた覚えはない。絡めたかも、しれないけど‪……‬そんなの、この人の前で、言わないで。

「さっきみたいに俺のこと抱き締めて、全身でスリスリしてよ‪……‬なあ、見せつけよ? 俺らが愛し合ってるとこ‪……‬!」
「ちがう、やめっ‪……‬ジャオ、ちがうのっ‪……‬」

慌てて露出していた胸をしまう。けれどまた捕まってキスされてしまった。一番これを見られたくなかった、ジャオは、それを静観している。
なんで? いつもみたいに激昂して‪……‬僕のこと、取り戻してよ‪……‬?

「ベル‪……‬どちらを選ぶんだ?」
「え‪……‬?」
「俺か‪、この男か」

ジャオと視線を通い合わせている間にも、ルシウスが首筋を舐めしゃぶったり、頬擦りしてきたりと忙しい。僕のカラダを貪るのに夢中なルシウスは、確かに可愛くて愛おしい‪……‬けど、ジャオと比べる余地なんてない。

「ジャオ、ジャオだよ‪……‬ジャオに決まってる‪……‬!」
「はあ、ベル、ベルっ」
「やめて、ルシウス‪……‬早く助けてよお、ジャオっ‪……‬」

また胸を捲られそうになるのを必死に手で食い止めながら乞う。ジャオは一度目を伏せると、鋭い蹴りでルシウスを僕から引き剥がした。

「ジャオっ」

駆け寄ると胸の中に抱き留めてくれる。僕は心底安心して、そこで何度も深呼吸をした。
ここが僕の正しい位置だ。僕の男の匂い。僕の男の体温‪……‬僕の相手はジャオだ。ジャオなんだ。言い聞かせるように何度も何度も、唱えた。

「ルシウス、金輪際ベルに触れることは許さない。破ったら処刑だ」
「いいよ‪? お前が来る前にたっぷり味わったから」

ペロリと舌舐めずりをして挑発するルシウス。やめてくれ。ルシウスの舌に弄ばれた口内が途端に痒くなる。

「ベル‪……‬もう絶対に目を離さないからな」

僕の頭に自分の鼻を擦ってジャオが念押ししてくる。ジャオが独占欲を抱いてくれると‪……‬やっぱりなんだか気持ち良い。ゾクゾクと胸の奥から噴き出す快楽物質に、脳を焼かれていく。
僕は最低な人間だ。だけど本能に抗えない。結局僕はどうしたって男に依存してしまう、弱い女だったということだ。

「失せろ。そして二度と俺とベルの前に姿を現すな。生かしておいてやるだけありがたく思え」
「いつもより饒舌だな。焦ってんのか?」
「黙れ。‪……‬やるのか」
「やんね。めんどいし」

ジャオが拳を構えるが、ルシウスはひらりとマントを翻して行ってしまった。
先程までとは違う男と、二人きりの沈黙。僕は今抱いてくれている熱に縋るように擦り寄る。ジャオは僕の肩を掴んで顔を覗き込んできた。

「ベル‪……‬まったくお前は」
「ご、ごめん‪……‬ちがう‪……‬許して‪……‬」

我ながらちぐはぐだ。ルシウスが強引にやってきたことだと押し通せばいいのに、謝るのはおかしい。それでも僕は申し訳なさが立って許しを乞い続ける。やがて僕の声を黙って聞いていたジャオが、ひたと頬に手をあててきた。

「ベル」
「ん‪……‬?」

パンッ 乾いた音とひりつく痛み。
今何をされたんだ。頬を張られた?

ジャオに手をあげられたのが信じられなくて呆然としていると、今度は乱暴に地面に突き倒された。首を、両手で圧迫される。締めて、締めて、気道を潰されて‪……‬だんだん、視界が、ジャオの無感情な顔が歪んでいく。

「この売女が」

パンッ! パンッ! 脳が吹っ飛びそうなほどに強く頬を叩かれる。気を失う直前に呼吸を取り戻した僕は、ぜは、ぜはとしたことのない自分の息遣いにまたもや呆然とする。
ジャオが、怒っている‪……‬信じられないほどに‪……‬‪……‬。

「今夜、楽しみにしていろ」
「ウ゛ッ‪……‬」

頬を両側から片手で掴まれて「お」の口に開いた上から唾を吐きかけられる。
ゾクゾクゾク! 今までに味わったことのない、切り裂くような電流が、走った‪……‬あさましくジャオの唾を手で集めて口の中に入れる自分は、生きる価値もないほどに下賤で、穢らしい存在で‪……‬ジャオに何をされたって構わないと、思った。


夜が、こんなにも待ち遠しいなんて、久しぶりだ…………。

僕はしばらく何をするでもなく、仰向けのまま……木漏れ日に包まれて、惚けていた。
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