王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第77話 終結

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城から出た僕とフロストが見たのは、にわかには信じることのできない光景だった。

異形同士がぶつかり合い、闘っている。片方は言わずと知れた父上、猪と豚の合いの子のような醜い化け物だ。そしてもう片方は‪……‬褐色の肌に赤いたてがみを生やした、美しく、勇猛な馬であった。

白く輝くオーラを纏って、父上の目を額の一本角で何度も突き刺している。先程聞こえたのは最初に目を突かれた時の父上の悲鳴だったのだろう。だくだくと腐ったような紫の血を流し、僅かな視界の中でなんとか一矢報いようと手足をジタバタさせている。

「あれってまさか‪……‬」
「ジャオだ‪……‬!」
「ですよね‪……‬!?」

ジャオと思しき馬が後ろ脚で力いっぱいまごつく父上を蹴り飛ばした。父上は悔しさのあまり叫び散らして無我夢中に腕を放り回す。結果、ジャオの尻尾を掴んでマウントを取ることに成功した。
馬の耳に化け物の手がかざされる。いけない。その体勢で魔法を放たれたら――――!

「ジャオ!!」

バサッ‪……‬馬の背中から、折り畳まれていたらしい翼が優雅に開かれた。後ろ脚が力強く大地を蹴って宙へと飛び立ち、背に乗せられたままの父上は‪慌ててその胴身に縋り付く。

「あ‪……‬」

上空高く昇っていくジャオはやがて地上から見えなくなる。
ややあって、落下物。
巨体がどかんと落ちてきて、白目を剥き息絶えた。

「父上‪……‬」

覗き込みながらうっすらと既視感を覚えた。
遠い昔、僕を殺したのは――――この男だったのかもしれない。
父上も僕らの前世に、いたのか‪……‬‪。

フッと身体から力が抜ける。フロストが気付いて支えてくれた。そっとその場に座り込み、褐色のユニコーンが降りてくるのを二人で見守っていた。

「ジャオ‪……‬」

ふらふらと立ち上がってその口元に手を伸ばすと、ユニコーンはみるみるうちに人間のジャオに変化していった。
変わらない笑み。変わらない体温。しっかりと抱き合って、またこうして生きて逢えた喜びを噛み締める。

ダメかと、思った‪……‬‪……‬元通りに、なったんだ‪……‬‪……‬
僕とトルテの祈りで、ジャオを蘇らせることができた‪……‬‪……‬

「ジャオ‪……‬‪……‬トルテが‪……‬」

ほとんど泣き声でそう訴えると、ジャオは僕を抱き留めた。泣くのを堪えるように細く息を吐いて僕の頭を撫で、気を落ち着けているようだ。やがてその呼吸は整い、ジャオは僕の耳元で小さく囁いた。

「トルテとは、また、会える」
「ほんとう‪……‬?」
「絶対会えるさ。‪……‬ベル」

するり。顔の横で手のひらを重ね合わせる。しっかりと握り合った後で、ジャオは僕の指輪を抜き取り、手の中で見つめた。

「懐かしい‪……‬旅立ちの前に、俺が贈ったものだ」
「城の倉庫で見つけたんだ。僕がつけていて、いいんだよね?」
「もちろんだ。今改めて、贈らせてくれ」

跪き、僕の指にしっかりと嵌められたそれは、夜明けの光を浴びて虹色に輝く。
涙が流れたけれど、泣いていたのは、僕じゃなかったのかもしれない。

「ベル。前世でも今世でも‪愛している。‪……‬俺と結婚してほしい」
「はいっ‪……‬!」

そうして僕らはかたく抱き合う。フロストと、意識のある数人の衛兵たちのささやかな拍手に包まれて、ああ僕は、この瞬間のために産まれてきたのだなと悟った。
戦場の空気は一変して和やかになる‪……‬巨悪は打ち倒した。僕らの国を取り戻したのだ。
失ったものも大きいけれど‪……‬僕らはきっと立ち直れる。これからも前を向いて、生きていける。

「ジャオ‪……‬ベル様、おめでとう」

僕らに歩み寄ってきたのはジャオの父親だ。彼らしからぬクシャッとした笑顔で僕らを祝福してくれている。つられて笑いかけるが、ふと強烈な違和感に襲われて叫んでしまう。

「あの、傷は‪……‬!?」

僕もジャオも、そしてフロストも幽霊を見たように驚いてしまった。致命傷だったかはわからないが、父上の手に握り込まれて少なくとも全身骨折はしていた筈なのに。
ボロボロではあるが彼は自力で立っている。そして僕らの前まで歩いてきた。

「それが、なぜか‪……‬ジャオが姿を変えた瞬間に身体の痛みがスッと引いてね‪……‬奇跡だよ」
「よかったです、本当に‪……‬!」

倒れていた衛兵や魔道士、明らかに絶命していた者達も次々と起き上がる。ジャオに力を与えたのと同じように、この戦の被害も無かったことになったというのか。
すべて、元通り‪……‬。

その瞬間、胸のつっかえがスッと取れたような気がした。
僕も、皆の役に立てたんだ。
トルテが僕をここまで連れてきてくれたから、成し遂げられた‪……‬。

「トルテ、ありがとう‪……‬」

見上げた空はすでに白み始めている。線状に広がった雲はまるで天使の翼のようで、ジャオと一緒に見入ってしまった。
天使‪……‬だったのかな。
まだ鮮明に瞼に浮かぶトルテの笑顔を、ずっと忘れないでいようと思った。

「ルシウス!? ルシウスはどこ!?」

その声にハッとする。ユーリ。
ジャオの腕の中から抜け出して、今しがたやって来たらしい彼に駆け寄る。

「ユーリ、無事でよかった‪……‬」
「ルシウスは!? 戦争に参加していたって!?」
「あ、ああ‪……‬」

ふと、脳裏によぎる彼の最期の姿。
あの時、父上の拳はルシウスの腹を貫通していた――――死んだようにしか見えなかったが‪……‬死体は見当たらない。‪……‬だが、元気に立っている姿もない。

「ひどい傷を負ってしまったが‪……‬精霊の加護で父上以外の者は全員復活した、筈だ‪……‬」
「生きてるんだね!?」
「うん‪……‬姿を見ていないから、断言はできないけど‪……‬」
「ハアッ‪……‬!」

ぺたん。脱力してその場に座り込むと、ユーリはわんわんと泣き出してしまった。不安だったろう。戦場にいなかった国民も全員‪……‬家族や大切な人を巻き込まれた者など、生きた心地もしなかったと思う。
背中を摩ってなだめると、ユーリはおもむろに顔を上げて、涙を零しながら僕をギッと睨み付け――――パン! 思いっきり、僕の横っ面を張った。
じん、じん。頬から目の奥に伝播する痛み。戦争が終わった安堵の中で、僕だけが混乱と絶望に叩き落とされている。

「‪……‬話が、あるから」
「‪……‬ぇ‪……‬‪……‬」
「落ち着いたら時間取って。じゃあ」
「あ、ちょ、ちょっと」

思わず慌てて周囲を見た。今の出来事を見ていた者は‪……‬いなさそうだ。ジャオもお父さんと何か話している。‪……‬‪……‬見られていなくて、よかったかも。
不幸中の幸いという言葉が浮かんで、卑怯な自分がつくづくいやになる。

きっと、ユーリは僕とルシウスのことを知ってる。このままうやむやに‪……‬というわけにはいかないらしい。それは、そうだよな。ユーリの立場からすれば僕は、ジャオという相手がいながら、ユーリの存在を承知していながら、ルシウスの誘惑に負けてしまった‪……‬何発殴られたって文句は言えない。
ユーリにどんな言葉を浴びせられるのだろう。軽蔑されているのかな。そうに決まっている。思わずその場で膝をついて頭を抱えていると、すぐに隣に寄り添って肩に手を添えてくれた。
ジャオ。慌てて顔を上げると、そこに居たのはやさしいジャオ……とは似ても似つかない、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた、フロストで‪……‬‪……‬。

「プロポーズ受けた後にすぐ修羅場とか、あなた本当に人生波乱万丈ですよねえ」
「うぐぐ‪……‬」

コイツ全部見てたのか。くそ。よりによって一番見られたくない性格の悪い奴に見られてしまった‪……‬。

「モテる女はつらいつらい」
「そういうんじゃ! ないから!!」
「戦場でチュッチュチュッチュ浮気してたくせに」
「見ーーーー!」
「大丈夫ですよ、他の者には見えてないですから」
「フロストッ‪……‬!!」

土下座を決める。ジャオに知られてしまったのは仕方ないが、これが国民に知れたら僕のすべては終わりだ。築き上げてきた信頼すべてが一瞬にして崩れ落ちるだろう。それだけは。僕にはまだ、王子としてやらなきゃいけない仕事があるんだ。
悔しさと屈辱を押し殺して地面に額を擦り付ける。フロストはそれをマントで隠して寄り添ってきた。

「やめてください。またあらぬ噂を呼びますよ?」
「お願いします、公にしないでください!! というかどこで見てたんだお前‪……‬!?」
「便利な魔具はいくつか隠し持っておりますので‪……‬フフ」

コイツまだまだ僕に言っていないことがありそうだ。今後はどこにいて何をしていてもフロストに見られていると思って生活したほうがいいな。とんだ弱みを握られてしまった。
でも、あの、ジャオの上でルシウスとキスした件は‪……‬仕方ないじゃないか。僕だって脅されていたんだ。下心がなかったと言ったら嘘になるけど‪……‬うう、なかったわけじゃないから、困るんだよなあ‪……‬。

「まあそんなアバズレのベル様でも、ジャオ様は結婚すると言ってくださったんですから。胸を張ってください、ほら!」
「ダメだ‪……‬今はとってもそんなふうには‪……‬」
「人生で今が一番最高の筈なのに‪……‬あなたやっぱり、幸せになれない星の下に産まれているんですねえ」

前世でも暗殺されましたしねえ。
自虐しつつ、ハアと涙交じりのため息をつく。


勝ち取った自由。
だが僕はまだ、平和には浸らせてもらえないようだ……。
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