王子の僕が女体化して英雄の嫁にならないと国が滅ぶ!?

蒼宮ここの

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第146話 母乳の行方

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魂が、抜けてしまった。
唯一僕の生きる気力となっていた子どもを取り上げられた今、もう何も意味なんてない。幸いマナトさんも来ないし、何も食べず、風呂も入らず、死ぬことばかり考えて一日中過ごした。
リリイさんは部屋に食事を持ってくるたびに何かを懸命に話して綺麗な手で僕の手を握ってくれたけど、もはや彼女の言語すら、僕には聞き取れなくなっていた。

そんなある日。時間感覚すらもわからなくなった僕をリリイさんが訪ねてきて、丁寧に僕の服を脱がせた。お風呂にも入れてくれた。
何も話さずその時間を終えると、ぼんやりと予想していた通り、マナトさんが部屋にやってきた。

「お待たせしました。なかなか教育が進まなくて手こずっておりまして」

子どもの話だろうか。もう僕には関係ないのに。
ボーッと何もない場所を見つめてマナトさんの声を聞き流している。

「実はあなたから搾乳した母乳は有効活用させていただいていたのですよ。今日はその母乳で元気に育った男の子を連れて参りました」

一瞬で、意識が戻った。
男の子。僕の子ども?

「こちらですよ」

その声につられて勢いよく振り向いた。
そこには、はじめて見る我が子の姿が――――。

「ぐ‪……‬ッ、ぐ‪……‬」

なかった。
そこにいたのはマナトさんよりも体格の良い大男。口にタオルを噛まされて、手首も拘束されているようだ。
ケンさん。弟であるマナトさんに失脚させられて、今や部屋にこもりきりだとリリイさんに聞いている。

どうして彼が‪……‬僕の部屋にいるんだっけ?
今の状況とマナトさんの言葉がうまく繋がらない。

「ほら、あなたの母乳を飲んでこんなに立派に‪……‬ああ近付かないでくださいね、興奮状態ですので」
「あ‪……‬‪……‬?」

嘘だろ。僕の母乳を、ケンさんに?
ゾワッと全身の毛穴が開く。ケンさんは僕を見つめてフーフーと荒い息をこぼしている。襲いかかって服を破いてきた時と同じ目……いや、黄色く濁ってさらに狂気を増している。

「なんで、そんな‪……‬気持ち悪い、こと‪……‬」
「ひどいですねえ。ケンは毎度美味しそうにあなたの母乳を飲むんですよ。私には理解できませんが、それはそれは興奮するそうで」
「いや‪……‬やめて‪……‬」

ケンさんは明らかに正気を失っている。今にも僕に飛び掛からん勢いで、手首に力を入れて拘束を解こうとしている。

「どうやらあなたの母乳は栄養がありすぎるようですね。責任を取っていただきたい」
「せき‪……‬にん‪……‬?」
「この子の教育に協力していただきたいのです」

何を‪……‬言っているんだ‪……‬こんな巨漢を捕まえて「教育」だなんて‪……‬確かにケンさんには常識が足りない部分がある、けど‪……‬少なくとも初対面の時にはこんな獣のような風貌ではなかった。
目をバキバキに見開いて、常にヨダレを垂れ流し、獣臭を撒き散らしている。彼は本当にケンさんなのか。僕も‪……‬こうなるのか‪……‬?
すっかり様変わりしてしまった目の前の男のことを他人事だと思えない。後退りする僕の後ろにまわって、マナトさんが前に押し出してくる。

「お話してあげてくださいよ。ケンはいつもあなたのことばっかり考えているんです」
「いやですっ‪……‬なんで、僕が‪……‬!」
「優しい言葉をかけてあげてください。もはや私が何を言っても理解できないようで」

まただ。肩を掴む力が強くて憎しみすら感じる。一体僕が何をしたというのだろう。
怯えながらも、ケンさんの目を見つめた。

「ケンさん。あの、落ち着いて‪……‬」
「ウウウウウッ」

ザッ。大きく掴み取ろうと振られた手を寸でのところで避けた。よく見ると爪も鋭く伸びていて、ますます人間の様相ではない。
マナトさんが厳しい声で「動くな」と言うと、立ちあがろうとしていたケンさんは悔しそうに膝をついた。まるで犬だ。人間に調教されている、犬。

「これくらいなら言うことを聞くのですが‪……‬爪切りともなると大暴れで。せめて意思疎通できるようになりたいんですよねえ」
「僕には、関係ない‪……‬」
「そんな冷たいことを言わないでください。あなたとケンはお仲間なんですから、仲良くして欲しいんです」

仲間だと‪……‬一体なんの仲間? おそるおそるマナトさんを見返すと、さも嬉しそうな笑みを向けられてぞわりとした。
僕とケンさんの共通点といえばそれは。おそらく、この城に監禁されていて‪……‬マナトさんの支配下にある‪……‬奴隷仲間だ、とでもいうのか‪……‬?

「ケンはあなたの話題を出すと少し聞く耳を持つんですよ。なのでご褒美をあげることを約束してほしいんです」
「ご褒美‪……‬?」
「ええ。こうなる前にしきりに言っていたんです。瓶からではなく、あなたの胸にしゃぶりついて直接母乳を飲みたいと」

バッ。反射的に胸元を隠して、今度こそ後ずさった。
そんなおぞましいこと、許されていいはずがない。僕の母乳はもとはアルベルのため、今は名前も知らないあの赤ちゃんのためのものだというのに‪……‬彼らには飲ませてあげられないで、なぜこんな他人の成人男性にしゃぶらせてやらないといけないんだ‪……‬!?

「気持ち、悪い‪……‬」
「あーあ。ケン、振られちゃいましたねえ」

僕の言葉を理解しているのか、ケンさんは視線を落として項垂れてしまう。罪悪感に責め立てられる僕の顔を無理やりあげて、マナトさんが思いっきり張った。

「私の兄上に無礼を働いた罪、許しませんよ」
「ウッ‪……‬」
「胸吸いされるのはお好きでしょう? お前は喜んでケンの慰みものになればいいのです、この売女が」

胸吸いは確かに好きだけど、それはもちろん好きな人相手限定だ。
そういえばマナトさんははじめて触れ合った時以外、ほとんどしてくれなかった。搾乳だけして、あとは手で弄るくらいで‪……‬どれほどもどかしく思ったことだろう。僕がしてほしいことを知っていたのに、してはくれなかったんだ。

「私にしてみたらいつまでも母乳を垂れ流し続けているお前が気持ち悪い。そのような穢れた女の乳をケンは飲みたいと言ってくれているんですよ? 喜んで差し出すのが礼儀でしょう」

無茶苦茶だ。理屈も何もあったもんじゃない。マナトさん、僕の母乳をそんなふうに思っていたんだ‪……‬だから行為前にいつも搾乳して、万に一つも飲まないようにして。
‪……‬その時点で気付くべきだったんだ。

「ほら、見せてあげてください」
「いやあっ‪……‬!」

服を剥ぎ取られて僕の胸が露わになる。ケンさんは目を奪われて、膝をつき、ますます鼻息を荒くした。

「ケン? ベルのおっぱい、飲みたいですか?」

コクコクコク。首がちぎれんばかりにケンさんが頷いている。反対に僕はいやいやと首を横に振って拒絶した。そんな僕をマナトさんが後ろから拘束して、胸を握ってくる。

「ケンにしゃぶられるのは嫌ですか?」
「いや!」
「私ならいい?」

トクン。胸が高鳴る。
今やマナトさんだって僕にとっては憎むべき裏切り者だ。それなのに‪……‬一瞬動きを止めてしまったばかりに、マナトさんに嘲笑されてしまった。

「わかりました。それでは私がベルの母乳をケンに口移ししてあげましょう」

え?
何を、言っているんだ‪……‬‪……‬?

呆気に取られている間にマナトさんが僕の胸に吸い付く。頭を押しても離れてはくれない。じゅうじゅうと乳首から母乳を吸い出されて‪……‬気持ちの悪い気持ち良さに浸っていると、マナトさんはケンさんに歩み寄り、跪いたままの彼の顎を乱暴に持ち上げた。
二人の唇が触れ合う。驚いたように目を見開くケンさん。だけど、マナトさんに僕の母乳を流し込まれると‪……‬途端に目元が蕩けて、ゴクゴクと美味しそうに喉を鳴らしている。

こんな異様な光景見たくないのに、僕はなぜだか目が離せなかった。フロストとお父さんの恋愛を見ている時の感覚に似ていた。胸が苦しくて、だけどずっと見ていたいような、複雑な感情‪……‬。
ヂュッ、とマナトさんがケンさんの唇を弾く。マナトさんは、笑っていた。ケンさんよりも蕩けそうな顔をして、ただ彼だけを真っ直ぐに見つめて。

「ケン‪……‬あの女の匂いが残って不愉快です‪……‬舐め取って‪……‬?」

マナトさんが大きく口を開く。するとケンさんはその肩を引っ掴んで夢中でマナトさんの口内にむしゃぶりついた。ゾクゾクと震える細い体躯。やがてマナトさんからも舌を絡めて、二人は深いキスへと落ちていく。
気付けばケンさんは虚ろな目で、マナトさんからの一方的な口吸いに翻弄されていた。

「ふふ‪……‬いいよ、ケン‪……‬」

彼のこんなにも甘い声ははじめて聞いた。マナトさんは名残惜しそうにケンさんの口元を舐め取ってハアハアと息を散らす。そしてぐるりと僕を振り返った。

「ベル、やっぱりあなたは役に立ちましたね‪……‬私の見込んだ通りだ」

紫の妖艶な瞳を光らせて舌舐めずりをするその様は、明らかに性欲に溺れている。溢れ出るフェロモンに、失神しそうだ。

「あなたをエサにしたら、ケンは私の言うことをなんでも聞いてくれる‪……‬」
「え? え? いや‪……‬」
「ほら、もっと母乳をくださいよ」

まるで痛めつけるのが目的であるかのように、マナトさんの唇は僕の乳首を強く吸い上げる。痛みと快楽で喉を仰け反らせたところでチュポンと弾かれて、そのままシーツに倒れ込んだ。
男二人が向かい合い、また、水音が響き渡る。僕の母乳を介して、二人は‪……‬‪……‬。

理解してはいけない事実が僕を蝕む。同時に、知ってはいけない快感に腰からジンジン痺れて動けなかった。
すっかりおとなしくなったケンさんの唇を貪りながら、マナトさんは僕に一瞥もくれずに、部屋を出て行った。
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