天寿の全うが目標です

もやし

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 走って走って走って、息が切れても兎に角走る。
荷物は持って走るには重過ぎて、とうの昔に置いてきた。
あれには大好きな放浪鳥の燻製が入っているから、あとで取りに戻れるといいけれど。

 途中、相手側の勘違いで追いかけられているようなので、一旦捕まって事情説明すればいいかなと思ったりもしたが、すぐにビスカはその考えを振り払った。
得てして、ああいう人たちは人の話を聞かないものだと身に染みている。

 ぼんやりとした灯りに照らされる通路には、至る所に配管が走っており、時折蹴つまずくような位置にもあったりして大層邪魔なのであるが、触れてみればそこの中からは霊力の気配や水の流れなどを感じられる。

(ここは生活に必要なものを通す通路なんだわ)

 規則正しいように見えて、古い所、新しい所があり、継ぎ足し継ぎ足しされている配管の数々に、今いる都市が少しずつでも確実に年月を重ね大きな都市となった事が伺える。
状況が状況でなければ、観光して回ると面白かったかもしれない。まぁ都市の基幹部を公開しているかどうかはわからないが。

「きっつ・・・けほっ」

 色々と分岐のある通路を我武者羅に走り続けて、何度目かの分かれ道に行き当たった。今回は三叉路である。
ビスカは、疲れで散り散りになっている集中力を掻き集めて考えた。

「前の道に行ったほうがいい気がする。右の道は絶対行っちゃダメな感じ。左はーーどうでもいい感じ」

考えても、道も知らない彼女に意味はないが、ビスカは生きる中でひとつだけ気づいた事がある。

「よし・・・右!!!」

それは、自分の勘ですら信用ならないという事であった。悲しい。

 勘がどういう理屈で働くのかは全くわからないが、少なくともビスカが自らに勘に従うと漏れなく事態が悪化することに気付いたのは、前回だったか。

(今回こそは絶対に生き延びてやるんだから!!!)

 ビスカは、恐怖からか、走り続けたからか、もうわからないほど震えている足を叱咤して、歯を食いしばった。
今回は助けようとしてくれる人がいる。
それがどれほど心強いことか。
なんとしても合流しなくては。




 そんな思いで走り続けて、ようやく爆発音や足音が少し遠くなったと感じた時には、体はもう悲鳴をあげているような状況になっていた。

 もとより、若いとはいえ、野山でのんびり薬草を摘んだりする他は運動らしい運動もしていない。
そして転送後、息つく暇もなくの追いかけっこで、宿屋でお風呂どころかまさかの汗塗れ埃塗れ。散々である。

 もういよいよ、一歩も動けないとへたり込む寸前のビスカの目の前に一つの扉が現れた。





 簡素な作りの扉には魔力の残滓が感じられ、普段は魔法によって鍵をかけられたうえで扉自体隠されているようであったが、中に人がいるのか今は開いていた。
普段であれば絶対に入ってはいけない類の扉はしかし、不思議な感覚をビスカに齎してくる。

「なにこれ・・・。絶対行っちゃダメっていう感じと、絶対行かなきゃって感じがある」

加えて扉の隙間からふんわりと漂ってくるのは、決していい匂いなどではない。生臭い血臭だ。耳をぴとりとつけて中の様子を伺うも、何も聞こえない。

(勘を信じられない事が打開策と思ってたけど、この策は無理っぽいか・・・)

どうするか逡巡した時、背後からバタバタと走る音が聞こえてきた。まだ距離はあるようだが、ここで迷っていては追いつかれるのも時間の問題だろう。

「せめて、致命傷は避けられますように!」

胸の御守りを握りしめて、勢いよく開いた扉の向こうにビスカは飛び込んだ。
そして、目の前の下り階段にたたらを踏んでなお、転がらずに踏み留まれたのは、父の御守りのお陰であったのかもしれない。



そしてビスカは降りた階段の先に見つけた。傷だらけの「ビスカの庇護者」を。



「おっきいなー」

「龍がなんでこんなとこにいるのよ。しかも傷だらけじゃない・・・。」




「あれ?」













(行かなくては)

その気配は、絶望と鎮魂の祈りに浸り眠る彼を全力で叩き起こした。

四度目の感覚。

今度こそはと、16年の間に細々と貯めた霊力を解放した。前回よりは効率よく霊力を集めていたとはいえ、今回は期間が短かったのが痛い。
なんとか枷を引き千切ろうとするも、折れたのは自らの脚だった。

(軟弱な!!!!)

ギチギチと鈍い音を立てながらも、役目を放棄しない枷と鎖に思わず唸り声が漏れる。
片脚が折れたため踏ん張りがきかないが、尚も身体を起こして身体強化の為の霊力を込めた。

封枷に霊力が奪われる前に封枷を壊すつもりであったが、麻酔薬の使用が殊の外厳しく作用してきたのが問題であった。
いつも彼のそばに来ては何やら喋っている人間が、近くで指揮を執っているのが原因だろう。

霊力を麻酔薬の浄化にも廻しつつでは、思った以上に霊力の消耗が激しく。
物理的に麻酔薬の射を止めようとするも、鎖に阻まれ届かない。霊力で攻撃しようとすれば、霊力自体を奪われる。

弱った身体に足りない霊力。

如何に強靭な龍と言えども、今回も抜け出す事は叶わなかった。

(あぁ・・・)

混濁する意識の中で、彼は見えない空を仰ぎ、そのまま倒れた。








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