その男、有能につき……

大和撫子

文字の大きさ
30 / 186
第二十四話

剥き出しの敵意VS順応力・前編

しおりを挟む
 だ、誰だ? 俺より年下っぽいけどいきなり……

 ごほっ……げほっげほっ……ゼエーゼィ……ごほっげほっ……

「迷惑なんだよ、死んじまえ!」
 
 眉根を寄せ、憎悪に満ちた表情で再び言い放つ。ど、どう言う事だ? あからさまに敵意剥き出しじゃないか、しかも初対面だぞ?

 ベッドの上に座り込んで枕を支えに抱き締めるようにしていると、少しだけ呼吸が出来る。だけどこのまま放置はさすがにヤバい。俺だってかつて、生きる事に疲れた事は何度かあったさ。だけど死のうとまでは思わなかったぞ。しかも、いくらなんでも初対面のガキに一方的な理由で見殺しにされたかねーわ!

 ゲホゲホッ……ゴホゴホッゴホッ……

 くそっ、コイツずっと、殺意に満ちた眼差しで見てやがる。

 落ち着け、考えるんだ、コイツはどうしてこんな態度を取る? 恐らく99.9%王太子殿下がよこした奴だ。……まさか、嫉妬か? こんな俺なんかに? いや、俺の事を知ら無いだろうから有り得るか。嫉妬を剥き出しにされた過去から対処法を分析して。……俺なんかに嫉妬する奴、いる訳なかった。あ、身近に居たぞ、常に羨望の的だった弟だ。だが、あいつにそんな舐めた態度取る奴いなかったな……。仕方無い、小説により詳しくリアルな人物を書く為に、色々と調べて勉強した心理学と精神医学を活かそう! 一方的に逆恨み、嫉妬。コイツは不安なんだ。王太子殿下に愛されているのかが。かつ、ガキ特有の自惚れと自尊心、それでいてどこかに抱える自信のなさ、その不安定さを突け!

 その時、胸におさまる『オーロラの涙』がジワッと熱くなった。頼む、力を貸してくれ。あの薬湯をそこのクソガキから取り返す間これ以上咳き込まないように、会話が出来るよう呼吸の確保をしてくれ……。

 ペンダントに背中を押されるようにして口を開く。

「グッ、ゴホッ……し、初対面だろ? ゴホッゲホッ……な、何故そ……んな事する?」

 よし、かなり苦しいけど話は出来る! しめた、少し狼狽えたぞコイツ。弟と同じくらいの歳頃か、いや……もしかしたら中学生くらいかも知れん。

「お前みたいな得体の知れない奴、何で王太子殿下が特別扱いするんだよ! 生意気なんよ。死んじまえよっ!」

 怒鳴り散らす。あー……やはり嫉妬か。なら、ここは│下手《したて》に出たら益々増長されるぞ。年上を舐めるなよガキが。

「ゴホゴホッ……そ、それは……ゼィゼィ……直接、王太子……殿下に、聞け……ゴホッゴホゴホ……」

 目が泳いだ、コイツの独断で見殺しにしようとしたのに間違いないな。よし、勝負だ!

「……お、王太子殿下、は……ゴホッゴホゲホッ……面倒、見て……やれと……仰せの、筈……」

 あーやっぱり苦しい、だけどもう少し……奴はどんどん怯んで目も合わせない、もう少し……

「お、俺が……ゴホッゴホッゲホゲホッ……し、死んだら、お王太子、殿下は……どう、ゲホゴホッ……判断……なさる、かな? ゴホゴホッ……」

 クソガキがビクッとした今だ! 枕から両手を放し、そのままガキから奪い取るようにしてポットとコップを奪い取った。

「あっ!」

 一声あげ、呆然と俺を見るクソガキ。ゴホゴホ咳き込みながらポットの液体をコップに注ぐ俺。気持ちは急くけど咳き込んでなかなか上手く注げない。何とか半分ほど注いで口へと運んだ。濁った琥珀色の液体でゴボウに近い香りがする。白湯くらいの熱さで、味はかなり苦い。まだ効果は感じないけど、喘ぎながらもう半分を注いだ。

 その間、ガキは椅子の上に膝を抱えて俺を睨みつけている。随分とふてぶてしい奴だな。

 少しずつ胸の痛みが和らいで、息苦しさや喘鳴も穏やかになって来たみたいだ。もう少ししたら、楽になるだろう。ポットとコップを棚に戻した。そして枕をベッドの棚に立て掛け、そこに背中を預ける。こうすると楽だ。眠る時もこの姿勢でいこう。

 余裕の眼差しで(勿論、演技な)ガキを見つめた。ここは、俺の隠し技をかます時だな。但し、失敗したら大コケなんだが……。

 それにしても、美少年だな。さっきも言ったけどさ、小麦色の肌に子猫みたいに大きい瞳は鮮やかなピーコックグリーンなんだ。長い睫毛は勿論髪と同じ色だ。サラサラしたプラチナブロンド髪は顎の辺りまで伸ばされていて、軽くウェーブがかかっている。服装は、紺色に金ボタンの軍服……ほら、おもちゃの兵隊さんとかが着てそうなやつ。少し小柄で華奢な感じが、庇護欲をそそられて益々可愛さが引き立つんだろうな。王太子殿下も御趣味の範囲が広そうだなぁ。

 さぁ、咳も治まって呼吸も楽になったところで、隠し技といくか。ヤツは依然として俺を睨みつけているが……
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

世界を越えてもその手は 裏話

犬派だんぜん
BL
「世界を越えてもその手は」の裏で行われていた会話です。 本編を読んでいなければ分からない内容になっています。すべて会話で、説明もありません。

処理中です...