その男、有能につき……

大和撫子

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第二十四話

剥き出しの敵意VS順応力・後編

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「俺をどうするつもりだったんだ?」

 俺の問いかけに、プイッと左を向いて無言を貫くつもりのようだ。

「まだ子供の内からそんなに眉間に皺を寄せてると、大人になった時老け顔になるぞ。せっかくの美少年は台無しだ」

 出来るだけ大人の余裕で、殊更子供を扱うような言動で臨む。

「うるせーよ。笑ってばかりだって笑い皺が早く出来るだろ? ひ弱な癖に偉そーに話しかけんじゃねーよ!」

 即反論か。よしよし、計算通りだ。

「ははは、屁理屈だけは達者だな。やっぱりガキだな。声も可愛らしいボーイソプラノって感じだしな」

 キッとして俺を睨みつけやがる。だが、予想通りの反応だ。

「馬鹿にすんな! こう見えても二十歳だぞ! しかも王太子殿下の近衛兵の一人だ! 四天王の中の一人なんだぞ!」
 
 うわっ、マジか! 俺と同じ歳でしかも近衛兵四天王の一人だ?! 超エリートじゃねーかよ。俺とは天と地ほどの差じゃねーか。なるほどな、王太子殿下のお気に入りである自信が揺らいだのと、四天王の一人である俺様が、なんだってこんな得体の知れない病人なんかを! というプライドもあるのか。……なーんて本心は絶対見せたらいけない。それがどうした? とせせら笑ってみせろ!

「ほーう、それは凄い凄い、若いのに大したもんだなー」

 四天王の一人なんて響きも痺れるなぁ、いいなぁ。つーか四天王の存在自体も知らないんだけどな。

「何だよ、その馬鹿にした言い方は!」
「俺は惟光。君の名前は?」
「お前なんかに名乗る名前は無いね!」
「ほー、そーかそーかー。なら四天王の一人ってのは大嘘だな」
「何でそうなるんだよ? 失礼な。嘘なんかじゃねーよっ!」
「じゃー、そこまで言うんなら名乗れるだろ? 調べたら出てくるんだし。大体において、失礼なのはそっちだろうが! こちらが名乗ったのにも関わらず名乗らない、王太子殿下に看病を頼まれたのに見殺しにしようとする。そもそも最初からあり得ない態度。こんな不遜で非礼な奴を、どうやったら王太子殿下の近衛兵・四天王の一人だなんて信じられるって言うんだよ?」

 文字通り赤くなったり青くなったりしているコイツ。面白いように計算通りじゃねーか。まぁ、この正直な反応から見て、根は悪い奴じゃないんだろう。

「……Silasサイラス。四天王……東西南北のうち、東を司る」

 プイッと左斜め下を向いてボソリと名乗った。綴りが頭に浮かんだ。リアンと同じ魔術かな?

Silasサイラスか。宜しくな」
「だ、誰がお前なんかと!」
「まーだそんな事言ってるのか? やっぱり子供だなぁ。王太子殿下のお客である俺にそんな態度取って良いのか? 王太子殿下の命に背いただけでなく、そのお顔に泥を塗る事にもなるんだぞ? いいのか?」

 ほーら、不安そうな顔して。さぁ、さらに追い打ちだ!

「この仕打ち、王太子殿下ご本人に御報告、更にはラディウス様にも報告したら、どうなるかなー。四天王の一人ともあろう御方が、病人をゴミ屑のように扱った上に見殺しにしようとした、なんてさぁ」

 そんなせせこましい事、するつもりは一切ないけどな。一連のやり取りを見ようと思えば、王太子殿下なら可能だろうしさ。だが、ここは出来るだけ優位に立つべきだ。コイツに恩を売っておけるならそうしておいた方が良い。後々の為にもな。

「あ、あのっ!」
 トントントン、「私だ。入るぞ!」

 サイラスが俺に何かを訴えようとしたと同時に、ノックの音と王太子殿下の声。勝負、あったな。青ざめて震えるサイラス。ほくそ笑む俺。

「はい、どうぞ!」

 俺はそう答え、「ほら、何してる? お出迎えしないと!」とサイラスに迎えに出るよう促した。実は内心、危うく俺自らがドアを開けに行くところだった、てのは内緒な?

 作戦大成功だ! 俺の隠し技、決まったな。隠し技、もう何だかバレバレだろ? そう、『はったり』だ! 『ブラフ』とも言えるな。技を仕掛けている最中にバレたら大コケの上に大ピンチ、二度と使えない技だから一種のイチかバチかの大博打だし。諸刃の剣でもあるけどな。

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