その男、有能につき……

大和撫子

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【第弐部 八十一話】

愚か者の行く末

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 翳された王太子殿下の手の平から、パステルグリーンの光が溢れ出す。それは額に、頭に、首に……と俺の全身を柔らかく包み込んだ。次第に、苦痛も痛みも和らいでいく。

「……可哀相に、随分と酷い拷問を受けたのだな。呼吸器はおろか、かなり心臓にも負担が掛かっている。……もう少しだけ頑張れるか? 愚か者の行く末を見たいであろう?」
 
 この上なく優しく尋ねる。「はい……」夢見心地で肯定の意を示した。王太子殿下は頷いて微笑む。翳していた手を戻すと、前を向いて奴らに厳しい眼差しを向けた。おもむろに右手をあげ、親指と中指を擦り合わせパチンと慣らした。

 すると、

「惟光!」

 と言う声と共に、俺を抱き抱えるようにして両手首の戒めを解くサイラスが出現した。同時に、腑抜け王、変態女、アルの背後に音もなく出現する軍服姿の美形たち。

「王太子殿下近衛兵四天王だよ」

 俺を支えてくれているサイラスは小声で説明した。あぁ、本当に……フォルスとヘルメスが連れて来て……くれた……。

 状況が呑み込めると、途端に気が遠くなりかける。けれども、見届けたいし。まだ重要な事をやり残している。

「そいつらはまとめて『裁きの間』にぶち込んでおけ」

 王太子殿下は冷たく言い放つ。

「息子よ、儂は国王陛下であるぞ」

 腑抜け王は、精一杯威厳を持って訴えかける。だが、両手を後ろに回され近衛兵に拘束されている姿が滑稽だ。

「それが、何だと言うのです? 国王だからと言っても、罪は消えませんよ。全て調べさせて頂きました。『魂管理局』まで巻き込んで罪のない者の命を弄んだ。その事実は帳消しにはなりません。冥界には報告済みです。首を洗って、処罰をお待ちください」

 にべもなく応じる王太子殿下。

「な、何を……儂は辞めるように伝えた……」
「見苦しい! ホイホイ言いなりになった時点で同罪だ。大人しく『裁きの間』で沙汰を待て!」

 王太子殿下激しい遮りに、悔し気に俯く腑抜け王。変態女は、何やら盛んに右手の指を気にしている様子だ。これは……もしや……

「ね、ちょっとだけイタズラしちゃったけど、この子の事は大事に長生きして貰うつもりだったのよ」

 変態女め、猫撫で声で王太子殿下に話し掛けやがって。

「なるほど、ちょっとしたイタズラ。ならば身を持って同じ目に合ってみると良い。沙汰を待つまでの間の余興でな、
「な、な!! 何ですって? お、おばさん?」
「何も間違った事は言ってないであろう?」

 顔を真っ赤にして、ワナワナと全身を震わせる変態女。2人のやり取りはまるでコントのようで吹き出しそうになった。

「……アルフォンス、と申したか?」

 近衛兵四天王の一人に両手首を後ろで拘束され、項垂れたままだった奴は、名を呼ばれビクッと体を震わせる。震えながら王太子殿下を見つめた。

「一つ、教えておいてやろう。お前が陰で何か良からぬ事をしているであろう事は、かなり前からリアンが勘付いていたようだ。だから、反応を探る為に惟光を毒味役見習いとしてつけたのだそうだ」

 アルフォンスは呆然と目を見開いた。

「バレないと思っていたようだが、とんだ茶番だったようだな」

 王太子殿下は冷笑を浮かべた。

「『裁きの間』へ」

 と冷ややかに言い放つ。

「待て、国王陛下である儂にこのような仕打ち、ラディウスが……」
「ご心配無く。そもそも居場所の特定は我が弟と協力し合って見つけ出しましたから。『惟光を宜しくお願いします。父上と母上、我が部下の処遇はお任せします』と頭を下げられましてね」

 王子……王太子殿下との長年の確執を鑑みれば
……一体どれ程の思いで、頭を……下げられて……

 俺の心情が伝わったのか、王太子殿下は俺を振り返った。

「確かに弟には複雑な思いを抱いている。だが、私は道理が通らぬ男ではないのでな」

 と破顔した。微笑み返す俺の瞳は、きっと涙で潤んでいる。

 ふと、変態女が気にしていた右中指が頭を過ぎった。
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