その男、有能につき……

大和撫子

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第百十五話

囲ひ人・前編

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 目を覚ますと、真っ先に天井に群れを作るカサブランカが目に入った。これが灯りになるだろう。続いて、ふかふかのべッドに横たわっていた自分に気付く。純白の敷布団と掛け布団、そして大人四人が余裕で寝転べるような広さの広さは変わら無い。今回は、雫型のスワロフスキーまたは水晶の飾りが、蔦に等間隔絡められており。それが天蓋代わりになっている。まるでサンキャッチャーで作られた天蓋だ。もしかしたら蔦についている雫型は、蔦に溜まった朝露で出来ているのかもしれない。

 ゆっくりと上体を起こす。ここは寝室のようだが……。良かった、大切な愛しい記憶は鮮明に覚えている。取り敢えずは安心だ。

 ……『忘却の彼方』へ共に参ろう……

 というような事を国王は言っていた。ここはその『忘却の彼方』とやらなんだろうか。立ち上がって歩いてみる。蔦を掻き分けて外に出てみると……。部屋のほぼ中央辺りにガラステーブルとソファが向かい合って置かれている。

「えっ?」

 呆然と立ち竦んだ。サンルーム……とでも呼ぶべきだろうか? 広さは二十畳くらいのガラス張りの部屋? 多面積にカットされたガラスに囲まれていた。天井は寝室の部分を除いて壁も床も全部。恐らく、外側からこの部屋の全体を見たらブリリアンカットが施された透明の建物、という感じだろうと思われる。

 向かって右手に、蔦で覆われた小部屋がある。そこを掻き分けてみると、風呂場と洗面所、そしてトイレが別々に設けられていた。それぞれ蔦で仕切られている。

 今、国王は居ない。この部屋には俺一人だ。それが妙にホッとする。

 だが、蔦がある箇所以外この部屋は外から筒抜けだ。誰が覗き見するのかと問われたら別に……と答えるしかないが、何だか落ち着かない。常に誰かの監視があるようで……。 

 外はどうなっているのだろう? 今までいた部屋とは別の場所なのだろうか? 外を覗いてみる。何せ、壁も天井も床も一部を除いてすべて透明なのだ。どこから除いても外の様子は見える。……まさか、断崖絶壁に建っていたりしたら……? まさか、空中に浮いていたりしたら? そんな馬鹿げた妄想で体が竦んじまう自分に苦笑しつつ壁に近づく。

 果たして、外の景色は……

「あれ? これって……」

 建物のカット上、屈折して見えるのは仕方ないので両手で両目を囲うようにして外を眺める。先ずは本棚が見える。それも、沢山並んでいるようだ。深いブラウンの木製の本棚。絨毯はワインカラーに豪華な金色の刺繍模様で……何だろう? やたら大きな本棚と本に見えるんだけど、これは屈折して見えるから……だよなぁ。 そしてこの部屋自体は、どうやら高い場所に建てられているようで……。

 建物の中に建てられている部屋? 何だかちょっと良く分からない。とにかく落ち着こう。取りあえずソファに腰をおろした。見たところ、パソコンはあるがテレビはない。 

 さて、どうしたものか……。何かしらアクションを起こさないと現状は変えられないのは分かりきってはいるが、国王が全ての鍵を握っているとなると迂闊な言動は危険だ。俺はともかく、ラディウス王子やリアン達に火の粉がかってしまうのは困る。うーん……元々がモブキャラの俺には、こういう時に名案が浮かばないんだよなぁ。さて、どうしようか? フォルス。

 左手首に意識を向けると、じんわりと温かくなってくる。

『おや、お目覚めか。気分はどうだ?』

 突然、国王の声が室内に響き渡った。反射的に立ち上がり、辺りを見回す。……どこから声がしたのだろう? 姿が見えない。ツーッと背筋に嫌な汗が流れた。とてつも無く、嫌な予感がした。
 
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