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第十一話
梅雨明け
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「絶対似合うって!」
咲喜は更に強調した。あたし達は今、浴衣を買いに来ている。約束の夏祭りまで、あと5日だ。梅雨明け宣言もされ、予報では日曜日は快晴。今日は水曜日。部活は休みだ。講義が終わった後、咲喜と大学近くのショッピングモールに来ていたのだ。二人で夏祭り会場近くの美容室に、着付けとヘアメイクの予約もしてある。
「……そ、そうかなぁ。こんな鮮やかな色、着たこと無くて……」
あたしは戸惑いを隠せない。自分で選んだのは、淡いブルーの地に紺の朝顔の花が描かれた物、淡いパープルの地に白の梅の花が描かれた物。オーソドックスな二枚だった。どちらか迷ったので、咲喜に選んで貰おうと声をかけたのだ。
「あ、こういオーソドックスなのも良いけど……せっかくだからイメチェンしちゃおうよ!当麻君をビックリさせてやろっ! ちょっと待ってて!」
と咲喜は嬉しそうに浴衣を選び始めた。
「あ!これこれ!」
咲喜が選んでくれた浴衣は、黒地に大胆にマゼンタ色と白の椿の花が描かれた物だった。帯は柄と同じ色のマゼンタに、白いレースの紐がついている。
……こんな艶やかな浴衣、浴衣だけ浮いちゃいそう……
正直な気持ちだった。
「菜々子は目力あるし、顔がクッキリしてるじゃん、で、背が高めでスレンダーだからこのくらい大胆な方が似合うんだって!」
咲喜は自信たっぷりに笑う。クッキリしている。物は言いようだ。クッキリと言うか、凛々しいと言う表現がピッタリなのだが。
「ほら、鏡見て生地あててみて!」
彼女の勢いに押されるように、生地を首にあててみて鏡を見る。
「ね!」
鏡越しに嬉しそうに頷く咲喜。言われて見ると、思いの外自然な感じがした。似合っているかどうかは、分からないけれど。浴衣は、巾着、帯、下駄、髪飾りの5点セットで9800円。この他に、着付ける時の紐が必要なのだそうだ。予算は美容室代を含めて25000円以内。何とか行けそうだ。バイトもせず、実家からの仕送りのみのやりくり。あまり贅沢は出来ない。予算内でおさめるのが大切だ。
咲喜が自身に選んだ浴衣は、白地にパステル調の黄色、オレンジ、ピンクの鞠が描かれた、とても可愛らしい物だった。キュートで朗らか、活発な咲喜によく似合う。
あたし達はその後、レストランで夕食を共にした。
「でも、元気になって良かった…」
食事が始まってしばらくしると、咲喜はしみじみと言った。先日、救急車で運ばれた事を言っているのだ。
「ゴメンね。ビックリさせちゃったね」
改めて謝罪した。
「ううん、これで少しは気を付けてあげられるし。当麻君にも会えたしね」
咲喜は笑顔を見せる。あの時、意識を失ったあたしが握り締めていた携帯は、当麻とのLINERの画面のままだったらしい。救急車を待っている間、悪いかな、と思いつつもあたしの携帯で当麻にラインを送ってくれたのだ。
『突然にすみません。菜々子さんの友達の磯村咲喜と申します。菜々子さんが倒れました。今救急車を待っています』
それで、当麻は飛んで来たようだ。救急車には当麻が付き添い、咲喜は後から来てくれたそうだ。この件では、クラスメイトには沢山お世話になった。咲喜があたしを支え、近くにいた女の子が救急車を呼び、その後まま咲喜とともにあたしを支え、到着した救急車がすぐに教室に来られるように正門で待機してくれたクラスメイト数名。
本当に有り難い。こういう感謝の気持ちって、忘れたらいけないと思う。
「有難うね。あたしも、咲喜の彼に会えたし」
あたし達は微笑みあった。
~・~・~・~・~・~・~
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
『アダルトチルドレンて、病名じゃないんだ』
玉岡先輩からお借りした本を、海辺で読んでいる。本を汚さないよう、大きめのビニール袋に入れて。その本はアダルトチルドレンについて詳しく、分かりやすく書かれた本のようだ。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
何となく、潮騒のメロディを聞きながらの方が本の理解度が高まると感じたのだ。今日は講義が午後二時からなので、午前九時にはもう海辺に到着していた。熱中症帽子の為、帽子と日傘、お水とスポーツドリンク。フェイスタオル。そして保冷バッグに入れたランチを持参。まるでちょっとしたピクニック気分だ。
海開きも済み、梅雨も明けたとあって、平日の午前中でも結構家族連れが来ている。あたしもあと二日行けば夏休み。部活だけの日々の始まりだ。
『機能不全家族の元で育ち、生きにくさを感じている大人達の事』
本は文でまず説明され、例は分かりやすく漫画で描かれていた。ふと、玉岡先輩がおっしゃっていた『毒親』と言う言葉が脳裏を掠めた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
…毒親…?
気になってバッグから携帯を取り出す。そして『毒親』と検索をしてみた。
毒親とは、子供を支配する親のことを指し、母の場合は毒母・毒ママ、別名モラ母と称され、父の場合は毒父、毒パパと称される。過干渉やネグレスト等による児童虐待によって、毒のような影響を子供に与える親の事を指す。(2017年7月現在 ウィキペディアより)
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
うちの両親には当てはまりそうにないけど、と思うけれど、何故か胸がザワついた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
この得体の知れないモヤモヤとしたザワめきを、地球の鼓動、即ち潮騒のメロディに乗せて浄化してしまおう。
ザワザワモヤモヤするする感情を、胸から分離させるイメージをした。その時!
「今日は本を持参で来たの?」
背後から突然から、優しく柔らかな声が響いた。ビックリして振り返る。
「……海斗,君」
彼の名を呟いた。日沖海斗。彼が優しい笑みを浮かべて立っていた。
咲喜は更に強調した。あたし達は今、浴衣を買いに来ている。約束の夏祭りまで、あと5日だ。梅雨明け宣言もされ、予報では日曜日は快晴。今日は水曜日。部活は休みだ。講義が終わった後、咲喜と大学近くのショッピングモールに来ていたのだ。二人で夏祭り会場近くの美容室に、着付けとヘアメイクの予約もしてある。
「……そ、そうかなぁ。こんな鮮やかな色、着たこと無くて……」
あたしは戸惑いを隠せない。自分で選んだのは、淡いブルーの地に紺の朝顔の花が描かれた物、淡いパープルの地に白の梅の花が描かれた物。オーソドックスな二枚だった。どちらか迷ったので、咲喜に選んで貰おうと声をかけたのだ。
「あ、こういオーソドックスなのも良いけど……せっかくだからイメチェンしちゃおうよ!当麻君をビックリさせてやろっ! ちょっと待ってて!」
と咲喜は嬉しそうに浴衣を選び始めた。
「あ!これこれ!」
咲喜が選んでくれた浴衣は、黒地に大胆にマゼンタ色と白の椿の花が描かれた物だった。帯は柄と同じ色のマゼンタに、白いレースの紐がついている。
……こんな艶やかな浴衣、浴衣だけ浮いちゃいそう……
正直な気持ちだった。
「菜々子は目力あるし、顔がクッキリしてるじゃん、で、背が高めでスレンダーだからこのくらい大胆な方が似合うんだって!」
咲喜は自信たっぷりに笑う。クッキリしている。物は言いようだ。クッキリと言うか、凛々しいと言う表現がピッタリなのだが。
「ほら、鏡見て生地あててみて!」
彼女の勢いに押されるように、生地を首にあててみて鏡を見る。
「ね!」
鏡越しに嬉しそうに頷く咲喜。言われて見ると、思いの外自然な感じがした。似合っているかどうかは、分からないけれど。浴衣は、巾着、帯、下駄、髪飾りの5点セットで9800円。この他に、着付ける時の紐が必要なのだそうだ。予算は美容室代を含めて25000円以内。何とか行けそうだ。バイトもせず、実家からの仕送りのみのやりくり。あまり贅沢は出来ない。予算内でおさめるのが大切だ。
咲喜が自身に選んだ浴衣は、白地にパステル調の黄色、オレンジ、ピンクの鞠が描かれた、とても可愛らしい物だった。キュートで朗らか、活発な咲喜によく似合う。
あたし達はその後、レストランで夕食を共にした。
「でも、元気になって良かった…」
食事が始まってしばらくしると、咲喜はしみじみと言った。先日、救急車で運ばれた事を言っているのだ。
「ゴメンね。ビックリさせちゃったね」
改めて謝罪した。
「ううん、これで少しは気を付けてあげられるし。当麻君にも会えたしね」
咲喜は笑顔を見せる。あの時、意識を失ったあたしが握り締めていた携帯は、当麻とのLINERの画面のままだったらしい。救急車を待っている間、悪いかな、と思いつつもあたしの携帯で当麻にラインを送ってくれたのだ。
『突然にすみません。菜々子さんの友達の磯村咲喜と申します。菜々子さんが倒れました。今救急車を待っています』
それで、当麻は飛んで来たようだ。救急車には当麻が付き添い、咲喜は後から来てくれたそうだ。この件では、クラスメイトには沢山お世話になった。咲喜があたしを支え、近くにいた女の子が救急車を呼び、その後まま咲喜とともにあたしを支え、到着した救急車がすぐに教室に来られるように正門で待機してくれたクラスメイト数名。
本当に有り難い。こういう感謝の気持ちって、忘れたらいけないと思う。
「有難うね。あたしも、咲喜の彼に会えたし」
あたし達は微笑みあった。
~・~・~・~・~・~・~
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
『アダルトチルドレンて、病名じゃないんだ』
玉岡先輩からお借りした本を、海辺で読んでいる。本を汚さないよう、大きめのビニール袋に入れて。その本はアダルトチルドレンについて詳しく、分かりやすく書かれた本のようだ。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
何となく、潮騒のメロディを聞きながらの方が本の理解度が高まると感じたのだ。今日は講義が午後二時からなので、午前九時にはもう海辺に到着していた。熱中症帽子の為、帽子と日傘、お水とスポーツドリンク。フェイスタオル。そして保冷バッグに入れたランチを持参。まるでちょっとしたピクニック気分だ。
海開きも済み、梅雨も明けたとあって、平日の午前中でも結構家族連れが来ている。あたしもあと二日行けば夏休み。部活だけの日々の始まりだ。
『機能不全家族の元で育ち、生きにくさを感じている大人達の事』
本は文でまず説明され、例は分かりやすく漫画で描かれていた。ふと、玉岡先輩がおっしゃっていた『毒親』と言う言葉が脳裏を掠めた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
…毒親…?
気になってバッグから携帯を取り出す。そして『毒親』と検索をしてみた。
毒親とは、子供を支配する親のことを指し、母の場合は毒母・毒ママ、別名モラ母と称され、父の場合は毒父、毒パパと称される。過干渉やネグレスト等による児童虐待によって、毒のような影響を子供に与える親の事を指す。(2017年7月現在 ウィキペディアより)
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
うちの両親には当てはまりそうにないけど、と思うけれど、何故か胸がザワついた。
…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
この得体の知れないモヤモヤとしたザワめきを、地球の鼓動、即ち潮騒のメロディに乗せて浄化してしまおう。
ザワザワモヤモヤするする感情を、胸から分離させるイメージをした。その時!
「今日は本を持参で来たの?」
背後から突然から、優しく柔らかな声が響いた。ビックリして振り返る。
「……海斗,君」
彼の名を呟いた。日沖海斗。彼が優しい笑みを浮かべて立っていた。
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