海を見ていた「潮騒のメロディ」

大和撫子

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第十四話

不協和音Ⅱ

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 話し合いは、必要だろう。避けて通ることは不可能だ。そして、当麻は嘘はついていない。彼の冷たい迄に澄んだ瞳が、それを物語る。その瞳が、あたしを見据えている。何かを問いただしたいように。

「よく分かったわ。そうね。話し合いは必要ね」

 と応じる。当麻は少しホッとしたような表情になる。だがそれはほんの僅かな時間だった。また、冷ややかに澄んだ瞳であたしを見つめる。

「そうか。安心した。今度は俺がお前に聞きたい事がある」

 と少し強めの口調で切り出した。どうしたのだろう? 不思議に思いながらも、私は頷いた。

「回りくどいのは好きじゃない。単刀直入に言おう。まず一つ。玉岡先輩とは本当に何でもないのか? 二つめ。
海辺で、あのチャラい奴と抱き合ってたそうだが、それは本当か?本当なら何故だ? 以上だ」

「え?」

 先輩だけでなく、いきなり海斗の話が出てきて、頭が真っ白になってしまった。その時の記憶が、甦る。だから

…ザザー…ザブン…ザザー...ザブン…

 海を思い浮かべる。すぐに波の音がセットで聞こえてくる。地球の鼓動に、あたしの鼓動を合わせるようにして
気持ちを落ち着かせる。

……あたしは、やましい事は何もしていない。何一つ……

「あの時、一人で海に来てたの。前話した、玉置先輩からお借りした本を、海で読みたくなって」

 ゆっくりと話始めた。その時の会話を再現する。


…ザザー…ザブン…ザザー...ザブン…

「アダルトチルドレンさ、毒親ともリンクするけど。意外と無自覚なまま大人になってる人、多いと思うよ」

 しばらくして、海斗は穏やかに口を開いた。

「……無自覚?」

 気付けば、あたしはスッカリ打ち解けている。

「あぁ。別に、本人が『生き辛さ』を感じなけりゃ、問題無いんだ。だけど、例えば自分がどう感じてどうしたいのか感じられず、人に合わせてしまったり」

…ドクン…

「いつも自信が無くて、人に見捨てられる不安感がつきまとったり自分が、では無くて。両親が望むだろう自分を演じていたり」

…ドクン、ドクン…

「そう言うの、異性との交際で出てきやすいんだ。その『思考の癖』が」

…ドクン、ドクンドクン…

 海斗の言葉を聞いているうちに、鼓動が激しくなっていく。どうしてなのかワカラナイ。ワカラナイけど……。

「大丈夫、大丈夫。落ち着いて」

 彼は左手であたしを胸に引き寄せ、右手で軽く背中を叩き始めた。

「大丈夫だよ。大きく息を吐いて。そう、ゆっくり吸って……」

…ドクン…ドクン…
…ザザー…ザブン…ザザ…ザブン…

 さっきまで耳に入らなかった波の音が、自然に耳に入ってくる。すぐに普通の呼吸を取り戻した。

「あっ!」
「あ、ごめん!」

 あたし達は瞬時に我に返り、お互いサッと離れた。

「……あの、有り難う」

 あたしはお礼を述べる。

「いや、大した事してないよ。菜々ちゃんはさ、もっと自分の気持ちを素直に伝えて大丈夫だよ。彼にも、ご両親にも。急には難しいだろうけど、徐々にさ」

 と彼は笑った。

ザザー…ザブン…ザザ…ザブン…

 と話した。



「こんな経緯。パニック状態だった私を彼が落ち着かせてくれた。それだけなの」

 当麻は少し呆れたように溜息をつくと、それには答えず、

「先輩とは?」

 と鋭い眼差しを向けた。

「何もないよ。ある訳ない」

 きっぱりと断言してから、経緯を話す事にした。

「確かに、あんなところ見せられたら、誰だって疑いたくなると思う。でも……」

……トウマダッテ、モエニダキツカレテモソノママニシテルジャナイ……

 と言う想いが、頭をもたげる。

「当麻、いつまで経っても既読にならないし。連絡も来ないし。山内さんから、当麻と萌恵が一緒にいる、て聞いてたから。不安で。気持ちを持て余して。花火を見てたら…当麻と見たかったな、て。そしたら、自然に泣いてたみたいで。それで、玉岡先輩は慰めようとしてくれただけなの。玉岡先輩、優しい人だから。誰に対してもね」

 と締め括った。当麻は聞きながら、難しい顔をしている。しばらく沈黙が走る。沈黙が、痛い。

「……分かった。だけどもう、無防備に他の男に触れられたりするな!」

 当麻は強い口調で言い切ると、立ち上がって私の前にやってくる。

「当麻?」

 呆然として当麻を見上げるあたし。当麻はいきなり強くあたしを抱き締めた。腕が少し痛い。

「……そうやって、無防備に見上げると、男は皆抱き締めたくなっちまう!」

 当麻は絞り出すようにそう言うと、

「お前は、俺のものだ!」

 と言って更に強く抱き締めた。くすぐったい気がした。当麻が妬いてくれた事が。あたしは目を閉じ、当麻のぬくもりを感じつつ

「分かった。ごめんね」

 と答えた。

……モエトベタベタシナイデ。キッパリハネノケテ!……

 本当は、今そう言いたかった。言うタイミングだった。言うべきだった。けれども、言えなかった。こんな自分、大嫌いだ! 当麻の胸に身を預け、彼の鼓動を聞きながら、なんとなく釈然としない感じを覚えた。
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