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第十四話
不協和音
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あたしの部屋。リビングでテーブルを挟み当麻と向かい合ってソファに座っている。あたしは項垂れ、
当麻は両肘をテーブルつき、両掌で項垂れた額を支えている。
コチ、コチ、コチ、コチ…
時計の音が響く。気まずい沈黙が走る。あれから、咲喜と別れてこの部屋に直帰した。あたしは浴衣のまま。
当麻は濃紺のデニムパンツに白Tシャツとい姿だ。
……モエトフタリダケデナニシテタノ? ドウシテレンラクシテクレナカッタノ?……
そう聞きたいのに、聞けない。『別れよう』その最後通告を聞くのが怖くて。彼は、幼馴染みとしての『親愛の情』を『恋』と錯覚しているだけ。だから、彼がその夢から覚めた時は、潔く『今まで有り難う。幸せになってね』と笑顔でサヨナラを言うつもりだったのに。こんなにも独占欲剥き出しの嫌な女になってしまった。
「お茶、煎れてくるね」
沈黙に耐えられず、席を立つ。
「待て、行かなくて良い。ここにいろ」
と当麻は止めた。素直に従い、再び腰をおろす。
「……少し早めに部屋を出て、こっそり浴衣姿のお前を見ようと思ってたんだ…」
当麻はゆっくりと、少し言いにくそうに話始めた。
「で、部屋を出たら着信が鳴って。見たら萌恵からのライン通話だったんだ。少し前から、彼と上手く行ってないって……」
……ウソダ……
「その前から相談のLINERが来てて。でも、電話なんか来た事なかったから、気になって出てみたんだ」
……ウソダ、モエハウソヲツイテル……
「そしたら『彼に振られた。死にたい』とだけ言ってすぐ切っちまって……。心配になってこっちから電話をかけたんだ」
当麻はそこで言葉を止め、じっとあたしを見つめた。
…コチ、コチ、コチ、コチ、コチ…
時計の秒針の音が異様に響き渡る。気まずい沈黙が、あたし達を包み込む。恐らく、最初から萌恵に彼など居ない。当麻の気を引く為の演技だろう。
……萌恵…でもどうして? あたしたちが付き合う後押しをしてくれたの、萌恵でしょ? こんな事するなら、最初から譲らなければ良かったのに……
直接萌恵に、そう言えたら良いのだ。だけど、幼い時からの刷り込みで、どうしても萌恵には強く出られない。
まるで呪縛のように、『何でも言うことを聞いてくれる、優しくて物わかりの良いお姉ちゃん』を演じてしまう。
そしてそれは、当麻に対しても同じだ。嫌われたくない。その一心で、肝心な事を言えないのだ。我ながら、浅ましい愚か者だと思う。ぞんな自分が、大嫌いだった。けれども、咲喜達が一生懸命、あたしと当麻がしっかりと向き合えるよう、骨を折ってくれた。この機会を無にしてはならない。
一度大きく深呼吸する。そして当麻が話しやすいように、こう切り出した。
「山内さんがね、駅から外に出た付近で、走り去る萌恵らしき女の子と、『萌恵っ!』と叫んで追いかける当麻を見たんだって」
と。出来るだけ落ち着いて、穏やかに話せるよう努めながら。当麻は、あっそうだったのか、というように眉をあげると、
「そうか。山内さん、見たのか。……で、電話したら萌恵は出なくて。数分してからもう一度かけたんだ。そしたら出て。今から駅に行くから待ってて、と言って萌恵は電話を切った。お前との約束もあるし、まずは駅に向かった。駅で萌恵を待ったんだ。そしたらわりとすぐに来て。待ち合わせまで約90分ほどあったから、駅のカフェにつれて行った。そこで話を聞こうと思ったんだ。だけど注文した飲み物が運ばれても、萌恵はうつむいたまま何も言わなくて。しばらくして、静かに泣き始めたんだ。
『死にたい。彼に二股かけられてた』泣きながらそう言った。『それは辛かったな』まず共感を示して、気持ちに寄り添うようにした。しばらくしたら、落ち着いてきて。少しずつ、話はじめた。切っ掛けは、彼が間違えて萌恵にLINERを送った事だったらしい。
『朝美、日曜日は楽しかったな。再来週の日曜日、楽しみにしてるな』と。でも、その日曜日は部活だと聞いていたし、再来週の日曜日は、まだ何の約束もしてなかったんだと。彼に問い詰めたら、あっさり二股を白状し挙げ句
『まだ高校生だし、二股なんて当たり前だろ。普通は、結婚する前に、色々付き合って試すもんだ』と言ってのけたそうだ。だからそのまま別れたんだと。今日は地元の祭りに、ソイツと行く予定で浴衣着てお洒落してたらしい」
当麻は落ち着きはらって、淡々と話している。
……浴衣を着てお洒落していた理由。萌恵、上手く話を創るな。女優か小説家にもなれそうだ……
そんな風に感じながら、聞いていた。
「『そんなお馬鹿男、サッサと別れて正解だ。もっとお前を大切にしてくれる奴に、出会えるさ』月並みだけど、本当にそうだから言ったんだ」
ドクンと心臓が不安に跳ね上がる。
「そしたら、『じゃあ、当麻が彼氏になって』と言い出した」
ほら、思った通りだ。
「一時的に気が動転してるんだろうと思った。『一度はお姉ちゃんの為に諦めた。でもやっぱり当麻がいい。当麻しか考えられない』と真剣に伝えてきた」
……ヤッパリ。ワタシ二イワズトウマニハナス。フリムカセルジシンガアルカラ…
息を呑んで、次の台詞を待つ。
「『ごめん、無理だよ。やっぱり萌恵は菜々子の大切な妹、それだけだ。そうとしか思えない』て、きっぱりと言ったんだ。そしたら『どうして? 当麻のバカ!』と叫ぶと泣きながら喫茶店から出て行っちまって。慌てて支払いを済ませて追いかけたんだ。駅に向かっていたから、万が一電車にでも飛び込んだら大変だと思って『萌恵!』と呼びかけた」
……山内さんはそれを見たんだ……
「で、やっと捕まえたんだけど口を聞かない。宥めたりすかしたりした。時間だけが過ぎて行った。後日、時間作るから。ちゃんと話そう、と諭して、花火会場に連れて行った。咲喜さんも山内さんも言ってたが、少し萌恵を甘やかし過ぎた。ちゃんと一線引かないと。後日、三人で話そう。以上だ。質問はあるか?」
彼は終始、淡々とした口調で話し終えた。
当麻は両肘をテーブルつき、両掌で項垂れた額を支えている。
コチ、コチ、コチ、コチ…
時計の音が響く。気まずい沈黙が走る。あれから、咲喜と別れてこの部屋に直帰した。あたしは浴衣のまま。
当麻は濃紺のデニムパンツに白Tシャツとい姿だ。
……モエトフタリダケデナニシテタノ? ドウシテレンラクシテクレナカッタノ?……
そう聞きたいのに、聞けない。『別れよう』その最後通告を聞くのが怖くて。彼は、幼馴染みとしての『親愛の情』を『恋』と錯覚しているだけ。だから、彼がその夢から覚めた時は、潔く『今まで有り難う。幸せになってね』と笑顔でサヨナラを言うつもりだったのに。こんなにも独占欲剥き出しの嫌な女になってしまった。
「お茶、煎れてくるね」
沈黙に耐えられず、席を立つ。
「待て、行かなくて良い。ここにいろ」
と当麻は止めた。素直に従い、再び腰をおろす。
「……少し早めに部屋を出て、こっそり浴衣姿のお前を見ようと思ってたんだ…」
当麻はゆっくりと、少し言いにくそうに話始めた。
「で、部屋を出たら着信が鳴って。見たら萌恵からのライン通話だったんだ。少し前から、彼と上手く行ってないって……」
……ウソダ……
「その前から相談のLINERが来てて。でも、電話なんか来た事なかったから、気になって出てみたんだ」
……ウソダ、モエハウソヲツイテル……
「そしたら『彼に振られた。死にたい』とだけ言ってすぐ切っちまって……。心配になってこっちから電話をかけたんだ」
当麻はそこで言葉を止め、じっとあたしを見つめた。
…コチ、コチ、コチ、コチ、コチ…
時計の秒針の音が異様に響き渡る。気まずい沈黙が、あたし達を包み込む。恐らく、最初から萌恵に彼など居ない。当麻の気を引く為の演技だろう。
……萌恵…でもどうして? あたしたちが付き合う後押しをしてくれたの、萌恵でしょ? こんな事するなら、最初から譲らなければ良かったのに……
直接萌恵に、そう言えたら良いのだ。だけど、幼い時からの刷り込みで、どうしても萌恵には強く出られない。
まるで呪縛のように、『何でも言うことを聞いてくれる、優しくて物わかりの良いお姉ちゃん』を演じてしまう。
そしてそれは、当麻に対しても同じだ。嫌われたくない。その一心で、肝心な事を言えないのだ。我ながら、浅ましい愚か者だと思う。ぞんな自分が、大嫌いだった。けれども、咲喜達が一生懸命、あたしと当麻がしっかりと向き合えるよう、骨を折ってくれた。この機会を無にしてはならない。
一度大きく深呼吸する。そして当麻が話しやすいように、こう切り出した。
「山内さんがね、駅から外に出た付近で、走り去る萌恵らしき女の子と、『萌恵っ!』と叫んで追いかける当麻を見たんだって」
と。出来るだけ落ち着いて、穏やかに話せるよう努めながら。当麻は、あっそうだったのか、というように眉をあげると、
「そうか。山内さん、見たのか。……で、電話したら萌恵は出なくて。数分してからもう一度かけたんだ。そしたら出て。今から駅に行くから待ってて、と言って萌恵は電話を切った。お前との約束もあるし、まずは駅に向かった。駅で萌恵を待ったんだ。そしたらわりとすぐに来て。待ち合わせまで約90分ほどあったから、駅のカフェにつれて行った。そこで話を聞こうと思ったんだ。だけど注文した飲み物が運ばれても、萌恵はうつむいたまま何も言わなくて。しばらくして、静かに泣き始めたんだ。
『死にたい。彼に二股かけられてた』泣きながらそう言った。『それは辛かったな』まず共感を示して、気持ちに寄り添うようにした。しばらくしたら、落ち着いてきて。少しずつ、話はじめた。切っ掛けは、彼が間違えて萌恵にLINERを送った事だったらしい。
『朝美、日曜日は楽しかったな。再来週の日曜日、楽しみにしてるな』と。でも、その日曜日は部活だと聞いていたし、再来週の日曜日は、まだ何の約束もしてなかったんだと。彼に問い詰めたら、あっさり二股を白状し挙げ句
『まだ高校生だし、二股なんて当たり前だろ。普通は、結婚する前に、色々付き合って試すもんだ』と言ってのけたそうだ。だからそのまま別れたんだと。今日は地元の祭りに、ソイツと行く予定で浴衣着てお洒落してたらしい」
当麻は落ち着きはらって、淡々と話している。
……浴衣を着てお洒落していた理由。萌恵、上手く話を創るな。女優か小説家にもなれそうだ……
そんな風に感じながら、聞いていた。
「『そんなお馬鹿男、サッサと別れて正解だ。もっとお前を大切にしてくれる奴に、出会えるさ』月並みだけど、本当にそうだから言ったんだ」
ドクンと心臓が不安に跳ね上がる。
「そしたら、『じゃあ、当麻が彼氏になって』と言い出した」
ほら、思った通りだ。
「一時的に気が動転してるんだろうと思った。『一度はお姉ちゃんの為に諦めた。でもやっぱり当麻がいい。当麻しか考えられない』と真剣に伝えてきた」
……ヤッパリ。ワタシ二イワズトウマニハナス。フリムカセルジシンガアルカラ…
息を呑んで、次の台詞を待つ。
「『ごめん、無理だよ。やっぱり萌恵は菜々子の大切な妹、それだけだ。そうとしか思えない』て、きっぱりと言ったんだ。そしたら『どうして? 当麻のバカ!』と叫ぶと泣きながら喫茶店から出て行っちまって。慌てて支払いを済ませて追いかけたんだ。駅に向かっていたから、万が一電車にでも飛び込んだら大変だと思って『萌恵!』と呼びかけた」
……山内さんはそれを見たんだ……
「で、やっと捕まえたんだけど口を聞かない。宥めたりすかしたりした。時間だけが過ぎて行った。後日、時間作るから。ちゃんと話そう、と諭して、花火会場に連れて行った。咲喜さんも山内さんも言ってたが、少し萌恵を甘やかし過ぎた。ちゃんと一線引かないと。後日、三人で話そう。以上だ。質問はあるか?」
彼は終始、淡々とした口調で話し終えた。
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