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第十八話
風口の蝋燭Ⅱ
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練習終了後、ボールを一つ一つ拭き、綻び具合をチェックする。あまりに綻んでいるものは、顧問に申告するのだ。いつものように、顧問はある程度手伝ってくれて帰って行った。ここからはあたし一人の時間になる。目の前の事にひたすら集中する。これは、集中力がつく鍛錬になるのだ。
特に雨の日は。ライフセービング部がよく見える位置で練習をしているからだ。解散して掃除や後片付けをしている時も、当麻の人気具合がよく見える。
特に、マネージャー二人の当麻の取り合いはもうあたしの中では名物になっている。例えば互いに持参したタオルを、どちらが先に渡すかで争ったり。どちらがスポーツドリンクを渡すかで争ったり。それにしても、1年のマネージャー、2年と張り合うなんて凄い度胸だ。周りもそれを面白がって見ている。だからもしかしたら、ライフセービング部でも名物なのかもしれない。争う、とは言い過ぎかもしれない。さり気ない仕草など中に、互いを牽制する火花が静かに散る。そんな感じだ。
しかも、あたしが彼女だと知ってる筈なのだ。余程、あたしは当麻には相応しくない、と思われているのだろう。少し前までは、不安で仕方なかったものだが。何より当麻自身、まんざらでも無さそうに見える。このあたりがきっと、自分にもチャンスが、と思わせてしまうのだろう。この事も、勇気を出して伝えられたら。いや、伝えなければならいと思う。
ボールを拭き終わり、倉庫に運ぶ。鍵を閉めて、仕事は終わりだ。洗面所で顔を洗って、外に出た。時刻は午後2時過ぎ。今日は特に予定は無い。本屋にでも寄ろうか。大学から自宅の中間点くらいに、わりと大きな書店がある。こどもに関する心理系の本、保育関係の本が充実していてたまに利用しているのだ。なんとなく、アダルトチルドレンや毒親について、詳しく知りたくなった。もしかしたら、何か参考になる本があるかもしれない。
目的地が決まると、歩くのも自然に早くなる。今日も残暑が厳しい。バッグから日傘を取り出した。蝉の声が、暑さを煽る。書店に入ると、まずは話題の本のコーナーを見てみる。
「あれ?相沢さん?」
背後から聞き慣れた声が響いた。
「玉岡先輩?」
振り返り、彼の名を呼んだ。
「僕はちょっと本を探しに来てみたんだ。たまには小説も読みたいな、て思ってね」
と玉岡先輩は笑みを浮かべた。
「私も、本でも見てみようかな、て」
と答え、笑みを返した。
「へぇ?差し支えなければ、だけど。どんな分野を探してるの?」
「アダルトチルドレンとか毒親についての本です。以前、玉岡先輩からお借りした本、とても分かりやすくて、もう少し深く知ってみたいな、て思いまして」
「そうなんだ。良かったら、どの本がわかりやすいか見ようか?」
遠慮がちに切り出す先輩。彼は本当に親切だ。以前のあたしなら、自分なんかにつき合わせたら悪い、と即断っていた事だろう。けれども、それは、こんな見方も出来る。言わば、転んで立ち上がる時、せっかく手を差し伸べてくれている人がいるのに、バシッとその手を払いのけるようなものだ。
「良いんですか? 先輩のお時間が大丈夫であれば、是非お願いします」
あたしは素直な気持ちを伝えた。生まれて初めてと言って良いくらい、素直に人の好意を受けたかもしれない。不安そうだった先輩の顔が、その言葉でみるみる嬉しそうになっていく。お願いして良かった。
先輩は心理学のコーナーに誘導した。多くの本の中から、数冊選ぶ。
「これは専門用語を使わず、なるべく分かりやすい言葉で書いたもの。こっちは、小説風に描かれてるから感情移入しやすいかも。こちらはQ&A式になっているから、これもまた分かりやすいと思う」
勧められるまま、一冊ずつページをめくってみる。なるほど、どれも分かりやすそうだ。結局、分かりやすい言葉で書かれたものと、小説風に書かれているもの、この二冊を購入した。その書店は、カフェが併設されており、
本を購入した人がよく利用している。せっかくだから私もカフェで少し読んでいく事にした。
「有難うございました!」
先輩にお礼を述べ、見送る。そしてカフェへと足を運んだ。その時も知らなかった。誰かにその一連を見られていたなんて。
変わりたい! 気持だけが先走り、ハリボテの勇気と情熱だったのだ。それはまるで『風口の蝋燭』のように……。
特に雨の日は。ライフセービング部がよく見える位置で練習をしているからだ。解散して掃除や後片付けをしている時も、当麻の人気具合がよく見える。
特に、マネージャー二人の当麻の取り合いはもうあたしの中では名物になっている。例えば互いに持参したタオルを、どちらが先に渡すかで争ったり。どちらがスポーツドリンクを渡すかで争ったり。それにしても、1年のマネージャー、2年と張り合うなんて凄い度胸だ。周りもそれを面白がって見ている。だからもしかしたら、ライフセービング部でも名物なのかもしれない。争う、とは言い過ぎかもしれない。さり気ない仕草など中に、互いを牽制する火花が静かに散る。そんな感じだ。
しかも、あたしが彼女だと知ってる筈なのだ。余程、あたしは当麻には相応しくない、と思われているのだろう。少し前までは、不安で仕方なかったものだが。何より当麻自身、まんざらでも無さそうに見える。このあたりがきっと、自分にもチャンスが、と思わせてしまうのだろう。この事も、勇気を出して伝えられたら。いや、伝えなければならいと思う。
ボールを拭き終わり、倉庫に運ぶ。鍵を閉めて、仕事は終わりだ。洗面所で顔を洗って、外に出た。時刻は午後2時過ぎ。今日は特に予定は無い。本屋にでも寄ろうか。大学から自宅の中間点くらいに、わりと大きな書店がある。こどもに関する心理系の本、保育関係の本が充実していてたまに利用しているのだ。なんとなく、アダルトチルドレンや毒親について、詳しく知りたくなった。もしかしたら、何か参考になる本があるかもしれない。
目的地が決まると、歩くのも自然に早くなる。今日も残暑が厳しい。バッグから日傘を取り出した。蝉の声が、暑さを煽る。書店に入ると、まずは話題の本のコーナーを見てみる。
「あれ?相沢さん?」
背後から聞き慣れた声が響いた。
「玉岡先輩?」
振り返り、彼の名を呼んだ。
「僕はちょっと本を探しに来てみたんだ。たまには小説も読みたいな、て思ってね」
と玉岡先輩は笑みを浮かべた。
「私も、本でも見てみようかな、て」
と答え、笑みを返した。
「へぇ?差し支えなければ、だけど。どんな分野を探してるの?」
「アダルトチルドレンとか毒親についての本です。以前、玉岡先輩からお借りした本、とても分かりやすくて、もう少し深く知ってみたいな、て思いまして」
「そうなんだ。良かったら、どの本がわかりやすいか見ようか?」
遠慮がちに切り出す先輩。彼は本当に親切だ。以前のあたしなら、自分なんかにつき合わせたら悪い、と即断っていた事だろう。けれども、それは、こんな見方も出来る。言わば、転んで立ち上がる時、せっかく手を差し伸べてくれている人がいるのに、バシッとその手を払いのけるようなものだ。
「良いんですか? 先輩のお時間が大丈夫であれば、是非お願いします」
あたしは素直な気持ちを伝えた。生まれて初めてと言って良いくらい、素直に人の好意を受けたかもしれない。不安そうだった先輩の顔が、その言葉でみるみる嬉しそうになっていく。お願いして良かった。
先輩は心理学のコーナーに誘導した。多くの本の中から、数冊選ぶ。
「これは専門用語を使わず、なるべく分かりやすい言葉で書いたもの。こっちは、小説風に描かれてるから感情移入しやすいかも。こちらはQ&A式になっているから、これもまた分かりやすいと思う」
勧められるまま、一冊ずつページをめくってみる。なるほど、どれも分かりやすそうだ。結局、分かりやすい言葉で書かれたものと、小説風に書かれているもの、この二冊を購入した。その書店は、カフェが併設されており、
本を購入した人がよく利用している。せっかくだから私もカフェで少し読んでいく事にした。
「有難うございました!」
先輩にお礼を述べ、見送る。そしてカフェへと足を運んだ。その時も知らなかった。誰かにその一連を見られていたなんて。
変わりたい! 気持だけが先走り、ハリボテの勇気と情熱だったのだ。それはまるで『風口の蝋燭』のように……。
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