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第二十一話
海を見ていた
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…ザザー…ザブン…ザザー…ザブン…
海を見ていた。波打ち際で。幸いな事に、良いお天気だ。まだ3月。肌寒いせいか、犬を散歩させる人が数人いるだけだ。明日は短大卒業式前日だ。本当に、あっという間にこの時を迎えてしまった。
あれから、保育実習に就活に。本当に忙しかった。現場で体験して感じたが、保育士は体力気力勝負だ。前情報で知ってはいたが、実際にやってみると本当に重労働だった。だけど、子供は好きだ。就職は、本当に有り難い事に、実習先で欠員が出るらしく、良かったら面接を受けに来ないか?と連絡を頂けた。担任が見つけて来てくれた実習先だったが、私一人しか実習生が居なかったのも、ラッキーが起こる要因だったと思う。
咲喜とも相変わらず仲良くやっている。彼女は実家近くのデパートの託児所で働くらしい。彼とは婚約したそうだ。
…ザザ―…ザブン…ザザー…ザブン…
当麻は来るだろうか?あれ以来、約束通り連絡を絶っている。どこで聞き付けたのか、あたし達が別れたと聞いて、彼の周りにいる女子は更に増えたようだ。噂では、ライフセービングの2年のマネージャーと付き合ったとか、いや1年のマネージャーとだ、とか。合コンで知り合った他の女子大生とだ、とか。色々風の便りが届いた。
噂に一喜一憂している暇は無い! 誰かと自由に付き合えるように別れを切り出したのはあたしなのだ。
……本当は、あたしだけを思い続けて欲しかったけれど……
人の心は操作・支配はできない。
…ザザ―…ザブン…ザザー…ザブン…
今朝は午前4時に目が覚めてしまった。寝つけなかったし、他にやる事も特には無かったから、9時にはここに来てしまった。新しく手に入れた幼児の心理学の本でも読んで当麻を待とう。そう思ったのだけど、落ち着かなくて集中して読めない。待ち合わせまであと100分程。
……当麻は来てくれるだろうか……
…ザザ―…ザブン…ザザー…ザブン…
過去を振り返ってみる。実習や就活の他に、忘れられない思い出があった。当麻と別れて、から約4カ月。12月初め。あの玉岡先輩から告白された。
あれはいつものように部活が終わり、一人で帰宅しようとした時。正門を出ると玉岡先輩が待っていた。
「お疲れ、相沢さん。少しだけ、いいかな?」
随分、真剣な面持ちの先輩が気になって頷いた。少し歩いた先にあるカフェに誘われた。取りあえず、先輩と同じホットコーヒーを注文する。それにしても、いつも笑顔を絶やさない先輩にしては、思いつめた表情だ。何か相談だろうか?コーヒーが届くまでの間、沈黙が続く。
「ごめんね、突然に。実習ノートを提出するまでは忙しそうだと思ってね」
やがて先輩は切り出した。
「あの、当麻君と別れたって聞いたのだけど……」
少し言いにそうな様子に、別れた、と聞いて心配してくれてたのか、本当に優しい先輩だ、そう思った。
「あ、はい。本当です」
ハッキリと笑顔で答えた。引きずっている? と心配させたくはない。
「……そうか。その、実はね」
……なんだか言いにくそうだ。当麻が誰かと付き合った、て話かな?……
「その、相沢さんが入部してきた時から気になってたんだけど……彼がいる、て聞いて諦めてたんだ」
……ん?なんだか話の方向が、て、えっ?……
「良かったら、僕と付き合って欲しい!」
先輩はハッキリとそう言って、真剣にあたしを見つめた。
「あ、あの。お気持ちは嬉しいのですが、急過ぎて、その……」
正直に自分の気持ちを伝えた。本当にびっくりした。もしかしたら、何かのドッキリ? 学園祭か何かの企画なのでは、と思ったほどに。
「ごめんね。いきなり。返事は、急がなくて良いから」
その日はそれで、コーヒーだけ飲んで帰ったのだけれど。まさか、先輩から告白されるなんて本当に驚いた。だけど、答えは決まっていたから。
それから一週間後の部活後、校庭の片隅、銀杏の木の下で。
「お気持ちは本当に嬉しいのですが、今は、勉強と就活に専念したいので。ごめんなさい。本当に」
正直な気持ちを告げた。
「……やっぱり、そうか。いや、こちらこそゴメン。有難う。忘れて」
と寂しそうに笑うと、やや経ってからこう締めくくった。
「これからも宜しくね」
と。
「こちらこし、宜しくお願いします」
と応じた。ペコリと頭を下げて。正直に言うと、気持ちは揺れ動いた。本当に素敵な先輩だから。だけど、やっぱり。当麻が一番好きだった。
海を見ていた。波打ち際で。幸いな事に、良いお天気だ。まだ3月。肌寒いせいか、犬を散歩させる人が数人いるだけだ。明日は短大卒業式前日だ。本当に、あっという間にこの時を迎えてしまった。
あれから、保育実習に就活に。本当に忙しかった。現場で体験して感じたが、保育士は体力気力勝負だ。前情報で知ってはいたが、実際にやってみると本当に重労働だった。だけど、子供は好きだ。就職は、本当に有り難い事に、実習先で欠員が出るらしく、良かったら面接を受けに来ないか?と連絡を頂けた。担任が見つけて来てくれた実習先だったが、私一人しか実習生が居なかったのも、ラッキーが起こる要因だったと思う。
咲喜とも相変わらず仲良くやっている。彼女は実家近くのデパートの託児所で働くらしい。彼とは婚約したそうだ。
…ザザ―…ザブン…ザザー…ザブン…
当麻は来るだろうか?あれ以来、約束通り連絡を絶っている。どこで聞き付けたのか、あたし達が別れたと聞いて、彼の周りにいる女子は更に増えたようだ。噂では、ライフセービングの2年のマネージャーと付き合ったとか、いや1年のマネージャーとだ、とか。合コンで知り合った他の女子大生とだ、とか。色々風の便りが届いた。
噂に一喜一憂している暇は無い! 誰かと自由に付き合えるように別れを切り出したのはあたしなのだ。
……本当は、あたしだけを思い続けて欲しかったけれど……
人の心は操作・支配はできない。
…ザザ―…ザブン…ザザー…ザブン…
今朝は午前4時に目が覚めてしまった。寝つけなかったし、他にやる事も特には無かったから、9時にはここに来てしまった。新しく手に入れた幼児の心理学の本でも読んで当麻を待とう。そう思ったのだけど、落ち着かなくて集中して読めない。待ち合わせまであと100分程。
……当麻は来てくれるだろうか……
…ザザ―…ザブン…ザザー…ザブン…
過去を振り返ってみる。実習や就活の他に、忘れられない思い出があった。当麻と別れて、から約4カ月。12月初め。あの玉岡先輩から告白された。
あれはいつものように部活が終わり、一人で帰宅しようとした時。正門を出ると玉岡先輩が待っていた。
「お疲れ、相沢さん。少しだけ、いいかな?」
随分、真剣な面持ちの先輩が気になって頷いた。少し歩いた先にあるカフェに誘われた。取りあえず、先輩と同じホットコーヒーを注文する。それにしても、いつも笑顔を絶やさない先輩にしては、思いつめた表情だ。何か相談だろうか?コーヒーが届くまでの間、沈黙が続く。
「ごめんね、突然に。実習ノートを提出するまでは忙しそうだと思ってね」
やがて先輩は切り出した。
「あの、当麻君と別れたって聞いたのだけど……」
少し言いにそうな様子に、別れた、と聞いて心配してくれてたのか、本当に優しい先輩だ、そう思った。
「あ、はい。本当です」
ハッキリと笑顔で答えた。引きずっている? と心配させたくはない。
「……そうか。その、実はね」
……なんだか言いにくそうだ。当麻が誰かと付き合った、て話かな?……
「その、相沢さんが入部してきた時から気になってたんだけど……彼がいる、て聞いて諦めてたんだ」
……ん?なんだか話の方向が、て、えっ?……
「良かったら、僕と付き合って欲しい!」
先輩はハッキリとそう言って、真剣にあたしを見つめた。
「あ、あの。お気持ちは嬉しいのですが、急過ぎて、その……」
正直に自分の気持ちを伝えた。本当にびっくりした。もしかしたら、何かのドッキリ? 学園祭か何かの企画なのでは、と思ったほどに。
「ごめんね。いきなり。返事は、急がなくて良いから」
その日はそれで、コーヒーだけ飲んで帰ったのだけれど。まさか、先輩から告白されるなんて本当に驚いた。だけど、答えは決まっていたから。
それから一週間後の部活後、校庭の片隅、銀杏の木の下で。
「お気持ちは本当に嬉しいのですが、今は、勉強と就活に専念したいので。ごめんなさい。本当に」
正直な気持ちを告げた。
「……やっぱり、そうか。いや、こちらこそゴメン。有難う。忘れて」
と寂しそうに笑うと、やや経ってからこう締めくくった。
「これからも宜しくね」
と。
「こちらこし、宜しくお願いします」
と応じた。ペコリと頭を下げて。正直に言うと、気持ちは揺れ動いた。本当に素敵な先輩だから。だけど、やっぱり。当麻が一番好きだった。
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