花炎繚乱奇譚~光華爛漫~

大和撫子

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終章

~光華爛漫~

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「……つー事でめでたし、めでたし、かぁ」

 瑞玉はグスッグスッと鼻を鳴らし、金色の瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだ。

「やっと、おさまるべきところに落ち着きまたか」

 産土はヤレヤレ、というように苦笑する。眼鏡の銀の縁がキラリと光る。だがその奥の漆黒の瞳は、
限り無く優しい。

「この期間だけは、私達はフル回転ですけど、天より『木』と『火』の力はお貸し頂けますし。元々あの二聖は相性は良いのですから。ただ、勢いに乗り過ぎたら全て燃やし尽くしちゃいますから、その際には私の『水』の力、産土の『土』の力を使えば良い訳で」

 と水鏡がまとめる。その瞳は至って穏やかな蒼穹だ。

 彼らは今、火焔と花香が睦み合う場所の近くに佇んでいる。緑のトンネルから漏れる木漏れ日が心地良い。

「しかし神々もさー。もっと早くにこうしてやれば良かったのにさ」

 瑞玉は唇を尖らせ、自らのポニーテールを右手で│弄《もてあそ》ぶ。

「一応、私たち五聖が代表で宇宙の均衡を保つ訳ですから、禁欲・品行方正を求められるのは仕方ありませんよ」

 と産土は右手で瑞玉の頭を撫でた。

「私達には分かりかねますが、何か切っ掛けがあったのでしょうね。神々の中で……」

 水鏡の言葉と同時に、秋の訪れを感じさせる風が吹く。彼らの立つ燃え立つ紅き大地。曼珠沙華の群生が風に揺れた。

「さて、行きましょうか! 花香と火焔の分も、しっかりと働かないと!」

 水鏡は爽やかな笑みを浮かべ、産土と瑞玉を促す。その瞳は、秋の空のように澄み切っていた。

「おうよ! 任せろ!!」

 ニカッと笑う瑞玉。

「腕の見せ所ですね」

 と静かな自信を見せる産土。三聖は頷き合うと、スッと消えた。

 彼らが消えた後に、紅蓮の炎の華が揺らめく。

…カナカナカナカナカナ…

 ヒグラシが秋の訪れの調べを奏でる。

 │古《いにしえ》より、宇宙の均衡を保つ為、その力を注ぐ五聖がいた。

 陰陽五行。水・木・火・土・金の五つの力に分かれる。

 水があらゆる命を生み出し木が命を育み火が命を栄えさせ土が命を根付かせ金は命の痕跡を残す。

 聖霊達は互いに支え合い、補い合い、生かし合い、常に一定の均衡を保った。

 神は、理性的・冷静・合理的である男聖に全てを任せた。

 女聖達には、彼らが紡ぎ出した命を見守りサポートする役割を与えた。

水を司る聖霊は『水鏡』
木を司る聖霊は『花香』
火を司る聖霊は『火焔』
土を司る聖霊は『産土』
金を司る聖霊は『瑞玉』

 彼らは常に一定の均衡を保っていた。

 されど夏の終わり、秋の訪れを感じる時期。業火の華が咲き乱れる頃……。

 木を司る聖霊は『花香』火を司る聖霊は『火焔』のみ、思いのままに愛し合う事が許された。それは、天界でも地上でも、紅蓮の華の群生が息吹き、
紅き華が咲き誇り、その炎が消える瞬間まで。

 五聖は永遠に、宇宙の均衡を保ち続ける。それは今も、人間達の見えないところでその力を使っているのだ。

 曼珠沙華の花咲く頃。花香と火焔が愛し合う事を許される時期。今年もまもなく、その時期がやってくる。ヒグラシが鳴き始めた。夏の終わりの風に揺れる、紅蓮の炎の華の群れ……。

…カナカナカナカナカナ…
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