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第六話

え? 初デートは異世界で?・その五

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「えー? 何で? そんなの別にストーカーになる訳じゃないし、ファンになるのなんか勝手じゃん……」
「そりゃ蕾みたいな可愛い子からなら、相手も大歓迎だろうけどさ……」
「何でそうやっていつも卑下すんの?」

(はぁ? 何ソレ? 自分が可愛いからってその余裕の上から発言。だから悪役令嬢に目をつけられたりするんだっつーの!)
「つーか、それはブスにしか分からない心情だから話す必要無ーし! それに、生身の男にゃ興味ないんだわ、私は。さて、ハウスに行こうかな」
「お姉ちゃん……」

 席を立つ薔子。蕾は寂しそうに姉を見上げる。

「あ、蕾。あんた悪役令嬢……じゃなかったえーと、京香? だったかな。ちょい目をつけられてるみたいよ。まぁ、やっかみだろうけど、一応、謙虚さを心がけなさいね? 逆恨みは厄介だし、女の敵は女って。昔からよく言うじゃない?」

 やや冷たくそう伝えると、薔子は足早にその場を後にした。その手にはしっかりとナプキンに包んだアップルパイを持って。

(あーぁ、私って嫌な子。せめて心までブスにはならないよう気を付けてたのにさ)

 もやもやと自己嫌悪に陥りながら。

  第二第三土曜日は、午前中で授業が終わる。その後は部活に励むもの、友達とランチに励むもの、とほぼ半々に分かれる。

「ごきげんよう」
「ごきげんよう」

 挨拶を交わし、薔子は教室を後にした。

(さーて、家に帰って着替えてから出かけようかな)

 心が弾む。明日は志門とのデートだからだ。しかも場所は異世界。未知の体験にワクワクした。

(どうしよっかなー。ランチは家で食べれば節約になるけど、せっかくだから外で食べてもいいかな)

 何となく、明日のデートに着ていく服を探したくなったのだ。予算と好みが一致したら買おう、そう思っていた。今持っている服が、どれも黒か紺、ブラウンやグレーなどの無難なものが多い事に気づいたのは、つい昨日の夜の事だった。

(異世界デート、しかもあり得ない美形と。これって最初で最後かもしれないから、思い切って楽しんでみた方がいいよねぇ。あれよ、体感型ゲームみたいな感じでさぁ)

 着ていく服を選ぼうと洋服ダンスを開ける。

「……うわっ、およそデート、て服が一枚も無いし……」

 愕然とした。そしてすぐに納得する。

(そうりゃそうだよね。今までモブキャラ喪女としての部をわきまえた服装を意識してきたし、パステル系の明るい色なんか似合わないし……。なんか買ってみるかなぁ、ちょっとしたイメージチェンジというか)

 自分でも無意識の内に、日曜日のデートを楽しみにしていた。もうすっかり、姉と妹との会話で感じた複雑な気持ちさえ忘れ去るほどに。

  結局、ランチは自宅で食べる事にした。帰宅してみると、ランチは好物の一つであるラザニアとコンソメスープ、わさび菜のサラダであると判明したからである。早速した舌鼓をうち、少し休んだ後に出掛けた。服装はいつも出掛ける時と同じように、紺色のデニムに白のセーター、黒のコートに黒のスニーカー、黒のトートバッグである。

 自宅最寄りから五つ目の駅をおりると、わりと大きなショッピングモールがあるのだ。結構手頃な価格で流行りのファッションが手に入る為、学生たちを始め様々な年齢層がよく利用している。薔子はたまにモール内にあるホームセンターや花屋に来て、花やハーブを眺めたり、オベリスクやウッドデッキに使用する木材等を見たりしていた。そして庭師になった自分を空想して楽しむのだ。更に、ここには大きな本屋もあり、そこで色々な本を見たりするのも好きだった。かなり珍しい本もあるので、それを見つけるのが楽しかった。そして鉱物のお店もあり、そこで石を眺めるのも楽しみの一つだ。

 本屋にしても花屋にしても、少しマニアックな分野の場所にいるせいか、クラスメイトや知り合いに会う事はほとんどなかった。だが……。

 (うわー、あの三人組は同じクラスの子じゃない。なるべく会いたくないなぁ。ていうかあそこのカップルは隣のクラスの……)

 着いてすぐに、十代向けのファッションの店が並ぶ場所へ行ってみて愕然とした。そして漸く、今まで知り合いに殆ど会わなかった事が奇跡だった事に気付いた。別にコソコソする必要もないのだが、私服姿でキラキラとしたリア充に見える彼らを見ると気後れがしたのだ。

(まぁ、隠れる必要もないしねぇ。目が合ったら挨拶だけすればいいし……)

 取りあえず、彼女たちの姿が見えない別の店に入ってみた。
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