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第二十話

恵茉、新しい仕事を覚える・その三

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「えー?タロットって透視するみたいに過去や現在を当てたり、予言みたいに未来を予測するものじゃないのーーー?」

 恵茉は驚きの声を上げた。

「ああ。人間の占い師は、さも霊感霊視透視みたいに謳ってるがな。その教科書に書かれているのは、タロットを作らせた人間がタロットの示す意味を書いたもんだ。よく見て見ろ。予言、透視、霊視の道具などと、一言も書いて無いだろう?」

 とアミ―は教科書を指さす。恵茉はペラペラとページをめくり、ざっと見てみると

「……そうねぇ。一枚一枚、絵の意味が書いてあるだけねぇ」

 考えながら答える。

「じゃぁ、どうしてさも予言とか透視できるみたいに言うのかしら?彼の気持ちを当てます、とか。ツインソウルを導き出す、とか」

 考え込みながら、恵茉は質問した。

「ま、一言で言えば、集客だろ。飛びつきやすいんだ。悩める子羊……いや、我々は魔族だから子山羊、としとくが。悩める子山羊どもがな」

 とニヤニヤするアミ―。

「えー?なんかそれってさぁ、いいの?そんな事して」

 恵茉は少し憤慨している様子だ。だが、アミ―は至って冷静である。

「生きる為の知恵だろう。見て貰う方も、それが気休めな事も承知で依頼する事も少なく無い。需要と供給。これで成立しているんだ」

 と静かに答えた。

「なるほど。占いだもんね、でもさぁ、中には真面目に真摯に誠実に占いしてる人もいるんじゃないの?可哀想じゃん。その人もそう思われたらさ。だって、占い師が予言した夢はいつか覚めるじゃん、
その時に色々気付くじゃない。夢みせられただけだった、て」

 半ば怒り気味で問いかける。

「ま、そこが人間の我儘自己中極まりないところさ。都合が悪くなると、自らが選択した癖に人や周りのせいにして、被害者ぶる、てやつさ。ま、そんな奴らばかりじゃないがな。概ね、そんな傾向が高い、て話さ」

 と冷たい笑みを浮かべた。

…ゾクッ…

 背筋が冷たくなりつつ、やはり魔族なんだな、と実感する恵茉。

「真面目に真摯に誠実に取り組んでいる占い師、少ないが確かにいるな。彼らは、日の目を浴びにくい。気休めや夢見る夢子な話はしないからだ。客に逆切れされたり、某掲示板に悪口雑言書き込まれたりな。ま、本当に書かれても仕方ない占い師もいるが。そんな中、馬鹿馬鹿しくなって占い師を辞めたり。また、自身も不思議な力を持つかのように謳い始めるやつもいる。わかりやすく言えば、闇に堕ちた、てとこか。それでもブレずに自らの鑑定スタイルを貫く占い師は、誰が何を言おうが気にせずに貫き通すさ。つまり、人気や金などに関心が無くなるんだ。日の目を浴びようが日影だろうが、関係ないんだ。そう言う奴は。我々悪魔が苦手なタイプだ。だから我らはまず近づかない。少ないが、いるにはいる」

 とアミーは締めくくる。

「そうか。それが『自分軸』な生き方、
てやつなのね」

 恵茉は納得したように、目を輝かせる。

「ま、そう言う事だ」

 とアミーは肩をすくめた。そして

「そろそろ客が来る。上から見てろ」

 と指示した。恵茉は目を閉じ、天井に浮いているイメージをする。するとフワリ、と浮き上がった。

「わー、浮いた! 出来た! ね、見てみて、ベリアル!」

 恵茉は興奮してベリアルを呼ぶ。ベリアルは恵茉の正面に瞬間移動すると、

「よく頑張った。偉いぞ」

 と右手で優しく頭を撫でた。嬉しそうにベリアルを見上げる恵茉。その様子を下から見ていたアミーは

(へぇ?あのベリアルがなぁ。あんな優しい顔するのかぁ。ビックリだ)

 と、心をベリアルに読まれぬようにガードしつつ
感心していた。ベリアルは不意に真面目な表情になると

「恵茉、俺は今日は別の仕事が入っている。
終わる頃、迎えに来る」

 と言うと、

「アミー、すまんが恵茉を頼む」

 と声をかけた。

「あぁ、任せな」

 とアミーは右手を軽く挙げて答える。それを見ると、ベリアルは彼に軽く頭を下げ、消えた。少し心細そうな様子で、ベリアルを見送る恵茉。

「さて、人間が来る」

 とアミーは恵茉に声をかけると、ドアを開け、玄関の方に向かった。慌てて彼を追いかけようと、空中でジタバタする恵茉。目を閉じて、スムーズに彼の後を舞える自分を思い浮かべた。すると、ふわっと自然に彼の後を追っているではないか!

「イメージするだけで良い」

 漸くその意味が理解出来たのだった。
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