天使と悪魔の新解釈「見習い悪魔は笛を吹けるか?」

大和撫子

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第二十三話

哲学思考! 恵茉、何故人は生まれるのか? を考える・序章

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 男は溜息をついた。

「……ダメか……。そりゃそうだ。事前に連絡来る筈だもの。音沙汰無し、て事はそういう事だ」

 と呟くと自嘲する。そしてパソコンの画面を閉じた。男が食い入るように見つめていた画面は、狭間文学賞の発表画面だった。挑戦し続けて3年。発表画面を見る度、書くのを辞めようか、と何度も脳裏を過ぎる。けれども結局、辞める事など出来はしなかった。

 男はただ、書く事が好きだった。物心ついた時からずっと、自らが思い付いた物語を書き綴る。現在に至るまで、唯一続いている趣味だった。いや、書く事以外の趣味は、皆無と言って良いに等しい。男は現在34歳。身長は176cm程だろうか。かなりの痩せ型だ。鋭い目つき、日焼けした肌。短くカットされた黒髪。何となく野生の狼を思わせる。

「俺の人生、何なんだろうな。神も仏も居ない。いるのは悪鬼と悪魔のみ。仮に神が居たとしても、随分と気分屋でえこひいきする奴らだ。なんてな、人間が1番の悪か」

 男はぼんやりと過去を振り返った。この男の名は、堀内太平ほりうちたへい親によると、『天下太平』から取ったらしい。平和に、のんびりと我が道を生きるようにと。

「何が天下太平だよ」

 男は再び自嘲した。



~・~・~・~・~・~


「うわぁ、何コレ?」

 恵茉はベリアルか渡された資料を見て辟易していた。夕方6時過ぎ。今日もスーパーで人間達に食品添加物をすすめた後、ノルマを達成したので帰宅。恵茉の部屋のリビングにいる。占いの鑑定実践とかで、実際にあった鑑定例を元に例題がいくつも書かれた資料を渡されたのだ。その数が予想以上に多く、恵茉はげんなりしていた。

「アミーからの伝言だ。毎日少しずつ続けろ。鑑定の正確さだけでなく、表現、伝え方もチェックするそうだ」

 ベリアルは、アミーから頼まれた伝言をそのまま伝えた。

「終わった物は、『アミー、終わったよ。チェック宜しく』と声に出して言えば、アミーの元に瞬間移動するし、チェックされたものは、こっちのリビングのテーブルに瞬間移動で届く。追加質問があれば、鑑定ノートに書いておけば答える、との事だ。鑑定内容は、自分で考えて占っても良い、て言ってたぞ」

 恵茉は、ウヘェ、と言いつつも何だか嬉しそうだ。占いが嫌いでは無いのだろう。実際、恵茉は生まれて初めて
充実感を味わっていた。誰かと繋がっている感じ。自分はここに居て良いのだ、と言う安心感に満たされていた。

 人間でいた時は無縁だった感情だ。『マズローの欲求五段階説によれば、下から『生理的欲求』『安全欲求』
『所属・愛情欲求』『承認欲求』『自己実現欲求』のうち、『所属・愛情欲求』が満たされた状態と言えそうだ。

 ……尤も、今現在ではこの説は最近では批判が多く、過去にこんな説もありました、くらいの扱いになっているらしいが。

「分かったわ。頑張ってみる!」

 恵茉はベリアルに笑顔で答えた。



~・~・~・~・~・~


 太平は、堀内家の長男として生まれた。二つ年の離れた弟、三つ年の離れた妹がいる。彼が高校に入学した時までは、家族は平和だった。少なくとも、太平の目にはそう見えた。16歳の誕生日を迎えた翌日、父親や行方を眩ました。

 母親と子供たちに残されたのは、多額の借金だった。父親は、親友の連帯保証人になっていたらしい。親友はある日姿を消してしまい、それを知った父親も姿を消した。つまり、借金返済を放棄したのだ。母親は朝も昼も夜も必死で働いた。太平も、母親や周囲の反対を押し切って高校を中退。働き始めた。少ない給料ながらも、学費で母親の稼いだ金を吸い尽くすよりは、ほんの少しでも母親を助けたかった。そして、弟と妹には、せめて高校くらいは出してやりたかった。

 それ以来、脇目もふらずただただ必死で働いてきた。借金返済の目処も立ち、贅沢は出来ないが、漸く一息つけたのはごく最近だ。気付けば弟も妹も結婚していた。母親も、再婚していた。独りは自分だけだった。

 別に誰も恨んでなど居ないが、ただ虚しさだけが残った。

 そんな太平の唯一の楽しみが、小説を書く事だった。物書きなら、一度は憧れるであろう『狭間文学賞』。彼が目指しても、何ら不思議な事ではあるまい。近年ではブログや小説投稿サイト等、無料で小説が書ける便利な時代だ。太平も漏れなく利用していた。

「今日も閲覧者無しか……」

 パソコンの画面を眺め、太平は苦笑した。ただ好きで小説を書き綴っているだけなので別段、読まれなくともそう気にはならない。だが、たまには一人くらい読んだ人いるかなと、僅かな期待を含んで思う時もある。サイト内の作家同士の交流をはかったりして、お互いに読み合ったり、意見交換などをしたりして相互で閲覧数を増やす。
そんなやり方もあるにはある事も知ってはいた。それを別段否定はしない。

 だが、自分がそれをやろうとは微塵も思わなかった。そこまでして、読まれなくても良い。という思いと、正直にいえば、人との関わりは面倒だったのだ。

 太平は小説の続きを書き始めた。
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