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第二十四話
ある男と堕天使の攻防・その一
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~・~・~・~・~・~
「今回のターゲットはコイツか」
直径約30cm程の水晶玉に映し出されたものを見て、男は呟いた。甘くソフトな声色が、室内に響く。そこは6畳程の薄暗い部屋だ。小さな窓はあるにはあるが、閉め切られており、換気の意味をなさない。僅かに差し込む外の光。部屋には、中央に置かれた黒水晶で作られた丸テーブル。その上に、銀の台に載った水晶玉。水晶玉を囲うように並ぶ6本の蝋燭。男は黒水晶で出来た椅子に座り、その水晶玉を眺めていた。
蝋燭の灯りを反射し、男の翡翠を思わせる柔らかな緑色の瞳が妖しげに揺らめく。そして大理石のような白い肌が、暗闇に仄かに浮かび上がる。蝋燭の灯りは、男の端麗な顔立ちを浮き彫りにさせた。鮮やかな朱色の髪はサラサラのストレートで、少し長めのショートカットにされている。淡いレモン色のローブをサラリと着こなした男の腰には、朱色の剣が差されていた。
男は一見すると、天使かと見紛う程の明るさと柔らかさを持つ。だが、男の背にはコウモリのような錆色の翼が生えていた。この男の名は……
「アステマの旦那、何やら手強そうな人間じゃないスか?」
傍らにいた小柄の男が、彼の名を呼び問いかける。この男は全身の肌が青。一目で鬼だとわかる。大きな黒い瞳が顔の中央に一つ。額に20cm程の黒の角が一本生えていた。背中には小さな黒い羽が生えている。服は、黒いボクサーパンツのようなものを身に付けているのみだ。
「遣り甲斐あるじゃないか。いくよ、佐吉」
アステマはニヤリと笑うと傍らの男に声をかけ、立ち上がる。
「へいへい」
男が答えると同時に、二体は消えた。
~・~・~・~・~・~
『お前は本当は才能があるんだ!選ぶ側に、見る目が無いだけで。強運と名声そして地位の金、欲しくないか?』
背後から、闇の塊が語りかける。まるで地獄の底から響いてくるような不気味な声だ。
「……そ、それはつまり、今のままだと日陰のまま、と言う事か?」
恐怖と戦いつつ、太平は必死に声をあげる。
『……まぁ、日の目を当たる確率のが少ないわな。お前は元々、そういう宿命の元に生まれて来たんだ。万が一ここでお前の小説が大ヒット何ぞしたら……。お前が持つ一生分の運気を使い果たす事になる訳だ』
闇の塊が答える。
「そうなったら、俺は……俺はどうなる?」
太平はすかさず問う。恐怖で全身が冷や汗でビッショリだ。
『……そうなったら、廃人か…突然死か、不慮の事故でお陀仏か、のどれかだな』
闇はふっふっふっふっふ、と意味有り気に笑った。闇は尚も語りかける。
『どうだ? 俺達と契約すれば、お前の作品は全て大ヒット大ブレイクだ! それは、お前が満足するまで続く。
お前の本当の力を、世間に見せつけてやれ! そしたら、金も女も思いのままだ!』
「………俺は、俺は……女なんぞに興味は無い! 第一、お前達は何者なんだ!!! 少なくとも、光の者じゃないだろう?」
太平は切り返す。
……ここで、yesと言ったら、コイツの思うツボだ……
直観的にそう感じたのだ。
『まぁ、女が駄目なら男でもその中間でも動物でも人形でもいいが。断ったら後悔するぜ?さすが物書きだ。大した直観力だ。お察しの通り、俺達は闇に属する魔族さ。光側なんて、それこそ神の意思の元でしか動かん。言わば神の傀儡に過ぎない。その神も、実にいい加減なもんだ。それはお前もよく知ってる筈だろう? 神がまともで慈愛に満ちてるなら、お前の人生もうとっくに報われても良い頃だろうに』
闇は全く動じず、余裕で太平の痛いところをついてくる。
……神はいい加減で適当に生きている人間に、幸運というギフトを与えている。真面目にコツコツ努力しているヤツが報われないのはおかしい……
幾度となく感じてきた事だった。
『まぁ、返事はゆっくりで良いさ。またな!』
「わーーーーーーーっ」
太平は飛び起きた。一瞬、自分がどこにいるのか分からない。全身汗でビッショリだ。
「ゆ、夢か……」
安堵のため息をついた。どうやら小説を描きながら、寝入ってしまったらしい。
「今回のターゲットはコイツか」
直径約30cm程の水晶玉に映し出されたものを見て、男は呟いた。甘くソフトな声色が、室内に響く。そこは6畳程の薄暗い部屋だ。小さな窓はあるにはあるが、閉め切られており、換気の意味をなさない。僅かに差し込む外の光。部屋には、中央に置かれた黒水晶で作られた丸テーブル。その上に、銀の台に載った水晶玉。水晶玉を囲うように並ぶ6本の蝋燭。男は黒水晶で出来た椅子に座り、その水晶玉を眺めていた。
蝋燭の灯りを反射し、男の翡翠を思わせる柔らかな緑色の瞳が妖しげに揺らめく。そして大理石のような白い肌が、暗闇に仄かに浮かび上がる。蝋燭の灯りは、男の端麗な顔立ちを浮き彫りにさせた。鮮やかな朱色の髪はサラサラのストレートで、少し長めのショートカットにされている。淡いレモン色のローブをサラリと着こなした男の腰には、朱色の剣が差されていた。
男は一見すると、天使かと見紛う程の明るさと柔らかさを持つ。だが、男の背にはコウモリのような錆色の翼が生えていた。この男の名は……
「アステマの旦那、何やら手強そうな人間じゃないスか?」
傍らにいた小柄の男が、彼の名を呼び問いかける。この男は全身の肌が青。一目で鬼だとわかる。大きな黒い瞳が顔の中央に一つ。額に20cm程の黒の角が一本生えていた。背中には小さな黒い羽が生えている。服は、黒いボクサーパンツのようなものを身に付けているのみだ。
「遣り甲斐あるじゃないか。いくよ、佐吉」
アステマはニヤリと笑うと傍らの男に声をかけ、立ち上がる。
「へいへい」
男が答えると同時に、二体は消えた。
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背後から、闇の塊が語りかける。まるで地獄の底から響いてくるような不気味な声だ。
「……そ、それはつまり、今のままだと日陰のまま、と言う事か?」
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『……まぁ、日の目を当たる確率のが少ないわな。お前は元々、そういう宿命の元に生まれて来たんだ。万が一ここでお前の小説が大ヒット何ぞしたら……。お前が持つ一生分の運気を使い果たす事になる訳だ』
闇の塊が答える。
「そうなったら、俺は……俺はどうなる?」
太平はすかさず問う。恐怖で全身が冷や汗でビッショリだ。
『……そうなったら、廃人か…突然死か、不慮の事故でお陀仏か、のどれかだな』
闇はふっふっふっふっふ、と意味有り気に笑った。闇は尚も語りかける。
『どうだ? 俺達と契約すれば、お前の作品は全て大ヒット大ブレイクだ! それは、お前が満足するまで続く。
お前の本当の力を、世間に見せつけてやれ! そしたら、金も女も思いのままだ!』
「………俺は、俺は……女なんぞに興味は無い! 第一、お前達は何者なんだ!!! 少なくとも、光の者じゃないだろう?」
太平は切り返す。
……ここで、yesと言ったら、コイツの思うツボだ……
直観的にそう感じたのだ。
『まぁ、女が駄目なら男でもその中間でも動物でも人形でもいいが。断ったら後悔するぜ?さすが物書きだ。大した直観力だ。お察しの通り、俺達は闇に属する魔族さ。光側なんて、それこそ神の意思の元でしか動かん。言わば神の傀儡に過ぎない。その神も、実にいい加減なもんだ。それはお前もよく知ってる筈だろう? 神がまともで慈愛に満ちてるなら、お前の人生もうとっくに報われても良い頃だろうに』
闇は全く動じず、余裕で太平の痛いところをついてくる。
……神はいい加減で適当に生きている人間に、幸運というギフトを与えている。真面目にコツコツ努力しているヤツが報われないのはおかしい……
幾度となく感じてきた事だった。
『まぁ、返事はゆっくりで良いさ。またな!』
「わーーーーーーーっ」
太平は飛び起きた。一瞬、自分がどこにいるのか分からない。全身汗でビッショリだ。
「ゆ、夢か……」
安堵のため息をついた。どうやら小説を描きながら、寝入ってしまったらしい。
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