天使と悪魔の新解釈「見習い悪魔は笛を吹けるか?」

大和撫子

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第二十六話

ある男と堕天使の攻防・その四

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「……なんだぁ、そっかぁ。タロットって奥が深いのねぇ」

 恵茉はアミーからの回答を見て、思わず声をあげた。

『人は何故生まれるか?「死ぬ為」確かにな。人間、生まれたからには必ず死ぬ。それは、すべての生物に唯一与えられた平等のものだろう。では、死んでしまうのに何故人は生きるのか? ベリアルが言ったように、お前の質問自体が「哲学的思考」だ、とタロットは言っているのと、後は、その質問はもう少しよく考えてみよ、と言っている。もしかしたら、人は何故生きるのか? をタロットで引いたら、人によってこたえが違う可能性もある。タロットは宗教では無い。神でも無い。ただ、シンプルに冷静な第三者目線でこたえを示すだけだ。そこに、こうしなさい、それはダメ、などと指示、善悪を示すものでは無い。意味づけし、一喜一憂するのは人間だけだ。占い師は、常に第三者目線でいること。これ、大事だぞ。人は何故に生きるのか?もう少し時間を経て、こたえが見つかりそうだ。「隠者」が出る時は、時間がかかる時が少なくない。引き続き、検証してみろ』

 との事だった。

「はーい。ま、仕方ないわよね。その内、仲良くなる魔族とか、妖とか。誰かに引いて貰ったりしたら、面白い結果が出るかも!」

 と呟くと、仕事にいく準備を始めた。今日は珍しく、別の場所である『本』を勧めるらしい。なんだかんだと、日々の仕事は魔族生産レトルト食品を勧める、こればかりだ。

「食」が、人間の体を作りあげる。堕落した人間を増やし、自滅に導くにはかなり重要な事らしい。人間だった頃は、意識せずに平気でレトルト食品を食べていた。両親が共働きだったせいもあり、かなり頻繁に利用していた。
人間は食べ物で出来ている。何を食べたかによって作られる。言われてみれば当たり前だ。けれども何かと忙しい昨今。体に良くないとわかってはいても、食品添加物多量摂取する人間は増えていく。何より安いし、簡単。経費削減。生産する側にもメリット満載なのだ。けれども、レトルト食品を多用しても健康で健全な思考の人間もいる事は確かだ。タロットの『隠者』ではないが、全てを十把一絡げにして考えるのは非常に危険な事である。

「そういや、ルーン。これもやってはみてるけど今ひとつ分からないのよね」

 恵茉は溜息をついた。

「アステマの旦那、やっぱりあの人間、手強そうじゃないですかい? もう6回も、無防備に無意識を洗脳できる睡眠中に囁いてるのに、まだなびきませんぜ」

 佐吉は心の底から辟易したように訴えかける。

「それだけの精神力だ。こちら側に引き入れれば、魔族としてもさぞや優秀な働きをするだろう。利用するだけ利用したら、廃人になる人間が多い中この男は貴重だ。是非とも堕としたい。この男がウトウトした時もチャンスだ。さ、行くよ!」

 アステマは冷たい笑みを浮かべ、佐吉を促した。二体は消えた。


~・~・・~・~・~・~・~


「へぇ?『潜在意識を自在に操って、他人と自分の人生を支配する本』随分と長いタイトルねぇ。しかもなんか妖しげ」

 恵茉は半ば呆れたようにして本の中を開いた。

「この作家さんは、悪魔と契約して書いたの?」

 素朴な疑問を投げかける。

「あぁ、そうだ。ヒットさせる事を条件にな。担当の魔族が、インスピレーションという形で、コイツにテレパシーを送り書かせたのさ」

 ベリアルはニヤリと笑う。

「……あー、あとがきに書いてあるわ。『突然閃き、インスピレーションがおりてくる感じで。情熱の赴くままに書きあげました。書いている時の記憶がほとんど無いのです。まさにこれは、神が私という体を使って書かせた。
そう確信しています』だって。色んな手を使って闇へ誘うのねぇ」

 恵茉は感心したように言った。

「さて、今日の仕事はレトルト食品を勧めるより難しいかもしれん。やり方は一緒だが、占い本や精神世界のコーナーにいる人間に囁きかけるんだ。大抵は、このコーナーにいる人間は洗脳しやすいからな。自分の人生に奇跡を起こしくて本を手に取る人間が多いからだ。囁き方は任せるが、まずはその人間を褒め称え、これまで生きて来た事全てを肯定する。そして自分や他人の人生を操り、望む未来へと進もうじゃないか? と誘惑する。お前が洗脳を成功した人間を、俺が引き受け、本を購入させ、契約まで誘導する。そんな手順だ」

 と簡単に説明をした。恵茉とベリアルは、都内の老舗の書店の上空にいる。そこはビル全体が書店なのだ。恵茉は珍しく、べリアルに抱えられておらず、しっかりと空中に立っている。

「ふーん。何となくは理解出来た。やっていく内にコツが掴めるかもしれないしね」

 と恵茉は笑った。そして二人は消えた。
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