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第二十九話
恵茉、人は何故生まれるのか? 一つの結論に達する!・前編
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恵茉が落ち着いて来たのを見計らって、ベリアルはアステマの方を見る。彼は眠っている太平を前に、佐吉と苦笑していた。
「その……済まなかったな。邪魔しちまって」
罰が悪そうに謝罪の言葉を口にするベリアル。アステマは意外そうに目を見張った。
「こら、お前も謝れ」
自分のみぞおちあたりに顔を埋め、泣いている恵茉を促す。だがその声は、優しさに満ちていた。
「ヒック、クスン……」
恵茉は泣き腫らした顔を上げるとそっとベリアルから離れ、アステマ達に向き合う。
「あの、アステマさん佐吉さん、ご免なさいでした」
と素直に謝罪し、ペコリと頭を下げる。そしてさり気なくベリアルの背中に隠れた。その様子を穏やかに見つめていたアステマは、フフッと微かに笑うと
「いいよ。謝ることない。むしろ、こちらこそ有り難う、だよ」
と切り出した。そっと、ベリアルの背中から顔を覗かせる恵茉。
「恵茉ちゃん、お手柄だったね。だけど、無茶はダメだよ。ベリアルも心配するしね」
と右目を軽く閉じ、ウィンクした。恵茉はポッと照れて赤くなりつつ
「あ、いえ、そんな」
と慌てて頭を下げた。そして再びベリアルの背に隠れた。
「……コイツが自害でもしたら、始末書と降格処分だけじゃ済まなかったよ。つい、意地になっちまった。閻魔大王や、死神総本部の許可無く、人間を死においやったなんて大罪さ。……まだ、居たんだな。偏屈と言われるくらい、自分軸を貫けるヤツが」
アステマは静に切り出した。
「あっしもビックリしやした。こんなヤツ、大正時代以降は会った事も無かったですぜ」
と佐吉。
「僕は昭和40年が最後だったな」
アステマは遠くを見るような眼差しでベリアルを見つめた。
「俺は昭和初期までだったな」
ベリアルは答えた。しばらく、沈黙が訪れる。
「さて、コイツを部屋に送って。と。佐吉、遅れを取り戻すよ」
アステマは立ち上がる。
「あの、じゃあ……」
遠慮がちに、恵茉は問いかけた。
「あぁ。コイツからは手を引く。金輪際、関わらないよ。僕たちにまつわる記憶も全て消す。……とは言っても僅かに残った感覚で、この一連の事を小説に書きそうだけどね、コイツは」
アステマは恵茉に微笑んだ。
「ベリアル、恵茉ちゃん。またゆっくり会おう。じゃ、またね」
と軽く右手を上げ、
「行くよ、佐吉」
と促し、佐吉は太平を担ぎ上げる。そして二人は消えた。
「スゴイわ。悪魔の誘いに乗らない人間もいるのね。私なら、『才能を授ける』なーんて言われたら、すぐに乗っちゃいそうだもん」
恵茉は瞳をキラキラさせて、ウットリと天井を見つめる。あれからすぐに、ベリアルは恵茉を促し、恵茉の部屋に帰宅した。二人は今、リビングのソファーに向かい合って座っている。
「お前は何故、才能と言う言葉に飛びつくのだ?」
ベリアルは静かに問いかける。
「そりゃ、誰だって頑張ったら頑張っただけ多くの人に認められたい。良い意味での注目を浴びたい、てほとんどの人が思うでしょうよ!」
恵茉は当然でしょ、と言うように答える。
「その『他人からの称賛・評価』が、自分を見失いがちの原因。これ、分かるか?」
ベリアルは至極真面目に問いかける。
「……うん。つまり、自分がどうしたいか。『自分軸』じゃなくて、周りがどう思うか、で生き方の基準を決める『他人軸』な生き方でしょ?でもこれ、プロの作家とか画家とかアイドルとか、器用にこの『他人軸』で上手く行ける人が、成功するんじゃないの?」
不思議そうに問いかける恵茉。
「まぁな。だけど一時的にヒットして忘れ去られていく者、自分を見失って運命に翻弄されてしまうものも少なく無いだろう?『自分軸』と『他人軸』を器用に使い分け、切り変えられる奴は良いが、ほとんどが自分を見失いちだ。この『他人軸』程恣意的なものは無い。他人は気分で持ち上げてみたり、批判してみたりするからな」
淡々と話すベリアル。
「その……済まなかったな。邪魔しちまって」
罰が悪そうに謝罪の言葉を口にするベリアル。アステマは意外そうに目を見張った。
「こら、お前も謝れ」
自分のみぞおちあたりに顔を埋め、泣いている恵茉を促す。だがその声は、優しさに満ちていた。
「ヒック、クスン……」
恵茉は泣き腫らした顔を上げるとそっとベリアルから離れ、アステマ達に向き合う。
「あの、アステマさん佐吉さん、ご免なさいでした」
と素直に謝罪し、ペコリと頭を下げる。そしてさり気なくベリアルの背中に隠れた。その様子を穏やかに見つめていたアステマは、フフッと微かに笑うと
「いいよ。謝ることない。むしろ、こちらこそ有り難う、だよ」
と切り出した。そっと、ベリアルの背中から顔を覗かせる恵茉。
「恵茉ちゃん、お手柄だったね。だけど、無茶はダメだよ。ベリアルも心配するしね」
と右目を軽く閉じ、ウィンクした。恵茉はポッと照れて赤くなりつつ
「あ、いえ、そんな」
と慌てて頭を下げた。そして再びベリアルの背に隠れた。
「……コイツが自害でもしたら、始末書と降格処分だけじゃ済まなかったよ。つい、意地になっちまった。閻魔大王や、死神総本部の許可無く、人間を死においやったなんて大罪さ。……まだ、居たんだな。偏屈と言われるくらい、自分軸を貫けるヤツが」
アステマは静に切り出した。
「あっしもビックリしやした。こんなヤツ、大正時代以降は会った事も無かったですぜ」
と佐吉。
「僕は昭和40年が最後だったな」
アステマは遠くを見るような眼差しでベリアルを見つめた。
「俺は昭和初期までだったな」
ベリアルは答えた。しばらく、沈黙が訪れる。
「さて、コイツを部屋に送って。と。佐吉、遅れを取り戻すよ」
アステマは立ち上がる。
「あの、じゃあ……」
遠慮がちに、恵茉は問いかけた。
「あぁ。コイツからは手を引く。金輪際、関わらないよ。僕たちにまつわる記憶も全て消す。……とは言っても僅かに残った感覚で、この一連の事を小説に書きそうだけどね、コイツは」
アステマは恵茉に微笑んだ。
「ベリアル、恵茉ちゃん。またゆっくり会おう。じゃ、またね」
と軽く右手を上げ、
「行くよ、佐吉」
と促し、佐吉は太平を担ぎ上げる。そして二人は消えた。
「スゴイわ。悪魔の誘いに乗らない人間もいるのね。私なら、『才能を授ける』なーんて言われたら、すぐに乗っちゃいそうだもん」
恵茉は瞳をキラキラさせて、ウットリと天井を見つめる。あれからすぐに、ベリアルは恵茉を促し、恵茉の部屋に帰宅した。二人は今、リビングのソファーに向かい合って座っている。
「お前は何故、才能と言う言葉に飛びつくのだ?」
ベリアルは静かに問いかける。
「そりゃ、誰だって頑張ったら頑張っただけ多くの人に認められたい。良い意味での注目を浴びたい、てほとんどの人が思うでしょうよ!」
恵茉は当然でしょ、と言うように答える。
「その『他人からの称賛・評価』が、自分を見失いがちの原因。これ、分かるか?」
ベリアルは至極真面目に問いかける。
「……うん。つまり、自分がどうしたいか。『自分軸』じゃなくて、周りがどう思うか、で生き方の基準を決める『他人軸』な生き方でしょ?でもこれ、プロの作家とか画家とかアイドルとか、器用にこの『他人軸』で上手く行ける人が、成功するんじゃないの?」
不思議そうに問いかける恵茉。
「まぁな。だけど一時的にヒットして忘れ去られていく者、自分を見失って運命に翻弄されてしまうものも少なく無いだろう?『自分軸』と『他人軸』を器用に使い分け、切り変えられる奴は良いが、ほとんどが自分を見失いちだ。この『他人軸』程恣意的なものは無い。他人は気分で持ち上げてみたり、批判してみたりするからな」
淡々と話すベリアル。
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