天使と悪魔の新解釈「見習い悪魔は笛を吹けるか?」

大和撫子

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第三十話

いい加減な奴、狡賢い奴ほど人生上手くいくような気がするのだけど・その六

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 恵茉はいささか緊張気味にタロットをシャッフルしている。クライアントがやって来るまでにまだ時間がある為、例の『いい加減な奴、狡賢い奴ほど人生上手くいくような気がするのだけど、それってどうして?』とタロットに質問する最中なのだ。師匠であるアミーを目の前にして、さすがの恵茉も緊張するらしい。勿論アミーは金髪碧眼の美形に変化している。ちなみに、アミーにはその質問が何であるのかは伝えていない。伝えなくても占えるので差し支えないそうなのだ。

 ズバッと答えを示す特質のある『マルセイユ版タロット』の大アルカナ22枚で占うつもりらしい。タロットを切り終わった後、裏返したまま一つにまとめる。そして上から7枚目を一枚引いて表に返した。示したカードは……

「えっ? 『愚者』? どういう意味?」

 恵茉は素っ頓狂な声を上げた。

「まずはそれを見てどう感じる?」

 アミーは問う。

「うーん……」

 恵茉は言っても良いのかなぁ、と迷う。

「取りあえず思ったままを言ってみれば良いさ」

 アミーは穏やかにそう言って笑みを浮かべた。

「うーん。愚者を見た瞬間ね、『バーカ』て言われた気がした」

 遠慮がちに恵茉は答える。

「それで、他にはどう感じた?」
「『そんな事いちいち聞かないと分からないのか? 答え知ってるだろう?』て感じたかな」
「なるほど。ま、その通りだろうな」

 アミーはサラリと答える。

「えっ? えーーーー? そうなの?」

 驚いたのは恵茉だ。目を大きく見開いてアミーを見つめる。

「あぁ。慣れてくるとタロットと会話しているように占えるんだ。そうなると楽しいぞ。タロットは言語を持たないと友人さ。異世界の友人とか、宇宙人でも良い。その友達の事を、占い師は通訳してクライアントに伝えるんだ」
「へぇ? じゃぁ、『バーカ』なんて言われるほどタロットと親しくなってきた、と思って良いの?」
「あぁ、そういう事だ。ちなみに、薄々その質問のこたえは分かっていたんだろう?」
「うん、そうなんだよね」
「やはりな。じゃぁ、その狡賢い人たちを見て理不尽に感じたりイライラした時はどうしたら良い? と質問してみろ」

 恵茉はコクンと頷くと、『愚者のカード』を束に戻し、シャッフルを始めた。一連の動作を済ませ、7枚目を引いて裏返しにする。示したカードは、

「あ、『女教皇』だ……」
「どう感じた?」
「『女教皇』は数秘術の『2』、境界線っとか別離、理屈抜きで好きか嫌いか、感じる事、だから……うーんとね、『人は人、自分は自分』て伝えてる気がする」

 恵茉は目を輝かせた。

(そうか、やっぱり『自分軸』で生きる事か。そっか。思ったまんまで良かったんだ)

 俯に落ちた気がした。

「その通りだ。俺は質問内容を聞いていないが、聞かない事で主観が入らないからそのままタロットの意味純粋に通訳しやすくなるんだ。だから、自分にとって近しい者、親しい者を占う時にも適している場合もある。あとは悩みを言いたくないクライエントとの時とかな」
「あー、当たるかどうか試そうと占い師を品定めするクライエントかぁ。あと、悩みは言いたくないけどアドバイスだけほしがるクレクレの人」
「おいおい、お客だぞ?」
「うん、だからここだけの話」

 恵茉は笑った。ベリアルが急に予定を変更したのは気になったが、不安なら本人に直接聞くか、こっそりタロットで占ってみよう、そう思った。

「さて、そろそろクライアントを迎える準備をするか」
「はい!」

 恵茉は元気よく返事をし、すっくと立ち上がった。
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