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第十三話
初の手作りアイテム販売~天使の石が必要な時~・中編
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あぁ、緊張する……。開店時間の九時まであと二十数分。今日初めて、この『水琴窟と天然石の館』でスタッフとして立つのだ。教えて貰った事を復習する。
えーと、水木が定休日、九時から二十時まで。オーダーやセラピー、占いの最終受付は十九時まで。レジ操作はバイト先と結構似ていたから助かったな。後は……占いコーナーはブロンズの地に松の木と薄紅色と白の牡丹が描かれた屏風で仕切って個室風にして貰ってあるし。タロットクロスを敷いてカードの準備は万端。料金は五分税込み五百円のお試し占いに、基本は二十分税込み三千円、十分延長毎に千円追加、と。
「そう緊張しなくても大丈夫よ」
紫式部さんが声をかけてくれた。
「そうそう、わりとのんびりしている方だと思うしね。
と小野小町さん。
「分からない事があれば、遠慮無く聞いて貰って大丈夫ですから」
と篁さん。
「有難うございます。厨房やホールでは全くの未経験で即戦力にはなれないので、少しでもお役に立ちたくて」
ホント、これなんだよね。
「少しずつ覚えていけば良いですよ。ご旅行中なのにこちらが急にお願いしてしまった訳ですしね」
篁さんの言葉に、
「そうそう、最初から全部出来る人なんかいないしね」
「ミスは誰にでもあるんだしね」
と、笑顔で頷く小町さんと式部さんが口々に言ってくださる。
「はい、有難うございます。小袖とか慣れないから、それもあって緊張してしまって」
「それも慣れよ、慣れ」
「その内慣れるって」
式部さんと小町さんはそう言ってくださるけど、小袖は動きにくいし重いし。何よりこの沓とやらが硬くて歩きにくいのだ。十二単とか小野小町さん、垂髪長髪の上に着ながら優雅に素早く動けて本当に凄いと思う。
そう、あたしは今、小袖とやらを着ているのだ。この館のユニフォームというやつである。十二単よりは断然小袖の方が動きやすいだろうという事で小町さんと式部さんに着せて貰った。紅に淡い紫色を重ねたもので『撫子の襲』というものだ。素敵だけど、これを着こなせるほど美人ではない。せめて雀斑は消そうとコンシーラーとベースメイクを念入りに行ったが……。
「私たちも、車やら携帯やらパソコンやら。最初は戸惑う事だらけでしたよ。エアコンは快適だけど長時間使うと具合が悪くなったりね。冥府でも、こちらと同じように近代化の波は押し寄せましてね。慣れるのに大変でしたが、パソコンのお陰で仕事は驚くほど早く捗るようになりましたよ」
「へぇ!]
冥府も近代化されているのか。それは興味深い。……まだまだ三途の川は渡りたくないど。
「開店時間になるわ。さ、立夏ちゃん、回転のボードを一緒に出しに行きましょう」
「あ! はい!」
紫式部さんについて入り口に向かう。チラリと、作って貰った占いコーナーを見た。コルクボードに『神秘のタロットカード占い』と篁さんに毛筆で書いて貰った紙を貼って、屏風の前に立て掛けてある。さすがという感じで達筆だ。今日からここが、あたしの仕事場になるのだ。
「失礼します」と軽く声をかけて紫式部さんより前に玄関の扉を開ける。式部さんに先に外に出てもらうようにして、玄関脇にしまわれてあった立て看板を両手で持った。それは木製のデッサンイーゼルのようなものがついた立て看板だ。風で飛ばされないように脚の部分に2Lの空ペットボトルに水を入れたものを二つ置く。空のペットボトルには、梅や扇が描かれた和柄の紙テープが貼られていてお洒落だ。
「この辺りに置くの。もう少し右かな、うん、そんな感じ」
式部さんに置き場所をチェックしてもらう。いよいよ、初勤務だ。木製の立て看板には、墨でこう書かれている。
「水琴窟と天然石の館へようこそ!」~Fortune House~
鼓動が高鳴ってきた。
えーと、水木が定休日、九時から二十時まで。オーダーやセラピー、占いの最終受付は十九時まで。レジ操作はバイト先と結構似ていたから助かったな。後は……占いコーナーはブロンズの地に松の木と薄紅色と白の牡丹が描かれた屏風で仕切って個室風にして貰ってあるし。タロットクロスを敷いてカードの準備は万端。料金は五分税込み五百円のお試し占いに、基本は二十分税込み三千円、十分延長毎に千円追加、と。
「そう緊張しなくても大丈夫よ」
紫式部さんが声をかけてくれた。
「そうそう、わりとのんびりしている方だと思うしね。
と小野小町さん。
「分からない事があれば、遠慮無く聞いて貰って大丈夫ですから」
と篁さん。
「有難うございます。厨房やホールでは全くの未経験で即戦力にはなれないので、少しでもお役に立ちたくて」
ホント、これなんだよね。
「少しずつ覚えていけば良いですよ。ご旅行中なのにこちらが急にお願いしてしまった訳ですしね」
篁さんの言葉に、
「そうそう、最初から全部出来る人なんかいないしね」
「ミスは誰にでもあるんだしね」
と、笑顔で頷く小町さんと式部さんが口々に言ってくださる。
「はい、有難うございます。小袖とか慣れないから、それもあって緊張してしまって」
「それも慣れよ、慣れ」
「その内慣れるって」
式部さんと小町さんはそう言ってくださるけど、小袖は動きにくいし重いし。何よりこの沓とやらが硬くて歩きにくいのだ。十二単とか小野小町さん、垂髪長髪の上に着ながら優雅に素早く動けて本当に凄いと思う。
そう、あたしは今、小袖とやらを着ているのだ。この館のユニフォームというやつである。十二単よりは断然小袖の方が動きやすいだろうという事で小町さんと式部さんに着せて貰った。紅に淡い紫色を重ねたもので『撫子の襲』というものだ。素敵だけど、これを着こなせるほど美人ではない。せめて雀斑は消そうとコンシーラーとベースメイクを念入りに行ったが……。
「私たちも、車やら携帯やらパソコンやら。最初は戸惑う事だらけでしたよ。エアコンは快適だけど長時間使うと具合が悪くなったりね。冥府でも、こちらと同じように近代化の波は押し寄せましてね。慣れるのに大変でしたが、パソコンのお陰で仕事は驚くほど早く捗るようになりましたよ」
「へぇ!]
冥府も近代化されているのか。それは興味深い。……まだまだ三途の川は渡りたくないど。
「開店時間になるわ。さ、立夏ちゃん、回転のボードを一緒に出しに行きましょう」
「あ! はい!」
紫式部さんについて入り口に向かう。チラリと、作って貰った占いコーナーを見た。コルクボードに『神秘のタロットカード占い』と篁さんに毛筆で書いて貰った紙を貼って、屏風の前に立て掛けてある。さすがという感じで達筆だ。今日からここが、あたしの仕事場になるのだ。
「失礼します」と軽く声をかけて紫式部さんより前に玄関の扉を開ける。式部さんに先に外に出てもらうようにして、玄関脇にしまわれてあった立て看板を両手で持った。それは木製のデッサンイーゼルのようなものがついた立て看板だ。風で飛ばされないように脚の部分に2Lの空ペットボトルに水を入れたものを二つ置く。空のペットボトルには、梅や扇が描かれた和柄の紙テープが貼られていてお洒落だ。
「この辺りに置くの。もう少し右かな、うん、そんな感じ」
式部さんに置き場所をチェックしてもらう。いよいよ、初勤務だ。木製の立て看板には、墨でこう書かれている。
「水琴窟と天然石の館へようこそ!」~Fortune House~
鼓動が高鳴ってきた。
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