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第壱話
其の三
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校舎より、一際見目麗しいお嬢様が歩いて参りました。「ご機嫌よう」と優雅に挨拶を交わしながら。遠目からでも、その上品な立ち振る舞いはっきりと分かります。艶やかな漆黒の髪はまるで清流のように流れ、腰のあたりまで伸ばされています。ハーフアップになさり、大きな瑠璃色のおリボンが結ばれております。鮮やかな青の地に白梅が描かれた小振袖に、紫色の袴、焦げ茶色のブーツというお姿は、まるで瑠璃色の花菖蒲のよう。
こちらに近付くにつれまして、その麗しいお顔立ちがハッキリと見えて参りましたよ。細面の輪郭に優しい三日月眉。スーッと高く通った鼻筋、まるで朝露に濡れた紅薔薇の蕾のような唇。上品な奥二重、長い睫毛は外側に緩やかなカーブを描いています。アーモンド型の美しい双眸、そのお色はキラキラとした栗色にございます。今流行りつつあります、楚々たる撫子美人の中にもハイカラな西洋的要素を含んだ美少女さんですね。
お嬢様の唇が、緩やかな弧を描きました。運転手の日下部が「お帰りなさいませ」と頭を下げます。
「ご機嫌よう、お姉様。お待たせ致しました」
なんとしっとりとした艶のあるお声でしょう。高過ぎず低過ぎず、耳に心地良く響きます。
「ご機嫌よう、瑠璃子」
朱鷺子様も笑顔でこたえられます。
「ただ今、琥珀」
瑠璃子とお呼ばれになられた美しいお嬢様は、そう言って朱鷺子様の右肩に向かって手を伸ばされ、私の頭を撫でてくださいます。
ええ、このお嬢様こそ一ノ宮瑠璃子様。朱鷺子様の二歳年下の妹君なのでございます。
朱鷺子と瑠璃子は、一ノ宮財閥の姉妹としてお生まれになりました。幼い頃から、ご令嬢としての幅広い知識や教養、マナー、望まれる人格に至るまでしっかりと教育されて来たのでございます。
現在、朱鷺子様は十五歳(※①)高等女学校三年生となられました。瑠璃子様は十三歳、高等女学校一年生でございます。
世間様のお噂では、才女でモダンな姉の朱鷺子様と、美貌で淑やかな妹の瑠璃子様、で通っておられる一ノ宮財閥の姉妹なのでございました。
おぉ! ご説明を申し上げている内に日下部が車のドアを開け、朱鷺子様、瑠璃子様の順で車内へと乗り込まれましたね。当然、私は朱鷺子様が膝の上に乗せられたおカバンの上に乗ります。程なくして、車はゆっくりと動き出しました。学校からおよそ30分ほどお車を走らせた先に、一ノ宮のお屋敷があるのでございます。
「お姉様、また裏庭で派手にやり合ったのですって?」
瑠璃子様は興味津々なご様子でお隣の朱鷺子様を見つめます。
「あら、もう噂になっているのね。ホントに、お暇な方々ですこと」
朱鷺子様は苦笑いを浮かべます。そのままお話しを続けました。
「ええ。だって薫お兄様と何とかしてお近付きになりたくて、わたくしに必死に媚びを売ってくるのですもの。わたくしの事、陰では悪口を言っている癖に。瑠璃子には言って来ないところを見ても、長女であるわたくしの権限で、何とかして薫お兄様に取り入って貰おうと画策しているのが見え見え過ぎて下品ですわよ」
薫様とは、朱鷺子様の三つ年上の二階堂伯爵家の嫡男でいらっしゃいます。一ノ宮家のお隣と、お住まいがお近くのせいか昔から家族ぐるみで親しく交流がなされておりました。幼い頃より朱鷺子様も瑠璃子様も、お兄様として親しんでらっしゃる殿方なのでございます。
(※①…作中では数え年で表記。今でいえば十四歳)
こちらに近付くにつれまして、その麗しいお顔立ちがハッキリと見えて参りましたよ。細面の輪郭に優しい三日月眉。スーッと高く通った鼻筋、まるで朝露に濡れた紅薔薇の蕾のような唇。上品な奥二重、長い睫毛は外側に緩やかなカーブを描いています。アーモンド型の美しい双眸、そのお色はキラキラとした栗色にございます。今流行りつつあります、楚々たる撫子美人の中にもハイカラな西洋的要素を含んだ美少女さんですね。
お嬢様の唇が、緩やかな弧を描きました。運転手の日下部が「お帰りなさいませ」と頭を下げます。
「ご機嫌よう、お姉様。お待たせ致しました」
なんとしっとりとした艶のあるお声でしょう。高過ぎず低過ぎず、耳に心地良く響きます。
「ご機嫌よう、瑠璃子」
朱鷺子様も笑顔でこたえられます。
「ただ今、琥珀」
瑠璃子とお呼ばれになられた美しいお嬢様は、そう言って朱鷺子様の右肩に向かって手を伸ばされ、私の頭を撫でてくださいます。
ええ、このお嬢様こそ一ノ宮瑠璃子様。朱鷺子様の二歳年下の妹君なのでございます。
朱鷺子と瑠璃子は、一ノ宮財閥の姉妹としてお生まれになりました。幼い頃から、ご令嬢としての幅広い知識や教養、マナー、望まれる人格に至るまでしっかりと教育されて来たのでございます。
現在、朱鷺子様は十五歳(※①)高等女学校三年生となられました。瑠璃子様は十三歳、高等女学校一年生でございます。
世間様のお噂では、才女でモダンな姉の朱鷺子様と、美貌で淑やかな妹の瑠璃子様、で通っておられる一ノ宮財閥の姉妹なのでございました。
おぉ! ご説明を申し上げている内に日下部が車のドアを開け、朱鷺子様、瑠璃子様の順で車内へと乗り込まれましたね。当然、私は朱鷺子様が膝の上に乗せられたおカバンの上に乗ります。程なくして、車はゆっくりと動き出しました。学校からおよそ30分ほどお車を走らせた先に、一ノ宮のお屋敷があるのでございます。
「お姉様、また裏庭で派手にやり合ったのですって?」
瑠璃子様は興味津々なご様子でお隣の朱鷺子様を見つめます。
「あら、もう噂になっているのね。ホントに、お暇な方々ですこと」
朱鷺子様は苦笑いを浮かべます。そのままお話しを続けました。
「ええ。だって薫お兄様と何とかしてお近付きになりたくて、わたくしに必死に媚びを売ってくるのですもの。わたくしの事、陰では悪口を言っている癖に。瑠璃子には言って来ないところを見ても、長女であるわたくしの権限で、何とかして薫お兄様に取り入って貰おうと画策しているのが見え見え過ぎて下品ですわよ」
薫様とは、朱鷺子様の三つ年上の二階堂伯爵家の嫡男でいらっしゃいます。一ノ宮家のお隣と、お住まいがお近くのせいか昔から家族ぐるみで親しく交流がなされておりました。幼い頃より朱鷺子様も瑠璃子様も、お兄様として親しんでらっしゃる殿方なのでございます。
(※①…作中では数え年で表記。今でいえば十四歳)
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