「大正浪漫夢奇譚」~トキメキ朱鷺色戀物語~

大和撫子

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第壱話

其の四

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 ふふふ、おほほほ……女学生たちの楽しそうな笑い声が響きます。笑い声にも気品があるように感じるのは、いずれも名家のお嬢様ばかりがお集まりになっているからでございましょう。

「……ええ、もっぱらそういうお噂ですわよ」
「有り得ますわ」
「ね、そう思いますでしょう?」

 おや、お教室の後ろの窓際の席に集まって、コソコソと内緒話をなさっている六人程のお嬢様方がいらっしゃいますよ? 他にも、校庭だったり、お教室の角だったり、裏庭だったりと、コソコソと噂話を楽しまれているお嬢様方はおりますが、こちらのグループは少し毛色が異なるようです。

 他のグループは、頬を赤らめ恥じらいと礼節を持ちながらお話を楽しまれていらっしゃるようです。殆どが、ご自身が好きな活動写真のお話や、俳優のお話などで盛り上がっていますね。

 けれどもその六人のお嬢様方は、かなり人目を気にしつつも言わずにはいられない! と言うような、どこか悪意も垣間見えます。皆様、せっかくお洒落に気を遣われても、眉間にシワを寄せてその醜い事。実に勿体ない事でございますね。

「……そうなんですのよ。あのお美しさでは、瑠璃子様の方が先に縁談が来るのは確実だと思いますの」

 おやおや?

「やっぱり皆さん、そう思いますわよねぇ」
「口には出せないですけれど、皆さんそう思ってらっしゃいますわよ。だって……朱鷺子様は、お琴も絵も、お習字も何でも色々お出来になりますし……」
「ええ、頭脳明晰で。才女でいらっしゃいますけれど……」
「立ち振る舞いはお上品ですのに……意地悪でいらっしゃる。その……」
「……お顔立ちが、残念でいらっしゃるというか……」
「……卒業面……」
「シーーーーッ、滅多な事、口走ってはいけませんわよ。先日、夕子様たちがそのお噂をしていた事が、朱鷺子様のお耳に入ってしまったらしいすわよ」
「まぁ、恐ろしいですこと! 私たちも気を付けないと……」

 ここで、お昼休み終了の鐘が鳴り響きました。さてさて、我があるじでる朱鷺子様のお噂、このようなところでまた聞いてしまうとは……。ええ、よくある事なのでございますよ。はっきり申し上げて非常に不愉快でございます。一言、

「お嬢様がた、人様の事とやかく言える程のつらとおつむをお持ちなのでしょうか?」

 と言って飛び蹴りをお見舞いしてやりたくなるのが本音でございますよ。捕まるなんてヘマは致しませんしね。けれども、モモンガを飼い馴らすなどまだまだ珍しいこの時代、すぐに飼い主がバレてしまいます。ですからそのような事をすれば朱鷺子様に多大なご迷惑をかけてしまいます故、じっと耐え忍ぶしかないのでございますよ。せいぜい、御小水(おっと、これは失礼致しました)などをお嬢様がたのお袖あたりになすりつける、ぐらいしか出来ません。気付かれないようにこっそりとやらないと意味がありませんから、非常に高度な技術を要するのでございますよ。

 さて、私はもう少し校庭をお散歩して参りましょうかね。



 放課後……

 一人のお嬢様がつかつかと朱鷺子様を目指してやって来ます。浅葱色の小振袖に海老茶の袴姿のお嬢様です。

「御機嫌よう、朱鷺子様」

 彼女はにこやかに話しかけました。

「あら、さち様、御機嫌よう」

 彼女は幸というお名前のようです。彼女は周りを気にするようにしながら朱鷺子様に近づきます。

「どうかなさいました?」

 朱鷺子様は何やらピーンときたご様子です。

「ええ、ちょっとお耳に入れたい事がございまして……」

 朱鷺子様にお顔を近づけます。朱鷺子様は察知したように右の耳を傾けました。彼女は両手でお口の周りを囲いつつ、小声で伝えます。

『申し訳にくいのですけれど、お耳に入れた方が良いと思いまして……』
『あら、では話さなくても宜しくてよ?』

 朱鷺子様は悪戯っ子のように笑いました。「い、いいえあの……」と慌てた様子の幸様。

『冗談ですわよ。何かしら?』
『……真知子様のグループと、花様のグループなのですけれど……。朱鷺子様の事を、その、瑠璃子さんと……』

 朱鷺子様はにっこりと微笑まれました。

「妹の方が美人だから早く縁談が決まりそう。朱鷺子さんは卒業面、てとこかしら?」

 慌てた様子の幸様。

「そんな……えーと、ええ。ですから、その二つのグループの子達にはお気をつけくださいませ、お伝えしたくて……」
「あらあら、ご親切に有難う」
「とんでもないです」
「そんなお話、偶然聞こえてしまいましたの?」
「え? ええ、まぁ、そんなところです」

 朱鷺子様は笑みを浮かべたまま、冷たい声でこう言いました。

「ご忠告、痛み入りますわ。ですが幸様、『仲間を裏切る者はいずれ組織も裏切る』という言葉をご存じかしら?」
「……いいえ、あの……」
「とある会社の代表取締役のお言葉ですの。ご忠告、感謝致しますわ。ですが、あなたもそのグループに居たのではなくて?」

 青ざめたご様子の幸様。

「そういう事ですの。では、御機嫌よう」
(意訳:自分も一緒になって陰口を叩いていた、或いは聞き役だったにしてもその場に居て同調していたらなあなたも同罪でしょう? どの口がおっしゃるのかしら?)

 朱鷺子様はそう声をかけ、颯爽と歩き出しました。ええ、そうです。幸様はあの六人のグループの中の一人だったのでした。さすがは朱鷺子様、姑息な媚は御見通しなのでございました。
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