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第一話
真帆の日常「野菜や原始人の霊etc.」
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「あー、やっと終わったぁー」
神谷真帆は大きく伸びをし、心の底から安堵のため息をついた。彼女はとある都内私立文系大学の四年生。先程卒業論文を提出。教授にやっと許可が降りたのだ。三度目の正直だった。何にせよ、これで無事に卒業出来る。就職先も決まっているし、気持ちは自然にウキウキする。
教授室を後にし、軽やかな気持ちで廊下を歩いた。足取りは軽く、このままスキップでもしてしまいそうだ。だが生憎今日は淡い藤色の半袖ブラウスのトップスに膝丈のスカート、ベージュ色のサンダル姿だ。中背、細身の体形、クリーム色の肌によく似合う色合いである。九月中旬。まだまだ残暑厳しく、生足にミントグリーンのシュシュ生地のフレアー素材のスカートで、膝上8センチほどシースルーとなっている。勿論、太もも丈の黒スパッツを履いてはいてはいるが、イベントでもなく、その上たった一人でスキップをするにはいささか勇気のいる年齢だ。
階段を下りる。少しだけうなじの髪がほつれ、ふわふわとなびく。肩の下あたりまで伸ばされた鳶色の髪をおさげに編み込みにして、うなじの髪の生え際から耳にかけて巻き付け、綺麗にアップスタイルにしている。優しい印象の眉も、睫毛も、髪と同じ鳶色である。卵型の顔の輪郭にアーチ形の眉。長い睫毛の帳に囲まれ、丸みを帯びた大きな目は澄んだ羊羹色だ。非常に印象的な目元である。鼻筋はスッと通っているが、高くもなく低くもない鼻。サクランボを思わせる唇はプルプルの桃色である。
『姉ちゃん、可愛いねぇ、げへへ』
不意に、背後から中年男のダミ声が響く。(またかよ)と内心うんざりしながらも聞こえない、気付かないふりをした。更に言えば、何も視えない素振りを徹底した。これが一番有効だからだ。その男は薄汚れた作業服を身にまとい、ブクブクと中年太りをしており、脂ぎった赤銅色の肌のバーコード薄毛といういでたちだ。但し、全体的に体が透けて見える。
そう、その中年男は人では無い。真帆にしか視えないし感じないし聞こえない存在なのだ。所謂『幽霊』と呼ばれる存在である。
『ようよう、姉ちゃんよぉ』
男はしつこく後を追って来るが、何も視えないし聞こえない。そして何も感じないのだ、断じて。階段を下りきるまでの辛抱だ。あと少し。早く駆け下りてしまいたいが、それをしたらバレてしまう。ここは我慢だ。変わらぬ速度で足を運ぶ。もう少し、もう少しだ! 着いた! 一階だ。そのまま平常心を装い、校舎の外に出る。
午後の日差しを浴びて漸くホッと安堵のため息をついた。あの中年男の霊は、恐らく昭和初期。生前あのあたりの階段付近の修理工事をしたことがあり、そこですれ違う女子大生たちにムラムラしていたのだろう。その想いが強く残り、死後行くべきところに行かずにあそこにやってきて地縛霊となってしまった、そんなところだろうと真帆は分析した。
……幽霊は髪が長くて白い着物かまたは赤、黒、白のワンピース姿の細身の女性とか、落ち武者だとか、現在と同じ服装で出てきたり、足がなかったりだとか。そのような傾向の目撃情報や心霊写真やら動画やらがでよく映っていたり、ありがちな話であるが、そんな幽霊ばかりじゃないよねぇ……
と真帆は常々思う。そして更に感じるのは、大体、生前の想いが強く残れば残るほどその時の服装やその時の姿で残りやすい為、そのままの姿で霊となりやすい。だが、大抵は行くべきタイミングを逃したとか、自分が亡くなった事が理解できなくてこの世に留まっているとか、そんなパターンが多いのだ。
……だから。服が上手くイメージ出来なくて裸の幽霊ってすごく多いし。あまりに長い年月が経つとこの世に執着を残しても風化してしまう、なんて言って原始時代の霊は見ない、なんてまことしやかに言われてるけど、普通にいるし。確かに数は少ないけどさ……
ウヲァーッーーブヲッフォッーー〇×◎△□◇××
校門を出たところで、何を叫んでいるのかわからないが、獣のように空に向かって吠えている全身黒っぽい剛毛に覆われた二足歩行の男(?)を見かけて、思った。動物の皮で出来たと思われる布を、赤ちゃんのエプロンのようにかけている半透明の原始人だ。通行人が、原始人の体を普通にすり抜けて行き来している。
男が叫んでいる後ろで、スッとマンモスの半透明の姿が現れた。幹線道路のど真ん中だ。車がマンモスの足を潜り抜けてビュンビュン行き来している。原始人がマンモスに気付き、石(恐らく)を持ち上げる素振りを見せた。マンモスは男を踏み潰そうと……こうしてマンモスVS原始人の死闘が幹線道路で繰り広げされる中、自動車やバイクやトラックなどが彼らをすり抜けて行き来していく。歩行者や自転車は普通に通っていく。
真帆にとっては見慣れた風景であるが、やはり見ていてシュールだ。22歳、四月には社会人だ。さすがにもう、自分の特質には慣れた。いわゆる霊やら人でないものが視えて聞こえて感じて。その気になれば意思疎通も出来る。だが存在する次元が異なるせいか真帆は酷く疲労する。そしてまかり間違えば霊の世界にスカウトされる。それも強烈な力で。故に、何も視えない、聞こえない、感じない、気付かないふりを決め込む。これが一番安心安全だった。
それに、視えて意思疎通が出来て、せいぜい説得して行べき世界に行って貰う事しか出来ないのだ。しかも相手側は説得に応じる事の方が少ない。浄霊や除霊が出来る訳ではない。オカルトや占い、スピリチュアル系が大好きな人からは羨ましがられるが、こんな力いらない、と何度思ったことか。
真帆は最寄り駅に向かって颯爽と歩いている。途中、素っ裸でウロウロしている半透明の人間とすれ違ったり、共に歩いたりしながら気づかないふりをして。レスラーのようにマッチョな霊、ぶよぶよに脂肪がついた霊、生きて居る人間とさほど変わらない。ただ半透明であること、ほとんどの人間には視えず、彼らの体をすり抜けて生きて居る人間が通行しているだけで。互いに同じ空間を共有しているが別次元の者たち、そんな感じか。
……これ、心霊写真や心霊動画にもし撮れたら、霊の大事なところにモザイクかけるのかしらね……
少しだけ可笑しく思うのはいつもの事だ。幼い頃は、人間と人でないモノとの区別がつかなかったし、普通に思っていた。だから
「どうして透けてるひとと透けてないひとがいるの? 透けているひとは透けてない人にくぐられていくないの?」
「服をきてないひとはおかあさんやおとうさんにおこられないの?」
「あのおとこのひとどうしておんなのひとおんぶして、くびしめられてるの?」
と不思議に思ったこと素直に母親や父親に聞いていた。その度に困った顔をして、
「さぁ、どうしてかねぇ?」
と答えていた。そして時折、どんな風に視えているのか絵に書いて教えて、と両親に言われるままに描いたり。一人っ子だったが、体が透けた同世代の子供たちがよく部屋に遊びに来たし、その子たちに教わった手毬やお手玉で遊んだりしていた。着物を来た子、モンペ姿の子と様々だったが、毎日3.4人は遊びに来ていた。一度しか来ない子、何度も来る子と色々だった。
少し大きくなってから理解したが、普通の人には視えない何かが視えるらしい娘を心配した両親は、まず脳の病気を心配し、専門の病院へと連れて行ったようだ。
そこで異常無しだったようで、念の為セカンドピニオンで別の病院で検査を。そこでも異常は見られなかった。次にメンタル系の病院を何件か尋ね、そこでも特に異常はなく、最終的には霊を専門に取り扱う、その筋では有名なお寺を尋ねようだ。そこで出た結論は
「近年稀に見るほどの霊感の持ち主。もしかしたら、大人になったら自然に消えてしまうかもしれない。個性として大切に育ててあげて欲しい。ただ、あまりあちらの世界に突っ込み過ぎると、魂まで抜けてしまいかねないのでなるべく現実的な楽しさを覚えさせてください」
との事だったらしい。そこで、ルチルクォーツと水晶の5センチ大の勾玉を頂き、お守りとして今も大切に持ち歩いている。
らしい、と言うのは、その時期はまだ幼稚園に上がる前のことだったし、記憶が交差していたりところどころ抜けていたり曖昧だったりしてよく覚えていないからである。
また後に述べる機会が出てくる為、ここでは割愛させて頂くが、幼稚園に上がった際、そして小学校に入学した際、色々と人間関係で苦い思いをした……とだけお伝えしておこう。ともあれ真帆はその苦い経験から、人前では何も感じないし視えない、聞こえないふりが円滑な人間関係を築く上で、更には霊にあちらの世界にスカウトされない為には重要だ、と身を持って体感したのだった。
最寄り駅に近づくと、飲食店が増える。カフェとレストランの間の狭い路地に、お店で出た生ごみやゴミを捨てる場所があるのだが……。そこに来るといつも、真帆は罰が悪そうな面持ちになる。
ーーーシカシヨォ、食スナラ中途半端二残スンジャネェヨ!ーーー
ーーーコレジャ土ニモカエレナイジャネェカ!ーーー
ボソボソと生ゴミ捨て場から聞こえて来る不満げな会話。見ない、気付かないふりをしつつ真帆は通り過ぎる。そこには赤いパプリカやキュウリ、キャベツやニンジン、そしてパセリなどの切れ端や残骸透けた姿が、ゴミ箱の上にひしめきあって人間へと不満を言い合っていた。良く見ると、小さな小さな白くて丸っこいものもピョンピョン飛び跳ねている。ご飯粒の霊だ。皆、中途半端に残されて捨てら、土に返る事も出来ずに燃やされてしまう事が不満で仕方無いらしい。
そういった人間への恨み節を聞くのは耳が痛いので、特に気づかないふりをしていた。
……野菜や穀物にも霊はいるんだよね。あんまり、というか全然聞かないけど……
真帆は軽くため息をついた。もう慣れたが、そう言った食べ物の声を、もっと世の霊能者達は耳を傾けて人間に伝えるべきだ、そう思うのだった。勿論、家畜の霊もそれに同じである。猫や犬、牛や馬の心霊写真やら動画はあるが、羊や鶏、豚等も同様に霊は存在しるのだ。真帆は常々思うのだった。
最寄り駅についた。これからアルバイト先に向かうのである。
神谷真帆は大きく伸びをし、心の底から安堵のため息をついた。彼女はとある都内私立文系大学の四年生。先程卒業論文を提出。教授にやっと許可が降りたのだ。三度目の正直だった。何にせよ、これで無事に卒業出来る。就職先も決まっているし、気持ちは自然にウキウキする。
教授室を後にし、軽やかな気持ちで廊下を歩いた。足取りは軽く、このままスキップでもしてしまいそうだ。だが生憎今日は淡い藤色の半袖ブラウスのトップスに膝丈のスカート、ベージュ色のサンダル姿だ。中背、細身の体形、クリーム色の肌によく似合う色合いである。九月中旬。まだまだ残暑厳しく、生足にミントグリーンのシュシュ生地のフレアー素材のスカートで、膝上8センチほどシースルーとなっている。勿論、太もも丈の黒スパッツを履いてはいてはいるが、イベントでもなく、その上たった一人でスキップをするにはいささか勇気のいる年齢だ。
階段を下りる。少しだけうなじの髪がほつれ、ふわふわとなびく。肩の下あたりまで伸ばされた鳶色の髪をおさげに編み込みにして、うなじの髪の生え際から耳にかけて巻き付け、綺麗にアップスタイルにしている。優しい印象の眉も、睫毛も、髪と同じ鳶色である。卵型の顔の輪郭にアーチ形の眉。長い睫毛の帳に囲まれ、丸みを帯びた大きな目は澄んだ羊羹色だ。非常に印象的な目元である。鼻筋はスッと通っているが、高くもなく低くもない鼻。サクランボを思わせる唇はプルプルの桃色である。
『姉ちゃん、可愛いねぇ、げへへ』
不意に、背後から中年男のダミ声が響く。(またかよ)と内心うんざりしながらも聞こえない、気付かないふりをした。更に言えば、何も視えない素振りを徹底した。これが一番有効だからだ。その男は薄汚れた作業服を身にまとい、ブクブクと中年太りをしており、脂ぎった赤銅色の肌のバーコード薄毛といういでたちだ。但し、全体的に体が透けて見える。
そう、その中年男は人では無い。真帆にしか視えないし感じないし聞こえない存在なのだ。所謂『幽霊』と呼ばれる存在である。
『ようよう、姉ちゃんよぉ』
男はしつこく後を追って来るが、何も視えないし聞こえない。そして何も感じないのだ、断じて。階段を下りきるまでの辛抱だ。あと少し。早く駆け下りてしまいたいが、それをしたらバレてしまう。ここは我慢だ。変わらぬ速度で足を運ぶ。もう少し、もう少しだ! 着いた! 一階だ。そのまま平常心を装い、校舎の外に出る。
午後の日差しを浴びて漸くホッと安堵のため息をついた。あの中年男の霊は、恐らく昭和初期。生前あのあたりの階段付近の修理工事をしたことがあり、そこですれ違う女子大生たちにムラムラしていたのだろう。その想いが強く残り、死後行くべきところに行かずにあそこにやってきて地縛霊となってしまった、そんなところだろうと真帆は分析した。
……幽霊は髪が長くて白い着物かまたは赤、黒、白のワンピース姿の細身の女性とか、落ち武者だとか、現在と同じ服装で出てきたり、足がなかったりだとか。そのような傾向の目撃情報や心霊写真やら動画やらがでよく映っていたり、ありがちな話であるが、そんな幽霊ばかりじゃないよねぇ……
と真帆は常々思う。そして更に感じるのは、大体、生前の想いが強く残れば残るほどその時の服装やその時の姿で残りやすい為、そのままの姿で霊となりやすい。だが、大抵は行くべきタイミングを逃したとか、自分が亡くなった事が理解できなくてこの世に留まっているとか、そんなパターンが多いのだ。
……だから。服が上手くイメージ出来なくて裸の幽霊ってすごく多いし。あまりに長い年月が経つとこの世に執着を残しても風化してしまう、なんて言って原始時代の霊は見ない、なんてまことしやかに言われてるけど、普通にいるし。確かに数は少ないけどさ……
ウヲァーッーーブヲッフォッーー〇×◎△□◇××
校門を出たところで、何を叫んでいるのかわからないが、獣のように空に向かって吠えている全身黒っぽい剛毛に覆われた二足歩行の男(?)を見かけて、思った。動物の皮で出来たと思われる布を、赤ちゃんのエプロンのようにかけている半透明の原始人だ。通行人が、原始人の体を普通にすり抜けて行き来している。
男が叫んでいる後ろで、スッとマンモスの半透明の姿が現れた。幹線道路のど真ん中だ。車がマンモスの足を潜り抜けてビュンビュン行き来している。原始人がマンモスに気付き、石(恐らく)を持ち上げる素振りを見せた。マンモスは男を踏み潰そうと……こうしてマンモスVS原始人の死闘が幹線道路で繰り広げされる中、自動車やバイクやトラックなどが彼らをすり抜けて行き来していく。歩行者や自転車は普通に通っていく。
真帆にとっては見慣れた風景であるが、やはり見ていてシュールだ。22歳、四月には社会人だ。さすがにもう、自分の特質には慣れた。いわゆる霊やら人でないものが視えて聞こえて感じて。その気になれば意思疎通も出来る。だが存在する次元が異なるせいか真帆は酷く疲労する。そしてまかり間違えば霊の世界にスカウトされる。それも強烈な力で。故に、何も視えない、聞こえない、感じない、気付かないふりを決め込む。これが一番安心安全だった。
それに、視えて意思疎通が出来て、せいぜい説得して行べき世界に行って貰う事しか出来ないのだ。しかも相手側は説得に応じる事の方が少ない。浄霊や除霊が出来る訳ではない。オカルトや占い、スピリチュアル系が大好きな人からは羨ましがられるが、こんな力いらない、と何度思ったことか。
真帆は最寄り駅に向かって颯爽と歩いている。途中、素っ裸でウロウロしている半透明の人間とすれ違ったり、共に歩いたりしながら気づかないふりをして。レスラーのようにマッチョな霊、ぶよぶよに脂肪がついた霊、生きて居る人間とさほど変わらない。ただ半透明であること、ほとんどの人間には視えず、彼らの体をすり抜けて生きて居る人間が通行しているだけで。互いに同じ空間を共有しているが別次元の者たち、そんな感じか。
……これ、心霊写真や心霊動画にもし撮れたら、霊の大事なところにモザイクかけるのかしらね……
少しだけ可笑しく思うのはいつもの事だ。幼い頃は、人間と人でないモノとの区別がつかなかったし、普通に思っていた。だから
「どうして透けてるひとと透けてないひとがいるの? 透けているひとは透けてない人にくぐられていくないの?」
「服をきてないひとはおかあさんやおとうさんにおこられないの?」
「あのおとこのひとどうしておんなのひとおんぶして、くびしめられてるの?」
と不思議に思ったこと素直に母親や父親に聞いていた。その度に困った顔をして、
「さぁ、どうしてかねぇ?」
と答えていた。そして時折、どんな風に視えているのか絵に書いて教えて、と両親に言われるままに描いたり。一人っ子だったが、体が透けた同世代の子供たちがよく部屋に遊びに来たし、その子たちに教わった手毬やお手玉で遊んだりしていた。着物を来た子、モンペ姿の子と様々だったが、毎日3.4人は遊びに来ていた。一度しか来ない子、何度も来る子と色々だった。
少し大きくなってから理解したが、普通の人には視えない何かが視えるらしい娘を心配した両親は、まず脳の病気を心配し、専門の病院へと連れて行ったようだ。
そこで異常無しだったようで、念の為セカンドピニオンで別の病院で検査を。そこでも異常は見られなかった。次にメンタル系の病院を何件か尋ね、そこでも特に異常はなく、最終的には霊を専門に取り扱う、その筋では有名なお寺を尋ねようだ。そこで出た結論は
「近年稀に見るほどの霊感の持ち主。もしかしたら、大人になったら自然に消えてしまうかもしれない。個性として大切に育ててあげて欲しい。ただ、あまりあちらの世界に突っ込み過ぎると、魂まで抜けてしまいかねないのでなるべく現実的な楽しさを覚えさせてください」
との事だったらしい。そこで、ルチルクォーツと水晶の5センチ大の勾玉を頂き、お守りとして今も大切に持ち歩いている。
らしい、と言うのは、その時期はまだ幼稚園に上がる前のことだったし、記憶が交差していたりところどころ抜けていたり曖昧だったりしてよく覚えていないからである。
また後に述べる機会が出てくる為、ここでは割愛させて頂くが、幼稚園に上がった際、そして小学校に入学した際、色々と人間関係で苦い思いをした……とだけお伝えしておこう。ともあれ真帆はその苦い経験から、人前では何も感じないし視えない、聞こえないふりが円滑な人間関係を築く上で、更には霊にあちらの世界にスカウトされない為には重要だ、と身を持って体感したのだった。
最寄り駅に近づくと、飲食店が増える。カフェとレストランの間の狭い路地に、お店で出た生ごみやゴミを捨てる場所があるのだが……。そこに来るといつも、真帆は罰が悪そうな面持ちになる。
ーーーシカシヨォ、食スナラ中途半端二残スンジャネェヨ!ーーー
ーーーコレジャ土ニモカエレナイジャネェカ!ーーー
ボソボソと生ゴミ捨て場から聞こえて来る不満げな会話。見ない、気付かないふりをしつつ真帆は通り過ぎる。そこには赤いパプリカやキュウリ、キャベツやニンジン、そしてパセリなどの切れ端や残骸透けた姿が、ゴミ箱の上にひしめきあって人間へと不満を言い合っていた。良く見ると、小さな小さな白くて丸っこいものもピョンピョン飛び跳ねている。ご飯粒の霊だ。皆、中途半端に残されて捨てら、土に返る事も出来ずに燃やされてしまう事が不満で仕方無いらしい。
そういった人間への恨み節を聞くのは耳が痛いので、特に気づかないふりをしていた。
……野菜や穀物にも霊はいるんだよね。あんまり、というか全然聞かないけど……
真帆は軽くため息をついた。もう慣れたが、そう言った食べ物の声を、もっと世の霊能者達は耳を傾けて人間に伝えるべきだ、そう思うのだった。勿論、家畜の霊もそれに同じである。猫や犬、牛や馬の心霊写真やら動画はあるが、羊や鶏、豚等も同様に霊は存在しるのだ。真帆は常々思うのだった。
最寄り駅についた。これからアルバイト先に向かうのである。
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