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第七話
文豪、恋の手ほどき?! その三
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「ねぇ、あなた。最近の蒼介君なんだけど、元気無いと思わない?」
閉店後、スタッフ達全員が帰ったあと華乃子は夫に話し掛けた。手にしていた白いマグカップの二つのうち一つを夫の前に、夫の左隣に座りながら自らの前に置く。カップの中にはクリアイエローの液体に満たされている。カモミールティーだ。こうして、仕事を終えた後は夫婦でハ-ブティーを飲みながら寛ぐのが習慣になっている。
「蒼介君が? そうか? 元々さほどはしゃぐタイプじゃないからなぁ。今度気を付けて観察してみよう。……で、いつあたりから元気無いんだ?」
カモミールティーを一口飲みながら、彼は答える。
(ふふふ、相変わらず良い意味で大雑把ね。その器の広さが魅力の一つでもあるんだけど、鈍いのがたまにキズね)
「そうねぇ……」
内心で苦笑しながら、華乃子はここ最近の蒼介の記憶を辿る。
「確か……あれは、そうね、そうよ。みのりちゃんの叔母さまがいらした日からよ!」
華乃子は確信した。
「え? そうなのか? それじゃぁ、もしや蒼介君はみのりちゃんの事が好き、て事か?」
彼はビックリしたように話つつも、自分の話に妙に納得していた。
「あらあら、またそんな突拍子も無い事を」
華乃子は穏やかに、そしてたしなめるように笑った。彼は時々突拍子も無い事を閃くままに口にする。大抵は外れて、華乃子や彼自身の小説ネタになるのだが、時に驚くほど核心をつき、鳥肌が立つほど当たる時があるのだ。
「いやいや、間違いないよ」
『その通りですよ、さすがです、オーナー。洞察力はピカ一ですね』
「「だ、太宰先生?!」」
彼が自信たっぷりに妻に答えるのと、太宰が夫婦の前にふわりと現れるのと、それらが殆ど同時に行われた。
『どうも、お寛ぎ中のところにすみません』
やや遅れて、太宰の後ろにスッと姿を現した芥川は、申し訳無さそうに夫婦に頭を下げた。ほんの少し、その場に沈黙が走った。
「なるほどねぇ。まさか、みのりちゃんも蒼介君の事が気になってたなんてねぇ」
「全然、気付かなかったなぁ」
「まぁ、気付かれないようにして来たんでしょうけどねぇ」
オーナーと華乃子は、太宰と芥川から経緯の説明を受けていた。
「真帆ちゃんはみのりちゃんの気持ちは知っているけど、蒼介君の気持ちは占いを通して分かってはいるけど、直接は話してない。そして彰仁君は、太宰先生に蒼介君の悩みを聞いてあげて欲しい、と言われただけ……か」
オーナーは話を整理する。
「みのりちゃんは波長が合ったり調子が良い時はその人のオーラが視えるし、蒼介君も波長が合ったり調子が良い時は人の本音とか、隠された本心を感じ取れたりする体質だけど、やっぱり自分の事や思い入れがある人の事は視えないもんなのねぇ。占い師さんとか霊能者さんもよく言ってらっしゃるみたいだけど」
「そうだなぁ。今回みたいな事、自分で感じ取れれば、すれ違いも起きずにスムーズに付き合ってたろうに」
夫婦はしみじみと会話を交わす。
『口を挟んで申し訳ないですけど……』
「あら、太宰先生どうぞどうぞ、お気になさらないで。気軽になんでもおっしゃってくださいな」
「そうですよ。そうしてくださった方が有り難いです。そうして頂けたら、もし我らに誤解や食い違いがあったとしたらその場で解けますし、話す事で見えてくる事もありますから」
『有難う。多分ね、そう言った敏感な力を持っていても、殆どの人は自分の事は近しい人、思い入れのある人の事は視えにくく、また、分かりにくくなってるんだと思うんですよ。時に、知らない事の方が良い事もある。近いしい人が、必ずしも自分が期待した本音でいるとか限らないですから』
太宰はどことなく影を宿しや瞳、寂しそうな表情で語った。夫婦は一瞬顔を見合わせる。何となく、太宰の生前の人間関係の事で、色々あったのだろう、と推測された。
「そうですね。いつでも相手の本心が分かってしまったら、怖くて誰とも接する事が出来なくなっちゃうわね」
「人間の自己防衛システム、みたいな感じですね」
『あぁ、それは私も同感ですね。鬼籍に入ってからつくづく感じました』
芥川は静かに話に加わった。しばらく沈黙した後、みのりと蒼介の件は取りあえずは見守る、必要に応じて手助けするなりしていく、と真帆の占いのアドバイスに落ち着いた。
閉店後、スタッフ達全員が帰ったあと華乃子は夫に話し掛けた。手にしていた白いマグカップの二つのうち一つを夫の前に、夫の左隣に座りながら自らの前に置く。カップの中にはクリアイエローの液体に満たされている。カモミールティーだ。こうして、仕事を終えた後は夫婦でハ-ブティーを飲みながら寛ぐのが習慣になっている。
「蒼介君が? そうか? 元々さほどはしゃぐタイプじゃないからなぁ。今度気を付けて観察してみよう。……で、いつあたりから元気無いんだ?」
カモミールティーを一口飲みながら、彼は答える。
(ふふふ、相変わらず良い意味で大雑把ね。その器の広さが魅力の一つでもあるんだけど、鈍いのがたまにキズね)
「そうねぇ……」
内心で苦笑しながら、華乃子はここ最近の蒼介の記憶を辿る。
「確か……あれは、そうね、そうよ。みのりちゃんの叔母さまがいらした日からよ!」
華乃子は確信した。
「え? そうなのか? それじゃぁ、もしや蒼介君はみのりちゃんの事が好き、て事か?」
彼はビックリしたように話つつも、自分の話に妙に納得していた。
「あらあら、またそんな突拍子も無い事を」
華乃子は穏やかに、そしてたしなめるように笑った。彼は時々突拍子も無い事を閃くままに口にする。大抵は外れて、華乃子や彼自身の小説ネタになるのだが、時に驚くほど核心をつき、鳥肌が立つほど当たる時があるのだ。
「いやいや、間違いないよ」
『その通りですよ、さすがです、オーナー。洞察力はピカ一ですね』
「「だ、太宰先生?!」」
彼が自信たっぷりに妻に答えるのと、太宰が夫婦の前にふわりと現れるのと、それらが殆ど同時に行われた。
『どうも、お寛ぎ中のところにすみません』
やや遅れて、太宰の後ろにスッと姿を現した芥川は、申し訳無さそうに夫婦に頭を下げた。ほんの少し、その場に沈黙が走った。
「なるほどねぇ。まさか、みのりちゃんも蒼介君の事が気になってたなんてねぇ」
「全然、気付かなかったなぁ」
「まぁ、気付かれないようにして来たんでしょうけどねぇ」
オーナーと華乃子は、太宰と芥川から経緯の説明を受けていた。
「真帆ちゃんはみのりちゃんの気持ちは知っているけど、蒼介君の気持ちは占いを通して分かってはいるけど、直接は話してない。そして彰仁君は、太宰先生に蒼介君の悩みを聞いてあげて欲しい、と言われただけ……か」
オーナーは話を整理する。
「みのりちゃんは波長が合ったり調子が良い時はその人のオーラが視えるし、蒼介君も波長が合ったり調子が良い時は人の本音とか、隠された本心を感じ取れたりする体質だけど、やっぱり自分の事や思い入れがある人の事は視えないもんなのねぇ。占い師さんとか霊能者さんもよく言ってらっしゃるみたいだけど」
「そうだなぁ。今回みたいな事、自分で感じ取れれば、すれ違いも起きずにスムーズに付き合ってたろうに」
夫婦はしみじみと会話を交わす。
『口を挟んで申し訳ないですけど……』
「あら、太宰先生どうぞどうぞ、お気になさらないで。気軽になんでもおっしゃってくださいな」
「そうですよ。そうしてくださった方が有り難いです。そうして頂けたら、もし我らに誤解や食い違いがあったとしたらその場で解けますし、話す事で見えてくる事もありますから」
『有難う。多分ね、そう言った敏感な力を持っていても、殆どの人は自分の事は近しい人、思い入れのある人の事は視えにくく、また、分かりにくくなってるんだと思うんですよ。時に、知らない事の方が良い事もある。近いしい人が、必ずしも自分が期待した本音でいるとか限らないですから』
太宰はどことなく影を宿しや瞳、寂しそうな表情で語った。夫婦は一瞬顔を見合わせる。何となく、太宰の生前の人間関係の事で、色々あったのだろう、と推測された。
「そうですね。いつでも相手の本心が分かってしまったら、怖くて誰とも接する事が出来なくなっちゃうわね」
「人間の自己防衛システム、みたいな感じですね」
『あぁ、それは私も同感ですね。鬼籍に入ってからつくづく感じました』
芥川は静かに話に加わった。しばらく沈黙した後、みのりと蒼介の件は取りあえずは見守る、必要に応じて手助けするなりしていく、と真帆の占いのアドバイスに落ち着いた。
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