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第八話

恋時雨・序章

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(なるほど、そう言う事かぁ。そう言えば蒼介先輩の様子が気になるようになったのって、早乙女先輩のお見合いの話を境に……だったもんなぁ。早乙女先輩は真帆ちゃんに占いの相談してたけど、色々事情を知ってそうだな。先輩の事、真帆ちゃんに話しても良い……かなぁ。でも、どうなんだろう?)

 彰仁は今、ラーメンの汁を飲み欲し終わり、つい先程蒼介から聞いた事を思い返していた。

「ぜ、絶対内緒にしてくれよな! 約束だぞ!!」

 蒼介は顔を真っ赤にしてそそくさと休憩室を後にしたのだった。

『さぁ、それは是非とも真帆ちゃんに話すべきだよ!』

「うわっ! び、びっくりした! 太宰先生」

『もう、良い加減に慣れてよ』

「あ、すみません」

 不意打ちで右隣に突然現れた太宰に驚く彰仁。もはや風物詩になりつつある。

『まぁいいや。それよりも真帆ちゃんに話してさ、オーナー夫妻と芥川先生と僕を交えて「みのり&蒼介をくっつける会」のグループを立ち上げないと』

 何故か嬉しそうな太宰。

「え? オーナー夫妻? 芥川先生もお二人の事ご存知なんですか?」

『うん。二人の事については、芥川先生と僕でオーナー夫妻とは話し合ったんだ。後は君と真帆ちゃんが情報交換をして、オーナー夫妻に報告すればさ』

「で、でも。蒼介先輩は誰にも話すな、て。僕、何だか口が軽くて信用出来ない人、て思われそうで……」

『大丈夫だよ。そこは上手くやるから。それに、今頃真帆ちゃんのところに……』

「真帆ちゃんのところに?」

 太宰は意味あり気に微笑んだ。




(うーん、何だかどうも太宰君にいいように使われてるような気がしないでもないんだが……。まぁ、色んな意味で生前とは異なる体験もしておきたくて出てきた訳だし、まぁ……いっかぁ。生前は色々と考えすぎてしまっていたみたいだしな)

 芥川は深く考えない事にして自分が果たすべき任務(?)を遂行しようと決意した。テーブルの上を片付け、綺麗にし、お客を案内し、オーダーを取り、料理を運び……と忙しく動き回っている真帆にそっと近づく。驚かせないようにまずは姿を見せずに話しかける。コホン、まずは軽く咳払いなどをしてみる。

『あの、神谷君』

 遠慮がちに話しかける。

(芥川先生? どうしました?)

 気付いたようなので、すっと彼女の右斜め上に姿を現す。

『そのまま仕事しながらで良いんだが……』

(はい、お気遣い有難うございます)

『いや、こちらこそ……て、えーと。あの、なんだ……』

(どうかなさいましたか?)

『いや、その……太宰君から君に伝えて欲しいと頼まれたんだが、彰仁君が蒼介君から悩みの本音を聞いたそうだ。ただ、まだ彼は早乙女君からの本音は聞いていない。それで、彰仁君と君とで、その件について話し合って欲しい。それからオーナー夫妻と僕と太宰君の皆で、早乙女君と蒼介君を何とかくっつけるように協力し合おうじゃないか、て話なんだ』


(え? オーナーと華乃子さんはお二人のお気持ちについてはご存知なのですか?)

『……と言うかね、太宰君が話したそうだ。ただ、君の占いのアドバイス通り、見守って必要な時に協力しよう、となってたんだけどね。さっき蒼介君が彰仁君に自分の本音を話してたから、皆で協力し合って二人の仲を何とかしよう、てなった訳さ』

 話しながらも、真帆は仕事をてきぱきとこなす。

(なるほど。何だか随分と太宰先生が乗り気なんですねぇ。勿論、お二人はせっかくの両想いなんですもの。周りで協力する事で上手くいくなら、いくらでも協力しますけれど)

 真帆は卒論で研究した太宰像を思い浮かべる。太宰の中で何があったのだろう? と思いながら。

『まぁ、僕も同意見なんだけどね。そんな感じで、ちょうど今太宰君は、彰仁君に君と話すように促してる頃だと思うよ』

 と芥川は締めくくった。『邪魔したね。じゃ、また』と声をかけるとスッと消えた。

……本当に二人の恋、実ると良いなぁ。それに、私も彰仁先輩と二人でお話する機会も貰えそうだし、何だか嬉しいな……

 真帆は夢見るように微笑んだ。
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