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第八話
恋時雨 その三
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時は二時間ほど遡る。自宅にて蒼介は……。
「う、うわぁーーーーーっ!!!」
叫び声と共に飛び起きる。ベッドで目を覚ました彼の目に入ったのは、覆いかぶさるようにして覗き込む太宰の姿だった。
『失礼だなぁ、化け物を見たように叫んで。しっかりと起きておめかしして来るんだよ』
彼はそう言うとスッと消えた。
(何だか玩具にされてるような……)
そう思いながらも、ベッドからおりる。
(お見合い後にデート、ねぇ。アニメみたいにそう上手くは行かないだろうけど、かの文豪が自分なんかの為に骨を折って下さってるんだ。その気持ちには応えないとな。太宰先生にも色々と事情がおありで、僕の応援をしてくれてるって気はするけど、彼女をきっぱりと諦められる切っ掛けとなるかもしれないし)
と思いながら洗面所へと向かった。
それから約二時間後、お台場女神の下で、太宰と待ち合わせる。礼によって、太宰の姿は彼にしか視聞き出来ぬよう調節している。
『お! ちゃんと来たね、感心関心。好青年、て感じじゃん』
上機嫌の太宰だ。
(あ、どうも)
照れたように蒼介は笑った。髪はサラサラと風に揺れ、陽の光に照らされてキラキラと輝く。淡いグリーンのポロシャツに藍色のパンツ姿だ。紫紺色のスニーカーにオレンジ色の紐が粋だ。黒のトートバッグを肩にかけている。
『少し話そうよ』
太宰は少し先の海辺のベンチへと誘導した。
『これが東京湾かぁ。昔はもう少し綺麗だったんだけどな』
太宰は海を眺めながら、少し残念そうに言った。海沿いに点々と設けられたベンチ。彼らはその内の1つに隣合って腰をおろしている。ところどころ、年若いカップル達、また老夫婦と思われる人たちが寄り添って座っていた。
水面はくすんだ鼠色で、陽の光が反射してあちこちキラキラしている。近くにも遠くにも、大小様々な船が行き来していた。
(昔は綺麗だったのでしょうね。かの隅田川も、歌になるくらい綺麗だったみたいだし)
『まぁ……時代は変わるものだよね。不変なものもあるけどそれは少ない』
(そうですね……)
一抹の哀しみを秘めたしんみりした雰囲気が二人を包み込む。
『エンパス、だっけ? 人の本音が読めちゃう……』
太宰は唐突に問いかけた。だが全く違和感は無い。むしろ自然な感じだった。
(はい……。波長が合えば、ですが)
『人の本音が読めてしまう。辛かったろうね。身内や、まして好きになった子の本音。それが望んだものなら、良いだろうけど。人は時に、知らない方が良い事もある』
(両親は、僕をよく怒りました。二面性のある人が怖くて引き篭もりがちでしたから。だけど心の奥には、深い愛情から来る悲しみを感じ取れた。だから僕は、何とか生きて来れた。表面上は良い人ぶって、本音は逆恨みや嫉妬、殺意まで隠し持つ人ばかりじゃないと知れたから)
『好きになった子は居なかったの?』
(いるにはいたんですけど……。僕に気のある素振り見せて、他の本命がいたり、都合よく僕を利用しようとしてたり。もうウンザリでした)
『そっか。じゃあ、みのりちゃんは違ったんだね』
太宰はこの上なく優しい口調で核心に迫った。余りにも自然で、蒼介も気負いなく素直な気持ちになれる。
(変な下心とか、全く感じなくて。内側からキラキラと耀いて見えました)
『一目惚れだ』
(……はい)
『じゃあさ、きっと君が気持ちを告げたとしても、彼女は笑ったり馬鹿にしたりしないでしっかり受け止めてくれるんじゃないかな。彼女は君が今まで見てきた子達と明らかに違うよ』
蒼介は何かに気付いたようだ。目を大きく見開いて太宰を見つめている。
『気持ちを伝えた上で、どう選択するかは彼女に任せたら良いよ。前に、進みたいんだろ? 過去の自分から』
(そうですね、そうです……今まで何を迷っていたんだろう。彼女のピュアな透明さに惹かれたのに。ただそれだけだったのに……勝手に妄想を脹らませて……悲劇の主人公ぶって。馬鹿……みたいだ……)
蒼介は俯いた。泣いているようにも見える。太宰はスッと立ち上がると、海を見つめながら言った。
『物事の本質ってさ、意外と複雑怪奇に見えてシンプルだったり、単純に見えて複雑極まりなかったりするもんだよね』
蒼介は悩みの濃霧が晴れた気がした。己の為べき事が見えてきた。不安げでおどおどしていた瞳に、強い意志の力が甦る。
……もう、大丈夫そうだな……
内心、ホッとした太宰であった。
「う、うわぁーーーーーっ!!!」
叫び声と共に飛び起きる。ベッドで目を覚ました彼の目に入ったのは、覆いかぶさるようにして覗き込む太宰の姿だった。
『失礼だなぁ、化け物を見たように叫んで。しっかりと起きておめかしして来るんだよ』
彼はそう言うとスッと消えた。
(何だか玩具にされてるような……)
そう思いながらも、ベッドからおりる。
(お見合い後にデート、ねぇ。アニメみたいにそう上手くは行かないだろうけど、かの文豪が自分なんかの為に骨を折って下さってるんだ。その気持ちには応えないとな。太宰先生にも色々と事情がおありで、僕の応援をしてくれてるって気はするけど、彼女をきっぱりと諦められる切っ掛けとなるかもしれないし)
と思いながら洗面所へと向かった。
それから約二時間後、お台場女神の下で、太宰と待ち合わせる。礼によって、太宰の姿は彼にしか視聞き出来ぬよう調節している。
『お! ちゃんと来たね、感心関心。好青年、て感じじゃん』
上機嫌の太宰だ。
(あ、どうも)
照れたように蒼介は笑った。髪はサラサラと風に揺れ、陽の光に照らされてキラキラと輝く。淡いグリーンのポロシャツに藍色のパンツ姿だ。紫紺色のスニーカーにオレンジ色の紐が粋だ。黒のトートバッグを肩にかけている。
『少し話そうよ』
太宰は少し先の海辺のベンチへと誘導した。
『これが東京湾かぁ。昔はもう少し綺麗だったんだけどな』
太宰は海を眺めながら、少し残念そうに言った。海沿いに点々と設けられたベンチ。彼らはその内の1つに隣合って腰をおろしている。ところどころ、年若いカップル達、また老夫婦と思われる人たちが寄り添って座っていた。
水面はくすんだ鼠色で、陽の光が反射してあちこちキラキラしている。近くにも遠くにも、大小様々な船が行き来していた。
(昔は綺麗だったのでしょうね。かの隅田川も、歌になるくらい綺麗だったみたいだし)
『まぁ……時代は変わるものだよね。不変なものもあるけどそれは少ない』
(そうですね……)
一抹の哀しみを秘めたしんみりした雰囲気が二人を包み込む。
『エンパス、だっけ? 人の本音が読めちゃう……』
太宰は唐突に問いかけた。だが全く違和感は無い。むしろ自然な感じだった。
(はい……。波長が合えば、ですが)
『人の本音が読めてしまう。辛かったろうね。身内や、まして好きになった子の本音。それが望んだものなら、良いだろうけど。人は時に、知らない方が良い事もある』
(両親は、僕をよく怒りました。二面性のある人が怖くて引き篭もりがちでしたから。だけど心の奥には、深い愛情から来る悲しみを感じ取れた。だから僕は、何とか生きて来れた。表面上は良い人ぶって、本音は逆恨みや嫉妬、殺意まで隠し持つ人ばかりじゃないと知れたから)
『好きになった子は居なかったの?』
(いるにはいたんですけど……。僕に気のある素振り見せて、他の本命がいたり、都合よく僕を利用しようとしてたり。もうウンザリでした)
『そっか。じゃあ、みのりちゃんは違ったんだね』
太宰はこの上なく優しい口調で核心に迫った。余りにも自然で、蒼介も気負いなく素直な気持ちになれる。
(変な下心とか、全く感じなくて。内側からキラキラと耀いて見えました)
『一目惚れだ』
(……はい)
『じゃあさ、きっと君が気持ちを告げたとしても、彼女は笑ったり馬鹿にしたりしないでしっかり受け止めてくれるんじゃないかな。彼女は君が今まで見てきた子達と明らかに違うよ』
蒼介は何かに気付いたようだ。目を大きく見開いて太宰を見つめている。
『気持ちを伝えた上で、どう選択するかは彼女に任せたら良いよ。前に、進みたいんだろ? 過去の自分から』
(そうですね、そうです……今まで何を迷っていたんだろう。彼女のピュアな透明さに惹かれたのに。ただそれだけだったのに……勝手に妄想を脹らませて……悲劇の主人公ぶって。馬鹿……みたいだ……)
蒼介は俯いた。泣いているようにも見える。太宰はスッと立ち上がると、海を見つめながら言った。
『物事の本質ってさ、意外と複雑怪奇に見えてシンプルだったり、単純に見えて複雑極まりなかったりするもんだよね』
蒼介は悩みの濃霧が晴れた気がした。己の為べき事が見えてきた。不安げでおどおどしていた瞳に、強い意志の力が甦る。
……もう、大丈夫そうだな……
内心、ホッとした太宰であった。
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