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第九話
恋乱舞・その三
しおりを挟む「……この御縁は無かった事に……」
みのりの母親の怒りの声で、文豪達は我に返る。慌てて彼女達を見れば、一人を除皆席を立っていた。怒り心頭な様子の双方の母親、二人の間に入ったものの、おろおろするばかりの妙子、呆れ顔のみのり。相手側の男だけがただ一人、無表情のまま座っていた。
「んまぁ、こちらがあなたの娘さんのレベルでも結婚して差し上げよう、と申し上げてるのに……」
わなわなと怒りにその身を震わせながら、男の子母親は応じた。激しい怒りで顔が真っ青だ。
「さ、ヒデちゃま、帰りましょう。気分悪いから帰る前に粗塩で身を清めてお家の中に入りましょうね」
直ぐに息子を促す。彼は母親に言われた通りに、機械的に立ち上がった。そして無表情のまま、
「はい、母上」
と答えた。相変わらず、不自然なくらいに姿勢が良い。そして二人は後を振り返らず、そのまま喫茶店を後にした。
「あ、あの……い、一ノ宮さん」
妙子は慌てて声をかける。そして姉とみのりにしせを向け、
「あの、みのりちゃん、ご免なさいね。こんな筈じゃ……。姉さんも、本当にご免なさい」
泣きそうな顔で謝罪する。みのりと母親は顔を見合わせて苦笑すると、
「いいわよ。妙子が良かれと思ってやった事は分かってるし。お相手も、普段は感じよく接してたんだろうし」
「うん、私は大丈夫だよ。正直、このお見合いは気が進まなかったし、実際に合ってみてやっぱり無理だ、て思ったしさ」
口々に言った。
「追いかけあげて。今後の付き合いもあるでしょ?」
と妹の肩を軽く叩く。
「でも……」
「大丈夫。行ってあげて。ママ友は拗らせたら大変らしいじゃない」
みのりは笑顔で促した。
「じゃ、じゃあ……あの、みのりちゃん、姉さん、ご免なさい、本当に。また連絡するわ」
と言うと、妙子は走り去って行った。しばらくその背を見送る二人。
『と! ボケッとすんなや太宰! ほらほら、次なる手立てを実行せんと。蒼介んとこへ行くぜ!』
『あ、そうだ』
『俺も行ったる! 芥川先生、また後ほど。こちらは宜しくです』
安吾はやや慌てた様子の太宰の肩を抱くようにして消えた。芥川は軽く右手をあげてそれに応じ、そのまま母子の様子を見守る。
母子は顔を見合わせると、苦笑いを浮かべた。
「取りあえず、ここは出ようか。注目浴びたろうし」
母親は言った。
「そうだね。どっか別のところで、少し早いけどお昼にしようか」
とみのり。姿を隠したまま『親子は場所を移動するみたいだ。エレベータに向かってる』と、離れた場所にいる太宰と安吾に告げた。心の中で思えば通じるらしい。
(え??? さ、坂口安吾先生? どうしていきなり? え? もうお見合い終わったんですか? え?)
その頃蒼介は、突然登場して名乗った坂口安吾と、見合いが終わって場所を移動するようだ、と太宰から聞いて動揺していた。
『今、芥川先生からエレベーターで二階に向かっている、と連絡が入った取りあえず、ここを出るよ』
太宰は急き立てる。
(あ、は、はい!)
蒼介は弾かれたように立ち上がり、会計を済ませにレジに向かった。時を同じくして、みのりはエレベーターで下りながら、携帯でホテル内のレストラン情報を調べていた。
「二階はわりとお手頃価格で気軽に楽しめるレストランや喫茶店があるらしいよ」
「それは楽しみだわね」
そんな会話を経て、二階に到着した。
「とりあえず、端からどんなレストランがあるのか見てみましょうよ」
とみのりは母親を誘導した。
『二階に到着した。右端のレストランから見て行くそうだ』
芥川は引き続き姿を消したまま太宰と安吾に実況中継している。
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