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第十一話

文豪たちの目的 その一

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 蒼天の元、快哉を叫ぶオーナー夫妻に真帆と彰仁。照れた様子の蒼介とみのり。


 彼らは今、海辺の公園に設けられた東屋でそれぞれ近くの店に買い出しに行った飲み物と軽食、またはスイーツをテーブルに置き、座っている。綺麗に掃除が行き届いており、木製のテーブルや椅子はとても清潔感に溢れていた。外から差し込む午後の陽射しが、限り無く優しい。

 テーブルの面に、オーナーと華乃子、彰仁と真帆、蒼介とみのりが二人ずつ隣り合って座り、残りの面に安吾、太宰、芥川と腰を下ろしている。勿論、彼らだけに視えるように調整している。

 あれからオーナー達は、みのり達の経過を待ちながら近くのタイ料理の店で昼食取っているところに、太宰たちから経過報告を受けた。そして一同で喜び合い、これからゆっくり散策して、少ししたらスイーツでも食べようという事になった。太宰たちは再度、蒼介たちのところに戻り見守った。

「蒼介さん、あなたなら安心して娘をお任せ出来るわ。娘の変わった体質も、それを受け入れてくれるあのお店で。そしてそこで出会ったあなたなら尚更安心です。どうか、娘を宜しくお願いします」

 季実子は深々と頭を下げる。

「は、はい! そんなにまで言って頂けて恐縮です。こちちらこそ、宜しくお願いします」

 言葉通りしきりに恐縮しながら蒼介も深々と頭を下げた。そしてみのりと二人で、季実子を見送ったのだった。そして照れくさそうに見つめ合う二人。

「これからどうしようか? 良かったらどこかブラブラしてからお茶でも飲まない?」

「はい。いいですね。この後、芥川先生が近場を案内して欲しいって……」

『それならちょうど良いよ!』

「芥川先生? 太宰先生に、……?」

 初対面の坂口安吾に、戸惑うみのり。

『初めまして、坂口安吾です。詳しい説明は、オーナー達と落ち合ってからにしましょう』

 これは良いタイミングだ、と文豪達は姿を現しオーナー達が近くに来ている事、そこに至るまでの経緯を話て聞かせたのだった。最初から、自分達の事あ筒抜けだった事に苦笑しながらも、仲間の思いやりもしっかりと感じ取った。蒼介とみのりには芥川が案内役を。オーナー達には太宰と安吾が経緯を知らせに言った。

 安吾がオーナー達の前に姿を現した際、どれだけ一同が驚き、そして歓喜の声を上げたかは想像に難くないであろう。特に彰仁は、安吾の「堕落論」が愛読書の一つだった。破天荒な中にも、きっちりと自分軸と最低限のモラルの香りも漂う主張に痺れるほど憧れたものだ。

 話を元に戻そう。


「あらあらあら。それじゃ結局、結婚を前提にお付き合いを始めたって訳ね」

 華乃子は満面の笑みで話しをまとめる。

「「はい」」

 祝いの言葉を置く度に、照れたように、声を揃えて応じる二人。優しい風が場をふんわりと包み込んだ。

「良かったー! 先輩たち、お目でとうございます!」

 彰仁。

「本当に良かった! お二人の長年の想いが実って、本当に感激です」

 真帆はうっすらと目に涙を浮かべる。ほんの少しだけ、羨ましく感じながら。そんな真帆の涙に気付いた彰仁は、さり気無く右手で彼女背中を軽くポンポンと叩く。まるで幼子をあやすように。

(残酷な優しさだな……)

 彼の気遣いを嬉しく思いながらも、真帆は内心で苦笑してしまう。だが、幸いな事に今はみのり達に気もちが集中して、当人もオーナー夫婦も気づいていない事に安堵する。

 その様子を、文豪たちはすぐに気づいた。それぞれに感じる事はあったが、敢えて口には出さない。

「これは目出度いじゃないか! こ後特に予定が無かったら、夜は我が店で祝杯だな!」

 オーナーは酒でも飲んだかのようにご機嫌だ。

「どうかしらねぇ? 予定があるなら、無理にとは言わないけど、どう?」

「私、暇なので問題無いです」

「僕もです」

 真帆と彰仁はすぐに賛同した。笑顔で一言二言言葉をを交わす当の二人。蒼介は頷くと、オーナーを見つめた。

「有難うございます。こんなに喜んで頂けて嬉しいです。お言葉に甘えまして、僕達も参加させて頂きます」

 オーナーは満足そうに笑った。

「よし、決まりだ! 少しゆっくりしたら、この付近で食材手に入れたりしていこう。今夜は久々に俺と華乃子に厨房任せてくれ!」

「わぁ!」「楽しみですね」「何か腹減って来た」「僕もだ!」スタッフ達は子供のようにはしゃぐ。

 一同の興奮が落ち着いて来た頃、深い感慨を込めて蒼介は言った。

「この度は、オーナー、華乃子さん、彰仁君、神谷さん、本当に有難うございます。そして文豪の大先生達も、本当に有難うございました」

 ぺこりと頭を下げる。みのりも頭を下げた。皆一斉に、「気にしないで」というような言葉を口々に発しながら照れる。そんな中ふと、オーナーはまじまじと文豪達を見つめ、兼ねてからの疑問を切り出した。
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