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第十一話

文豪たちの目的 その二

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「そう言えば、スタッフに親切にして頂いたり、私共のお店に協力して頂いたりと、とても有り難い事ですが、どうしてここまでしてくださるのですか?」

 このオーナーの質問は、この場の全員が感じてた事だった。それ故皆、食い入るように興味深々で文豪達を見つめる。少し気まずそうに、互いに視線を交わし合う文豪たち。やがて頷き合うと、まずは芥川が口火を切った。

『まず簡単に説明しますと、この世とあの世の仕組みは、上から天界、精霊界、人間界、妖・幽界、冥界、地獄と六つの層に分かれていまして。それそれの境界線は結構曖昧だったりします。ただ、天界へは滅多に行けませんし、あちらの方々も降りて来ません。それで、亡くなると生前の行いによってどの層に行くのか審議にかけられたり、各自人生のシナリオをやり切ったものであれば、自由に層を選べたりする場合もあります。それで、私は一応、人類に本と言う形で貢献したという事で。まぁその……皆さまよくご存じの最期を迎えた訳ですが……相殺というか。ここにいるメンバーは天界と精霊界の間で生活しておりまして。天から「そろそろ今後の身の振り方を決めよ」と命じられたのです。私の場合は、

「人間に再び生まれ変わるか、このままここの住民として暮らすか、或いは適格試験を受けて合格し、人間に閃きというインスピレーションを与える文芸の精霊となるか」この三択が与えられて。文豪の精霊としてプロ・アマ問わず物書きに携わる人間に、インスピレーションを与える道を選んだ次第です』

 続いて、安吾が口を開く。

『それで、自分達はみな、それを選択した訳です。その時期が、たまたま重なって三人が揃った。どうせなら、あちらの世界でもオリジナル本が置いてあったり、癒されるし、美味しいと評判の高いこちら『本源郷』に興味がありましてね。けれども、各自試験のハードルが異なるんですよ。芥川先生と私は大体同じくらいの課題で。課題の内容は、「選択が個人で可能な事に関して悩みを抱えた人間に協力し、善なる解決に導く事」これに尽きるんですよ。やり方は各自任されてるのですが、見事解決したら天界から点数を頂けます。全部で五段階評価で、五が最高です。例えば、五人で一つの事を解決した場合、四を与えられたら五人で割り、貢献度が高かった者順で割り振られます。「個人で選択が可能な」とは、人には「宿命」があって、変える事が出来ない部分があるのです。その部分を除き、個人の選択で未来が変わっていくのを「運命」と言われていますが、まさにその「運命」の部分のお手伝いですね。あと、普段の素行も点数に加減されます。私や太宰先生は、その点数が100点に達すれば試験終了。合格かどうか天の判断に委ねます』

 そして太宰を意味あり気に見つめた。太宰は軽く溜息をつくと、覚悟を決めたように姿勢を正した。心なしか、ほんのりと頬が赤くなっているような……。

『今、お二方が説明された通りです。……私の場合、生前色々あり過ぎたので。特に「運命の恋の選択の岐路に立つ人間」をサポートが200点、それ以外が100点、と課題が少し厳しくて……。そんな感じで、色々と照れくさくて最初に言えずにここまで来てしまいました』

 と照れたように笑った。一同は、個人的に聞きたい事はあれど、彼らの出現理由に納得したのであった。

『そんな訳で、しばらく御厄介になります。改めて宜しくお願いします』

 太宰の声と共に、芥川も安吾も『宜しくお願いします!』と頭を下げる文豪達。

「当店を選んで頂きまして光栄です。これからもスタッフ一同精進します」

 オーナーも姿勢を正して文豪達を見つめ、こたえる。そして

「「「こちらこそ、宜しくお願いします!」」」

 スタッフ全員が声を揃えて頭を下げた。

 後日、「蒼介&みのりを結ぶ会」のグループ名は「本源郷社員グループ」と改められ、蒼介とみのり、そして安吾の名前が追加された事は言うまでもない。
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