いらっしゃいませ!フォーチュン喫茶「本源郷」

大和撫子

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第十三話

雨に思えば・その三

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 バターもフランスパンも、そしてミネストローネも、一見すると真帆が運んだままになっている。けれども客は、品物のエーテル体をしっかりと取り入れているのだ。目には視えないが、フランスパンがそのままの形でさながら幽体離脱のように抜け出し、それを手にとって食す、そんなイメージだろうか。


(えーと、確かここら辺に……)

 真帆はウキウキしながら本棚を探していた。

(あ! これこれ)

 ワクワクしながら本棚に手を伸ばす。それは水彩画で描かれた森が描かれた表紙のもので、300文字から20000文字以内で書かれた短編が載せられているものであった。色んな書き手の作品が乗せられており、童話集①というタイトルが書かれている。

 食べ終わる頃を見計らって、真帆は本を持参した。

『ありがとう』

 彼は早速受け取り、ページをめくり始めた。傍から見ると、風もないのにページがめくられていくように見える。

(本が幽体離脱みたいなって、それを手に取って読むんだと思ったんだけど違うのか。文豪の先生たちは本の魂というか、幽体離脱みたいにして周りからは視えないし聞こえないようにして読まれてらっしゃるよな。何が違うんだろう?)

『あー、それはね、彰仁君』

(う、うわっ! だ、太宰先生っ!)

 突如として目の前に現れた太宰に、またも驚愕する。

『まーたこのパターン、もういいかげんに飽きるよね。もしこれが小説だったら、とっくに読者は読むの辞めてるパターンだよね』
(す、すみません……)
『まぁいいや。本を読む時ね、直にページをめくると、作者が作品に込めた想いが直に伝わって来やすいんだよ』
(はぁ、なるほど……)
『そゆこと。じゃね』

 太宰はそれだけ言うとスッと消えた。その間、真帆はホットコーヒーを用意し、客の元へと運んだようだ。そして下がっていつでも要望に従えるよう、待機している。

(あのお話しは……)

 真帆は当時その話を書いた経緯を思い返した。

(あの時は大学に入学してしばらくした梅雨の時期だったな……)

 鬱陶しい長雨を見ながら、ふと……。

(そう言えば、雨女とか雨男って……もし居としたら梅雨の時期とか、秋雨前線の時は大活躍なんだろうなぁ)

 と空想をした事が始まりだった。

(……となると、自分自身で晴天って体験出来ないんだろうなぁ。反対に、晴れ男とか晴れ女の場合は、雨が止む時にお日様が差す時あるし。それで、虹が出ると素敵だったりするよね……)

 そこで生まれた話が、

(昔雨が大好きだった女の子がいて。幼稚園くらいかな。ある日お友達との会話で、『雨が好き』って発言しちゃうんだ。それが切っ掛けで虐められるようになって。それで、クラスの中に『晴れ男』ってあだ名の子が居て……)

 虐められて、人前では何も気にせず元気な姿でいる主人公。そんな健気な姿に打たれた本物の雨女が現れるのだ。女の子は、雨女が晴天を体験出来ない事を知って少しの間だけ体を貸してあげると申し出て……。

 雨女はお礼にちょっとした魔法をかけて帰っていく、およそ5000文字ほどの完全ハッピーエンドのお話しだ。


……そうそう、これだ。このお話しが読みたかったのだ……

 客は最後まで読み終わると、もう一度最初から読み始めた。

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