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三 愛人達
二
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「それにしても、君は変わってるね」
「どうして?」
「君は女性らしくない」
二人並んで歩きながら話す内容がいきなり意味がわからなくて、アランシアはぽかんと口を開けて固まる。
「……はい?」
この男は自分の口にしている言葉の意味をわかっているのだろうか。女性に対して、君は女性らしくないだなんて失礼極まりない。
「結婚式もそうだ。愛人も大量にいて、君を出迎えもせず、式の便りも出さない。それなのに式に出てきた」
「当たり前でしょう? 結婚式なんだから」
もう彼への無礼は気にしないとアランシアは心の中で誓う。
こんなにも失礼な態度をとってくるし、おまけに悪いとわかってやっているなんて余計にたちが悪い。さらりと出た愛人という単語も気に入らない。しかし、わざわざ自分の《妻》とか《恋人》ではなく《愛人》と言っているのだからそこまで彼女達に執着はないのだろうか。
確かに彼女達は部屋を与えられ、立場的には側妃──もしくは側妃候補?──なのだろうが、一度も、そして誰も彼女達を妃とは呼んでいない。
「普通の女性なら落ち込んでいたり、泣いていたり。──とにかく、君みたいに堂々と式場に入ってはこない」
「……それは一体何の基準?」
「俺の基準」
「どうして貴方の基準で決められなきゃいけないのよ」
アランシアは大きなため息をつく。
──本当に理解できない。
女性に対しての礼儀というか、まったく女という物をわかっていないのだ。この男は。あんなに愛人を囲っているくせにどういう事だろう。間抜けなのか。
「泣いたり落ち込む女性も中にはいると思う。だけど、私はそんなに弱くないし、そもそも女性自体、貴方が思っている程か弱くないわ」
アランシアはゼイヴァルより前を歩き、すぐに左右へ通路が別れる所へ到達し、振り返る。
「どっち?」
胸を張って尋ねれば、ゼイヴァルは、ぷっと吹き出して笑った。
「君は本当に変わってる」
ゼイヴァルは笑いながらアランシアの腕を引き、右の通路へと進む。
「……貴方ほどじゃないわ」
こんなにも失礼で礼儀のなっていない男はそうそういない。
***
文化の違いには驚かされる。食文化というのは、時には感動を与え、時には驚愕する。王族が使う長すぎるテーブルに並べられた料理は朝二食にしては多すぎる。
しかし、王も王妃も他の王子達──もちろんゼイヴァルも、平然と椅子に腰かけた。アランシアはゼイヴァルの隣に座り、小さなため息を溢す。
「どうした?」
「……朝二食でこの量は凄いわね。食べれるかしら」
「朝二食? 何を言っている?」
「朝二食じゃないの?」
確かに愛人達は朝食と言ってスープを持ってきた。
スープには特別何も入っていようだったから問題はないはずだ。
「朝食は君の国と同じで一食だけだ」
「じゃあ何で朝食なんて持ってきてくれたのかしら。貴方が彼女達に言ったんじゃないの?」
「彼女達?」
「……貴方の愛人」
やはりこの場では不適切な言葉だと思い、アランシアは声の大きさを控えた。王や王妃の目の前で話すような事ではない。
「……そうか」
ゼイヴァルは眉を寄せて食事に手を伸ばす。この話題は終わりという事だろうか。
カチャカチャとナイフやフォークの音だけが静かな空間によく響く。
自分から聞いておいてどういう事か。呆れてアランシアがゼイヴァルを睨め付けていると、王妃が朗らかに笑った。
「あらあら、せっかくの朝食なのにこんなに静かなんてもったいないわ。楽しくおしゃべりしましょう?」
王妃がにこやかにアランシアとゼイヴァルに言った。愛人という単語は聞こえていないはずだが、二人の会話を聞いて予想できていのだろう。
「あら、あなたは少食なの?」
アランシアの食があまり進んでいないのを見て、王妃は首を傾げた。
「え? あ、いえ、何だか今日はあまり空いていなくて」
これでも食べている方だ。先程のスープさえなければもっと食べれるが、胃袋にいるスープはもうどうしようもない。野菜などの具も多く、一杯では足りないがややお腹を満たしてくれていた。朝からこんなには食べれない。
「どうかしら。やっぱり貴女の国のお料理と何か違う?」
アランシアは飲み物を飲もうとカップに手を伸ばし、王妃の言葉に手を止める。
「あの、えっと……」
どう答えるべきか迷った。
素直に言うべきか。言わざるべきか。
言えば相手を不快にさせてしまうかもしれない。──なぜなら、自分は味覚を失っているから。
「どうしたのです?」
「あの、私……」
味覚のない姫なんて言わば不良品。
きらびやかな食と品位を重んじるルクート王家では、受け付けられないかもしれなかった。
「……と、とても華やかで、食べるのが勿体ないくらいです。私の国とは大違い」
誤魔化すために、にっこり微笑むと、王妃も笑顔を返してきた。
「まあ、遠慮せずにどんどん食べて下さいね」
「ありがとうございます」
***
「どうして?」
「君は女性らしくない」
二人並んで歩きながら話す内容がいきなり意味がわからなくて、アランシアはぽかんと口を開けて固まる。
「……はい?」
この男は自分の口にしている言葉の意味をわかっているのだろうか。女性に対して、君は女性らしくないだなんて失礼極まりない。
「結婚式もそうだ。愛人も大量にいて、君を出迎えもせず、式の便りも出さない。それなのに式に出てきた」
「当たり前でしょう? 結婚式なんだから」
もう彼への無礼は気にしないとアランシアは心の中で誓う。
こんなにも失礼な態度をとってくるし、おまけに悪いとわかってやっているなんて余計にたちが悪い。さらりと出た愛人という単語も気に入らない。しかし、わざわざ自分の《妻》とか《恋人》ではなく《愛人》と言っているのだからそこまで彼女達に執着はないのだろうか。
確かに彼女達は部屋を与えられ、立場的には側妃──もしくは側妃候補?──なのだろうが、一度も、そして誰も彼女達を妃とは呼んでいない。
「普通の女性なら落ち込んでいたり、泣いていたり。──とにかく、君みたいに堂々と式場に入ってはこない」
「……それは一体何の基準?」
「俺の基準」
「どうして貴方の基準で決められなきゃいけないのよ」
アランシアは大きなため息をつく。
──本当に理解できない。
女性に対しての礼儀というか、まったく女という物をわかっていないのだ。この男は。あんなに愛人を囲っているくせにどういう事だろう。間抜けなのか。
「泣いたり落ち込む女性も中にはいると思う。だけど、私はそんなに弱くないし、そもそも女性自体、貴方が思っている程か弱くないわ」
アランシアはゼイヴァルより前を歩き、すぐに左右へ通路が別れる所へ到達し、振り返る。
「どっち?」
胸を張って尋ねれば、ゼイヴァルは、ぷっと吹き出して笑った。
「君は本当に変わってる」
ゼイヴァルは笑いながらアランシアの腕を引き、右の通路へと進む。
「……貴方ほどじゃないわ」
こんなにも失礼で礼儀のなっていない男はそうそういない。
***
文化の違いには驚かされる。食文化というのは、時には感動を与え、時には驚愕する。王族が使う長すぎるテーブルに並べられた料理は朝二食にしては多すぎる。
しかし、王も王妃も他の王子達──もちろんゼイヴァルも、平然と椅子に腰かけた。アランシアはゼイヴァルの隣に座り、小さなため息を溢す。
「どうした?」
「……朝二食でこの量は凄いわね。食べれるかしら」
「朝二食? 何を言っている?」
「朝二食じゃないの?」
確かに愛人達は朝食と言ってスープを持ってきた。
スープには特別何も入っていようだったから問題はないはずだ。
「朝食は君の国と同じで一食だけだ」
「じゃあ何で朝食なんて持ってきてくれたのかしら。貴方が彼女達に言ったんじゃないの?」
「彼女達?」
「……貴方の愛人」
やはりこの場では不適切な言葉だと思い、アランシアは声の大きさを控えた。王や王妃の目の前で話すような事ではない。
「……そうか」
ゼイヴァルは眉を寄せて食事に手を伸ばす。この話題は終わりという事だろうか。
カチャカチャとナイフやフォークの音だけが静かな空間によく響く。
自分から聞いておいてどういう事か。呆れてアランシアがゼイヴァルを睨め付けていると、王妃が朗らかに笑った。
「あらあら、せっかくの朝食なのにこんなに静かなんてもったいないわ。楽しくおしゃべりしましょう?」
王妃がにこやかにアランシアとゼイヴァルに言った。愛人という単語は聞こえていないはずだが、二人の会話を聞いて予想できていのだろう。
「あら、あなたは少食なの?」
アランシアの食があまり進んでいないのを見て、王妃は首を傾げた。
「え? あ、いえ、何だか今日はあまり空いていなくて」
これでも食べている方だ。先程のスープさえなければもっと食べれるが、胃袋にいるスープはもうどうしようもない。野菜などの具も多く、一杯では足りないがややお腹を満たしてくれていた。朝からこんなには食べれない。
「どうかしら。やっぱり貴女の国のお料理と何か違う?」
アランシアは飲み物を飲もうとカップに手を伸ばし、王妃の言葉に手を止める。
「あの、えっと……」
どう答えるべきか迷った。
素直に言うべきか。言わざるべきか。
言えば相手を不快にさせてしまうかもしれない。──なぜなら、自分は味覚を失っているから。
「どうしたのです?」
「あの、私……」
味覚のない姫なんて言わば不良品。
きらびやかな食と品位を重んじるルクート王家では、受け付けられないかもしれなかった。
「……と、とても華やかで、食べるのが勿体ないくらいです。私の国とは大違い」
誤魔化すために、にっこり微笑むと、王妃も笑顔を返してきた。
「まあ、遠慮せずにどんどん食べて下さいね」
「ありがとうございます」
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