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◆第一章 怪異を祓う者◆
第一話 懐覧堂の店主②
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と……そこへ店の入り口の引き戸が開く。まさか!来客か!?と思考を切り換えたスミジが慌てて営業スマイルを向けた先には、落ち着いた明るいグレーのスーツに身を包んだ若い女性が……。
長い黒髪を後ろで一つに束ね緩い三つ編みにした女性は開襟シャツの胸元が見える。時計やピアス等、身に付けている物はどれも嫌味がないよう洗練されたブランド品。冴えないスミジとは纏う空気が随分と違う。
「……何だ、シズカか」
「何だとは失礼ね、スミジ。折角仕事を持ってきたのに」
早乙女静──彼女はスミジの画商仲間であり、また大学時代の友人でもある。そして、スミジの副業の依頼を扱う仲介人でもあった。
「シズカさん、お久しぶりです!」
「あら、アカリちゃん。またスミジに無理矢理働かされてるの? 可哀想に……」
「大丈夫です! 扱いはアルバイトですが、借金を返すまでは頑張ります!」
「偉いわねぇ……。ちょっと、スミジ! アカリちゃんに何かあったら赦さないわよ?」
「…………」
別段スミジは何もしていないのだが、下手な反論は逆効果なので話題を逸らすことにした。
「それよりシズカ……。仕事って【甲】?【乙】?」
「【乙】よ。大体【甲】の仕事は殆ど客自身が来店してるでしょ?」
「…………」
スミジは幾分つまらなそうに口を尖らせている。アカリは聞き慣れない言葉に興味深々だ。
「何ですか、【甲】と【乙】って?」
「ああ……。アカリちゃんはスミジのところで働き始めてからまだ日が浅いのよね……。【甲】【乙】っていうのは謂わば仕事用語よ。と言ってもスミジ相手だけの合言葉みたいなものだけどね?」
「合言葉ですか?」
「ええ。【甲】は購入希望のコウとかけてあって……つまり、取り扱っている美術品が欲しいっていう打診なの」
「じゃあ、乙はどういう意味ですか? 乙……おつ……う~ん……」
小首を傾げたアカリにシズカは苦笑いで答える。
「そっちは絵のお仕事じゃないのよ。アカリちゃんなら判るでしょ?」
「あ……もしかして副業の?」
「そう。【乙】はおつかれ、つまり『お憑かれ』様からの依頼よ。くだらない洒落よね」
「くだらない言うな」
心外だと言わんばかりに口を曲げるスミジを放置しシズカは話を続ける。
「じゃあ……」
「そう……妖怪絡みの依頼。という訳でスミジ。仕事よ」
「あいよ」
都会の近代化が進み夜の闇さえも失われつつある現代──そんな中にも闇は確かに残されている。
街談巷説──都市伝説や怪談で語られる怪異・怪奇の類いが無くならないのは人の心がどこかでその恐怖に惹かれるからだろう。
それらの呼び名は『怪異』『怪奇』『あやかし』『物の怪』、『妖怪』と多岐に渡るが、人が認識できずとも確かに存在するのだ。そして時には人に仇をなすこともある。
だが……それらを祓える者もまた闇が減少し怪異の数が減ると共に人数を減らした。現在では偽者が出回り益々本物の祓い師を頼ることが困難になる。
道祖土家は数少ない『あやかし祓い』の血筋……但し、通常の祓い師とは大きく異なる使命を担っているのだが──それはスミジの仕事ぶりを見ていればやがて分かるだろう。
「それでシズカ……依頼主の住まいは?」
「静岡よ」
「…………」
スミジは崩れるように再び木製の卓に突っ伏した。
「…………静岡……ですか?」
「ええ。……それがどうかしたの、アカリちゃん?」
スミジ、再び静岡へ。スミジとアカリは少し困ったように笑った──。
長い黒髪を後ろで一つに束ね緩い三つ編みにした女性は開襟シャツの胸元が見える。時計やピアス等、身に付けている物はどれも嫌味がないよう洗練されたブランド品。冴えないスミジとは纏う空気が随分と違う。
「……何だ、シズカか」
「何だとは失礼ね、スミジ。折角仕事を持ってきたのに」
早乙女静──彼女はスミジの画商仲間であり、また大学時代の友人でもある。そして、スミジの副業の依頼を扱う仲介人でもあった。
「シズカさん、お久しぶりです!」
「あら、アカリちゃん。またスミジに無理矢理働かされてるの? 可哀想に……」
「大丈夫です! 扱いはアルバイトですが、借金を返すまでは頑張ります!」
「偉いわねぇ……。ちょっと、スミジ! アカリちゃんに何かあったら赦さないわよ?」
「…………」
別段スミジは何もしていないのだが、下手な反論は逆効果なので話題を逸らすことにした。
「それよりシズカ……。仕事って【甲】?【乙】?」
「【乙】よ。大体【甲】の仕事は殆ど客自身が来店してるでしょ?」
「…………」
スミジは幾分つまらなそうに口を尖らせている。アカリは聞き慣れない言葉に興味深々だ。
「何ですか、【甲】と【乙】って?」
「ああ……。アカリちゃんはスミジのところで働き始めてからまだ日が浅いのよね……。【甲】【乙】っていうのは謂わば仕事用語よ。と言ってもスミジ相手だけの合言葉みたいなものだけどね?」
「合言葉ですか?」
「ええ。【甲】は購入希望のコウとかけてあって……つまり、取り扱っている美術品が欲しいっていう打診なの」
「じゃあ、乙はどういう意味ですか? 乙……おつ……う~ん……」
小首を傾げたアカリにシズカは苦笑いで答える。
「そっちは絵のお仕事じゃないのよ。アカリちゃんなら判るでしょ?」
「あ……もしかして副業の?」
「そう。【乙】はおつかれ、つまり『お憑かれ』様からの依頼よ。くだらない洒落よね」
「くだらない言うな」
心外だと言わんばかりに口を曲げるスミジを放置しシズカは話を続ける。
「じゃあ……」
「そう……妖怪絡みの依頼。という訳でスミジ。仕事よ」
「あいよ」
都会の近代化が進み夜の闇さえも失われつつある現代──そんな中にも闇は確かに残されている。
街談巷説──都市伝説や怪談で語られる怪異・怪奇の類いが無くならないのは人の心がどこかでその恐怖に惹かれるからだろう。
それらの呼び名は『怪異』『怪奇』『あやかし』『物の怪』、『妖怪』と多岐に渡るが、人が認識できずとも確かに存在するのだ。そして時には人に仇をなすこともある。
だが……それらを祓える者もまた闇が減少し怪異の数が減ると共に人数を減らした。現在では偽者が出回り益々本物の祓い師を頼ることが困難になる。
道祖土家は数少ない『あやかし祓い』の血筋……但し、通常の祓い師とは大きく異なる使命を担っているのだが──それはスミジの仕事ぶりを見ていればやがて分かるだろう。
「それでシズカ……依頼主の住まいは?」
「静岡よ」
「…………」
スミジは崩れるように再び木製の卓に突っ伏した。
「…………静岡……ですか?」
「ええ。……それがどうかしたの、アカリちゃん?」
スミジ、再び静岡へ。スミジとアカリは少し困ったように笑った──。
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