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◆第一章 怪異を祓う者◆
第三話 憑かれた者
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名取家前当主・昭一郎に憑いていた怪異を祓ったスミジ……そしてアカリとシズカは、昼食を用意するという依頼主の厚意に甘えることになった。
シズカは母屋に向かい使用人食事の準備を手伝うという。アカリも申し出たのだが、店屋物を取る様で大した手伝いは必要ないらしい。
そんな事情から手持ち無沙汰になったスミジとアカリは、折角なので立派な日本庭園を改めて観賞することにした。
「あの……スミジさん?」
「ん……? 何、アカリちゃん?」
「色々聞きたいことはありますが……何で私を連れてきてくれたんですか?」
「うん。……アカリちゃんには見せるべきと思ったんだよ。以前、君に憑いた怪異に対応した時は意識が無かっただろ? だから、今回の『あやかし祓い』で理解して貰おうと思ってね……。君がしているのは理不尽な労働じゃないとちゃんと理解をして貰いたかったんだ」
スミジは三ヶ月程前、アカリに憑いた怪異を祓った。いや……正確には討滅し損ねた。アカリの【あやかし】は未だ取り憑いたままである。スミジは脅威を一時的に封じ解決を引き伸ばしたに過ぎない。
故に傍に置いて様子を見ているのが現状──アカリにその事を伝えつつ怪異とは何かを体験させるのが目的だった。
「強い怪異に憑かれた人はね? それを無理に取り去ると精神の一部を持って行かれてしまう場合があるんだ。名取さんに憑いた怪異みたいに簡単に祓えれば良いんだけどね」
「……。私に憑いたのってそんなに強い【あやかし】なんですか?」
「うん……凄く強いよ。でも、問題はそこじゃない。君は無意識でその【あやかし】に同調していたっぽいんだ。強いあやかしを無事に取り去るには憑かれた当人の強い意志が必要でね……意識の無い君からは無理に引き剥がせなかったんだよ」
「…………」
「だから今回の手順を見せた。あれは本当は名取さんではなく君に見せたんだ」
幽世と現世の道理は同じではない。無意識とはいえ怪異と同調することの危険さを自覚させるのも目的の一つだったとスミジは語る。その上でスミジは、アカリの内に封じた【あやかし】と訣別する意識を持たせようとしていた。
「私……全然知りませんでした」
「御両親には話をしてあるんだけどね……。どうも君に憑いたものは祖先からの血の約定が関わってるらしいんだ。君の家には文献が伝わってたんだけど、古すぎて劣化していた。読めなくて詳細が分からない」
「私……私は……」
不安げなアカリの頭をスミジが撫でる。その手はごつごつとしていたがアカリは温かいと思った。
「大丈夫。俺が傍に居る。取り払うその日まではね……君が労働で支払っているのは、それまでに覚悟を決める為の準備費用とでも思って欲しい。【あやかし】と訣別するには、当人が対価を払ってでもそうしたいという意志が必要だから」
慌てる必要は無いが、あまり“のんびり”でも困るけどね?とスミジは笑った。アカリは実感こそ無いもののスミジの話を聞いて不安が減った様だ。
「……ところでスミジさん。さっき何をしたんですか?」
「ん? ああ、アレか……。アレは【虚式・霊気写法】と言ってね。ウチに伝わる【あやかし祓い】の方法で……。………」
「………スミジさん?」
突然黙りこくってしまったスミジを不安げに見つめるアカリ。スミジはすぐに我に返り苦笑いで謝罪した。
「ごめん。不思議な縁だと思ってね」
「……?」
「俺の一族は先祖代々の絵描きでね……。と言っても、それで食える画家じゃなく、俺みたいな【あやかし祓い】を生業としていたんだ」
「スミジさんみたいに副業でですか?」
「ん~……ちょっと違うかな。さっき名取さんに言ったように、本当は本業が【あやかし祓い】なんだ。そして、それには理由がある」
道祖土家は元々、薬師の血筋だったという。それが“とある問題”に直面し【あやかし祓い】にならねばならなくなった──とスミジは説明した。
「それ以来、ウチの家系は【あやかし祓い】になった。それも先祖からの因縁……アカリちゃんと同じだと思って不思議な縁を感じた」
「一体、スミジさんの御先祖様に何があったんですか?」
「……。その昔、ウチの先祖は──」
そこまで口を開いたところで母屋からシズカの呼び掛けが入る。
「お食事が届いたわよ~?」
その言葉を聞いた途端、スミジとアカリの腹がほぼ同時に“くぅ~”と鳴いた。
「さ……行こうか。腹が減っては何とやらだ」
「はい!」
シズカは母屋に向かい使用人食事の準備を手伝うという。アカリも申し出たのだが、店屋物を取る様で大した手伝いは必要ないらしい。
そんな事情から手持ち無沙汰になったスミジとアカリは、折角なので立派な日本庭園を改めて観賞することにした。
「あの……スミジさん?」
「ん……? 何、アカリちゃん?」
「色々聞きたいことはありますが……何で私を連れてきてくれたんですか?」
「うん。……アカリちゃんには見せるべきと思ったんだよ。以前、君に憑いた怪異に対応した時は意識が無かっただろ? だから、今回の『あやかし祓い』で理解して貰おうと思ってね……。君がしているのは理不尽な労働じゃないとちゃんと理解をして貰いたかったんだ」
スミジは三ヶ月程前、アカリに憑いた怪異を祓った。いや……正確には討滅し損ねた。アカリの【あやかし】は未だ取り憑いたままである。スミジは脅威を一時的に封じ解決を引き伸ばしたに過ぎない。
故に傍に置いて様子を見ているのが現状──アカリにその事を伝えつつ怪異とは何かを体験させるのが目的だった。
「強い怪異に憑かれた人はね? それを無理に取り去ると精神の一部を持って行かれてしまう場合があるんだ。名取さんに憑いた怪異みたいに簡単に祓えれば良いんだけどね」
「……。私に憑いたのってそんなに強い【あやかし】なんですか?」
「うん……凄く強いよ。でも、問題はそこじゃない。君は無意識でその【あやかし】に同調していたっぽいんだ。強いあやかしを無事に取り去るには憑かれた当人の強い意志が必要でね……意識の無い君からは無理に引き剥がせなかったんだよ」
「…………」
「だから今回の手順を見せた。あれは本当は名取さんではなく君に見せたんだ」
幽世と現世の道理は同じではない。無意識とはいえ怪異と同調することの危険さを自覚させるのも目的の一つだったとスミジは語る。その上でスミジは、アカリの内に封じた【あやかし】と訣別する意識を持たせようとしていた。
「私……全然知りませんでした」
「御両親には話をしてあるんだけどね……。どうも君に憑いたものは祖先からの血の約定が関わってるらしいんだ。君の家には文献が伝わってたんだけど、古すぎて劣化していた。読めなくて詳細が分からない」
「私……私は……」
不安げなアカリの頭をスミジが撫でる。その手はごつごつとしていたがアカリは温かいと思った。
「大丈夫。俺が傍に居る。取り払うその日まではね……君が労働で支払っているのは、それまでに覚悟を決める為の準備費用とでも思って欲しい。【あやかし】と訣別するには、当人が対価を払ってでもそうしたいという意志が必要だから」
慌てる必要は無いが、あまり“のんびり”でも困るけどね?とスミジは笑った。アカリは実感こそ無いもののスミジの話を聞いて不安が減った様だ。
「……ところでスミジさん。さっき何をしたんですか?」
「ん? ああ、アレか……。アレは【虚式・霊気写法】と言ってね。ウチに伝わる【あやかし祓い】の方法で……。………」
「………スミジさん?」
突然黙りこくってしまったスミジを不安げに見つめるアカリ。スミジはすぐに我に返り苦笑いで謝罪した。
「ごめん。不思議な縁だと思ってね」
「……?」
「俺の一族は先祖代々の絵描きでね……。と言っても、それで食える画家じゃなく、俺みたいな【あやかし祓い】を生業としていたんだ」
「スミジさんみたいに副業でですか?」
「ん~……ちょっと違うかな。さっき名取さんに言ったように、本当は本業が【あやかし祓い】なんだ。そして、それには理由がある」
道祖土家は元々、薬師の血筋だったという。それが“とある問題”に直面し【あやかし祓い】にならねばならなくなった──とスミジは説明した。
「それ以来、ウチの家系は【あやかし祓い】になった。それも先祖からの因縁……アカリちゃんと同じだと思って不思議な縁を感じた」
「一体、スミジさんの御先祖様に何があったんですか?」
「……。その昔、ウチの先祖は──」
そこまで口を開いたところで母屋からシズカの呼び掛けが入る。
「お食事が届いたわよ~?」
その言葉を聞いた途端、スミジとアカリの腹がほぼ同時に“くぅ~”と鳴いた。
「さ……行こうか。腹が減っては何とやらだ」
「はい!」
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