姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第一章 怪異を祓う者◆

第四話 怪異を祓う者②

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 逢魔が刻──。

 人と魔の存在が交差する時間。その時刻を狙いスミジは千夏に憑いた【あやかし】を庭で祓うことにした。

 千夏に憑いた『煙々葛籠えんえんつづら』はその名の通り煙のような存在だと学校サイトに記されている。故に日中は通常の怪異より希薄に見えスミジの目でも完全に捉えられなかった。
 ならばと、スミジは少しの危険を冒しても姿を確認しやすい【闇】が深まる時刻まで待ち決着を付けると決めた。


 庭の芝生にてパジャマ姿のままの千夏を座らせ、周囲に杭を打ち込み囲うように縄を張り巡らせる。杭や縄にはスミジの描いた札を貼った。

 その場に居るのはスミジ達を覗けば千夏と昭一郎のみ。使用人達には母屋で待機して貰っている。また、千夏の両親はまだ仕事から戻らない。事情を知らぬならば却ってその方が心労を与えずに済む。故に帰宅を待たずに祓うことにした。

 そうして一同は、塀の向こうへ陽光が落ち【闇】の深まる刻限を待った……。

「スミジさん、どうするんですか?」
「……。アカリちゃん。強い妖っていうのはどんなのか分かる?」
「えっ? う~ん……大きいのですか?」
「ハハハ。中にはそういうのもいるけどね……。……。強い【あやかし】っていうのはね? 人間が強いと思ったヤツなんだよ」
「??」
「ちょっと説明が難しいんだけどね……。端的に言えば多くの人間がそのあやかしを知っていると力を増すんだよ。そして恐怖する程更に強くなる」
「スミジさんが使っていた鳥もそうなんですか? 私、初めて見たんですけど……」
「あれは金翅鳥こんじちょうと言って色んな神話になってるからね……。仏教で言う迦屡羅かるら天──ガルーダって聞いたことないかな?」
「それならゲームか何かで見た気がします」
「ハハ……日本の場合はそういう認識の方が多いだろうね。でも、俺のは本物を喚んでる訳じゃないんだ。あれは元の力を真似たものなんだよ」


 虚式うろしき・霊気写法【絵魂現出かいこんげんしゅつ

 一度見た【あやかし】を墨絵で再現し霊気を込めることで、その能力を利用する術。無論、本物ではないので力は落ちる。
 そして再現する怪異にも決まりがある。弱すぎては役に立たず、強すぎると再現した【あやかし】は指示に従わず暴走する可能性もある。

 金翅鳥のような神聖な【陽の気】を持つ存在ならば問題は無いが、【陰の気】を持つ怪異の場合は再現すべきものを慎重に選ばねばならない。

「こういった術は割と使いどころが難しいんだ。簡単な対応で済む時は使ってるけど、千夏ちゃんのはちょっと深いところにまで食い込んでいるみたいだから」

 通常、怪異は物理的な干渉は起こせない。精々が憑いた相手を不調にさせる程度で自然と消えることが多い。しかし、千夏に憑いた【あやかし】は物も壊すのだという。それは千夏の魂に触れて現世に干渉していることに他ならない。昭一郎に飛び火したということはやはり力を増していると考えるべきだ。

 そうなった際、金翅鳥の様なもので祓うと千夏自身まで火傷してしまう。魂に触れられるということは幽世に触れていることと同義……あちら側からの干渉も受ける可能性が高い。

「じゃあ、どうやって祓うんですか?」
「そこで道祖土一族の術を使うんだよ。俺は怪異を封じることが出来る。それに、相手が【あやかし】でもなるべくなら消したくない」

 怪異を封じる──実のところ道祖土一族はこちらの方法を主流にしている。

 【あやかし】には【あやかし】の生まれた理由がある。それは時勢の鬱憤だったり、興味本意の噂だったりする場合が多いが、稀に願いから生まれるものもあるのだとスミジは口にした。
 そうしたものを滅ぼしてもまた同じ性質を持つ別種の【あやかし】が生まれてくる。ならば封じて知名度だけを拡げ幽界で大人しくさせるのが最良だと考えているのだ。

 それが道祖土一族の術、初式・霊気写法【絵封かいふう】──。

「相手次第だけど、多分今回はそれで解決かな」
「封じられたら悪さをしなくなるんですか?」
「封印を解かない限りはね。【あやかし】は封印されても存在は認識される。案外、それで満足するみたいなんだ」

 人から見られることにより【あやかし】は自らを認識し、姿だけを絵に残して幽世に帰る。絵となり認識される機会が増えれば【あやかし】は存在を忘れられず消えずに済むのだ。但し、再び現世に来るにはその姿に宿らねばならない縛りを与える。つまり、道祖土の術にてのみでしか現世に顕現できない。

 それが封印術である【絵封】──。

「こちら側の利点としては封じている【あやかし】はどれだけ噂が広まっても霊力を増しすぎることはないから、封印を破るまでにはならない。逆に強い【あやかし】は絵に封じること自体が難しいんだけどね」
「私に憑いた【あやかし】はどうだったんですか?」
「強すぎて絵には封じることが出来なかった。だから、アカリちゃんの中で眠らせてある」

 それほどの怪異が自分の中に居る……そんな事実がアカリに不安となってのし掛かる。だが、スミジは笑顔で続けた。

「大丈夫。アカリちゃんの【あやかし】はいつか必ず俺が祓うから。約束する」
「スミジさん……」
「その前に千夏ちゃんを助けてあげないとね?」
「はい!」

 それから程無く日が沈む。黄昏の空が闇へと傾いた瞬間、千夏の身体から立ち昇る煙はやがて形を成しクラゲのような姿になった。

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