姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第二章 遠い日の約束◆

第一話 『あやかし』ではない者

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 東京某所。ビルに囲まれた古い平屋建ての美術商店・懐覧堂《かいらんどう》は相変わらず閑古鳥が鳴いていた……。


 いつも通り午前十時に店を開けたものの、懐覧堂の主・道祖土《さいど》スミジはカウンター代わりの卓に頬杖を突いて眠たげにしている。外を歩くビジネスマン達をただ眺めているのだ。

 硝子戸の向こうを歩く人々はキッチリとした身嗜みで時間に追われるように速足だった。対してこちら側──懐覧堂の内側は静寂……まるで時間が逆行したように古物で溢れている。

 因みに平日昼間なのでアカリは学校で授業中。

「ふわぁ~……。商品の手入れでもするかな」

 本当は掃除をしようとも思ったのだが、それではアカリの仕事を取ってしまうことになる。故にスミジは古びた美術品の手入れを行うことにした。

 スミジはキュレーター(※美術専門技能者。ここでは学芸員とは別種の意味)としての技能も有している。道祖土一族は日本画家の一族でもあるので巻物や掛け軸、屏風などの作製・修復技能は自然と身に付いていた。加えてスミジは西洋画の技能を大学で師事した人物から学んだので、絵画に関してはほぼ修繕できると言って良い。

 そんなスミジが掛け軸の修理に取り掛かろうかとしたところで、店の硝子戸が開く。

「ここが懐覧堂か……。ふん、黴臭い店だな」

 来店したの和装の老人。年の頃は七十~八十前半、気難しそうな顔で、灰色の着物の上に藍色の羽織を纏っている。その手には金属製の杖が握られていた。
 背後には黒いスーツにサングラスを着用した体格の良い二人の男……スミジは一瞬怯む……。

「い、いらっしゃいませ~。何が入り用ですか?」

 声が上ずりながらも来客した老人の身なりが上質の物と知るや、スミジは途端に揉み手になる。上客を逃すのは得策ではない……実に戦略的な判断だ。

「……。ここは曰く付きの品も売っているらしいな。買い取りもしているのか?」
「曰く付き……ですか? はて……何の話か……」
「惚けるな。早乙女という女から聞いたぞ? 【おつ】の仕事と言えば引き受けると」
「むむむ、シズカのヤツめ……」

 基本的に曰く付きの品は採算が取れない。買い取りに金が掛かり、かつ祓うにも手間が掛かる。祓った後の品は二束三文にしかならないこともしばしば……。
 そういった場合は『物祓い専門』の者に回すか、スミジが直接祓いに向かうとシズカに伝えてあるのだが……客が直接来店したことにスミジは少々困惑していた。

「先に申し上げておきますが、ウチは美術商ですので怪異祓いの仕事は別料金ですよ?」
「何でも構わん。儂は早く何とかしたいだけだ。値段はそっちで決めろ」
「………。とにかく品物の確認をしましょうか」

 老人が黒服の一人に目配せすると、その手に持っていた風呂敷を卓の上に差し出した。ほどいた風呂敷の中にあったのは古びた将棋盤。その上には駒入れの木箱が乗っている。

「…………将棋盤ですね」
「見れば分かるだろう」
「………」

 将棋盤もモノによっては美術品と言えなくもない。良いものは確かに高値が付く。しかし、眼前のそれは少々問題があった。盤面に所々黒い染みが浮いているのだ。

「これは……何のシミでしょう?」
「恐らく血だろうな」
「これまた穏やかではないですね……。何故そう思うのです?」
「夜な夜な枕元に出てきて将棋を差す奴が居るからだ。青白い顔でな」
「あ~……成る程。では、詳しい話をお聞きしましょう」

 老人達を上がりかまちの脇側にある接客テーブルへと案内したスミジは、人数分の茶と菓子を用意。老人はソファーに腰を下ろしたが黒服達はその背後に仁王立ちで控えている。視界に圧を感じるものの、仕方無いとばかりにスミジは老人の向い側へと座った。
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