11 / 153
◆第二章 遠い日の約束◆
第一話 『あやかし』ではない者
しおりを挟む
東京某所。ビルに囲まれた古い平屋建ての美術商店・懐覧堂《かいらんどう》は相変わらず閑古鳥が鳴いていた……。
いつも通り午前十時に店を開けたものの、懐覧堂の主・道祖土《さいど》スミジはカウンター代わりの卓に頬杖を突いて眠たげにしている。外を歩くビジネスマン達をただ眺めているのだ。
硝子戸の向こうを歩く人々はキッチリとした身嗜みで時間に追われるように速足だった。対してこちら側──懐覧堂の内側は静寂……まるで時間が逆行したように古物で溢れている。
因みに平日昼間なのでアカリは学校で授業中。
「ふわぁ~……。商品の手入れでもするかな」
本当は掃除をしようとも思ったのだが、それではアカリの仕事を取ってしまうことになる。故にスミジは古びた美術品の手入れを行うことにした。
スミジはキュレーター(※美術専門技能者。ここでは学芸員とは別種の意味)としての技能も有している。道祖土一族は日本画家の一族でもあるので巻物や掛け軸、屏風などの作製・修復技能は自然と身に付いていた。加えてスミジは西洋画の技能を大学で師事した人物から学んだので、絵画に関してはほぼ修繕できると言って良い。
そんなスミジが掛け軸の修理に取り掛かろうかとしたところで、店の硝子戸が開く。
「ここが懐覧堂か……。ふん、黴臭い店だな」
来店したの和装の老人。年の頃は七十~八十前半、気難しそうな顔で、灰色の着物の上に藍色の羽織を纏っている。その手には金属製の杖が握られていた。
背後には黒いスーツにサングラスを着用した体格の良い二人の男……スミジは一瞬怯む……。
「い、いらっしゃいませ~。何が入り用ですか?」
声が上ずりながらも来客した老人の身なりが上質の物と知るや、スミジは途端に揉み手になる。上客を逃すのは得策ではない……実に戦略的な判断だ。
「……。ここは曰く付きの品も売っているらしいな。買い取りもしているのか?」
「曰く付き……ですか? はて……何の話か……」
「惚けるな。早乙女という女から聞いたぞ? 【乙】の仕事と言えば引き受けると」
「むむむ、シズカのヤツめ……」
基本的に曰く付きの品は採算が取れない。買い取りに金が掛かり、かつ祓うにも手間が掛かる。祓った後の品は二束三文にしかならないこともしばしば……。
そういった場合は『物祓い専門』の者に回すか、スミジが直接祓いに向かうとシズカに伝えてあるのだが……客が直接来店したことにスミジは少々困惑していた。
「先に申し上げておきますが、ウチは美術商ですので怪異祓いの仕事は別料金ですよ?」
「何でも構わん。儂は早く何とかしたいだけだ。値段はそっちで決めろ」
「………。とにかく品物の確認をしましょうか」
老人が黒服の一人に目配せすると、その手に持っていた風呂敷を卓の上に差し出した。解いた風呂敷の中にあったのは古びた将棋盤。その上には駒入れの木箱が乗っている。
「…………将棋盤ですね」
「見れば分かるだろう」
「………」
将棋盤もモノによっては美術品と言えなくもない。良いものは確かに高値が付く。しかし、眼前のそれは少々問題があった。盤面に所々黒い染みが浮いているのだ。
「これは……何のシミでしょう?」
「恐らく血だろうな」
「これまた穏やかではないですね……。何故そう思うのです?」
「夜な夜な枕元に出てきて将棋を差す奴が居るからだ。青白い顔でな」
「あ~……成る程。では、詳しい話をお聞きしましょう」
老人達を上がりかまちの脇側にある接客テーブルへと案内したスミジは、人数分の茶と菓子を用意。老人はソファーに腰を下ろしたが黒服達はその背後に仁王立ちで控えている。視界に圧を感じるものの、仕方無いとばかりにスミジは老人の向い側へと座った。
いつも通り午前十時に店を開けたものの、懐覧堂の主・道祖土《さいど》スミジはカウンター代わりの卓に頬杖を突いて眠たげにしている。外を歩くビジネスマン達をただ眺めているのだ。
硝子戸の向こうを歩く人々はキッチリとした身嗜みで時間に追われるように速足だった。対してこちら側──懐覧堂の内側は静寂……まるで時間が逆行したように古物で溢れている。
因みに平日昼間なのでアカリは学校で授業中。
「ふわぁ~……。商品の手入れでもするかな」
本当は掃除をしようとも思ったのだが、それではアカリの仕事を取ってしまうことになる。故にスミジは古びた美術品の手入れを行うことにした。
スミジはキュレーター(※美術専門技能者。ここでは学芸員とは別種の意味)としての技能も有している。道祖土一族は日本画家の一族でもあるので巻物や掛け軸、屏風などの作製・修復技能は自然と身に付いていた。加えてスミジは西洋画の技能を大学で師事した人物から学んだので、絵画に関してはほぼ修繕できると言って良い。
そんなスミジが掛け軸の修理に取り掛かろうかとしたところで、店の硝子戸が開く。
「ここが懐覧堂か……。ふん、黴臭い店だな」
来店したの和装の老人。年の頃は七十~八十前半、気難しそうな顔で、灰色の着物の上に藍色の羽織を纏っている。その手には金属製の杖が握られていた。
背後には黒いスーツにサングラスを着用した体格の良い二人の男……スミジは一瞬怯む……。
「い、いらっしゃいませ~。何が入り用ですか?」
声が上ずりながらも来客した老人の身なりが上質の物と知るや、スミジは途端に揉み手になる。上客を逃すのは得策ではない……実に戦略的な判断だ。
「……。ここは曰く付きの品も売っているらしいな。買い取りもしているのか?」
「曰く付き……ですか? はて……何の話か……」
「惚けるな。早乙女という女から聞いたぞ? 【乙】の仕事と言えば引き受けると」
「むむむ、シズカのヤツめ……」
基本的に曰く付きの品は採算が取れない。買い取りに金が掛かり、かつ祓うにも手間が掛かる。祓った後の品は二束三文にしかならないこともしばしば……。
そういった場合は『物祓い専門』の者に回すか、スミジが直接祓いに向かうとシズカに伝えてあるのだが……客が直接来店したことにスミジは少々困惑していた。
「先に申し上げておきますが、ウチは美術商ですので怪異祓いの仕事は別料金ですよ?」
「何でも構わん。儂は早く何とかしたいだけだ。値段はそっちで決めろ」
「………。とにかく品物の確認をしましょうか」
老人が黒服の一人に目配せすると、その手に持っていた風呂敷を卓の上に差し出した。解いた風呂敷の中にあったのは古びた将棋盤。その上には駒入れの木箱が乗っている。
「…………将棋盤ですね」
「見れば分かるだろう」
「………」
将棋盤もモノによっては美術品と言えなくもない。良いものは確かに高値が付く。しかし、眼前のそれは少々問題があった。盤面に所々黒い染みが浮いているのだ。
「これは……何のシミでしょう?」
「恐らく血だろうな」
「これまた穏やかではないですね……。何故そう思うのです?」
「夜な夜な枕元に出てきて将棋を差す奴が居るからだ。青白い顔でな」
「あ~……成る程。では、詳しい話をお聞きしましょう」
老人達を上がりかまちの脇側にある接客テーブルへと案内したスミジは、人数分の茶と菓子を用意。老人はソファーに腰を下ろしたが黒服達はその背後に仁王立ちで控えている。視界に圧を感じるものの、仕方無いとばかりにスミジは老人の向い側へと座った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる