姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第三章 人が生み出す怪異◆

第十話 討滅②

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「討滅は文字通り討ちものだ。滅ぼせば再び現出することはできない。現世うつしよにも幽世かくりよにも存在が残ることはない」

 理屈は分からないが、討滅された【あやかし】はその存在の噂が拡散し周知されても再生されることはない。一部に復活の記録は残されているものの、それこそ国民的な認知の上百年以上の時間を要しての復活である。
 時が経つほど知名度が低い【あやかし】は忘れ去られ復活の目は絶たれる。道祖土の術である虚式・霊気写法でも顕現が不可能になることから、道祖土一族では【あやかし】にも魂があり討滅はそれを滅ぼすことなのだろうと考えていた。

「お前は多分、一過性の何かで【あやかし】としての力を得たんだろう。この先、話題も薄れていく筈だ。いつかは他の弱い【あやかし】と同じになって忘れ去られていく。でも、今なら……」
『笑止』

 バラゴは退屈そうに大太刀の刀背みねで自らの肩の辺りを叩き首を捻っている。

『貴様の道理など知らぬわ。何を勘違いをしているか知らぬが、我は業魔将バラゴ……魔王様の臣下であり世に災いを齎す者よ。人間如き畜生風情が会話を交わすことさえ不敬なるぞ」
「……………」
『理解できぬのならば四半刻待つがよい。千の死体で山を作ってくれよう』

 ゲラゲラと声をあげて笑うバラゴは隠していた殺気を放出。次の瞬間、森の木々から鳥が一斉に羽ばたいた。
 森は瞬く間に静寂に陥る。動物も虫も逃げ出し、残るのは耳が痛くなる程の無音──。

 千頭岳は本当に異空間の様に静まり返った。

『他の人間が死なねば気付かぬのならば貴様もその程度よ。我が存在は凶である。討ち滅ぼせるならばその力を見せよ。現世に相応しきは人か魔か……その分水嶺が今と知れ』
「………。随分と大袈裟だな、お前は」
『戦いこそが我が愉悦。戦いは生か死かでのみ終止符となる。滅びの無いやり取りなど【戦《いくさ》】ではないわ、たわけが』

 バラゴは一切の偽り無く口にしているのだろう。だがそれは、スミジへ覚悟を説いている様にも感じた。

 スミジも戦いに身を置く者……。バラゴの望みが純粋な死闘であるならば、その意に応えたくなる。

「わかった。じゃあ、戦う中で一度だけお前に封印術を掛ける。それが失敗したら討滅……覚悟は良いな?」
『貴様こそ地獄を覚悟せよ。業魔将の手に掛かった者に魂の解放はない。地獄に囚われ永遠の阿鼻叫喚を供物に捧げるのだ』
「それは……負けられないな」
『我は冥道めいどう業魔将ごうましょう覇羅剛バラゴ……見せてみよ、人間! その力を!』
道祖土さいど流・霊印投写妙法術……道祖土さいど澄璽すみじ。行くぞ!」

 【祓い師】対【あやかし】──その人智を越えた戦いは、誰の目にも触れることなく始まった。
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