姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第四章 存在の善悪◆

第六話 領域と呪物

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 祓い師達の挨拶が済んだ景星学園内では、いよいよ仕事の話へ移る。

「先程も言いましたが、学園敷地内は怪異によって『領域』が生まれています。なので、核になっている怪異を祓うのが最優先と思って下さい」

 『領域』──というのは簡単に言えば簡易幽世かくりよを指す言葉である。

 本来の幽世よりもずっと小さく限定的な空間ではあるが、この『領域』内では怪異が発生し易くなる。それだけではない。幽世かくりよ現世うつしよの境も曖昧になる為、通常見えない様な怪異でも物理世界に干渉出来る様にさえなる。
 また……本当の幽世から現世に渡り易くもなるので下手をすれば『伝承の大妖』が出現する恐れもあった。『領域』の霊気がこれ以上濃くなる前に早めの原因排除が必要……なのだが──。

「私は一昨日学園の調査を行ったんですが、どうも原因が見付からないんですよ……。怪異は全般が【馬】……但し、馬頭人型の怪異はまだ確認していません。学園には厩舎があり本物の馬も存在していますが、ここ数年死んだ存在は無いことを確認済みです。なので原因は別にあるかと」
「ふむ……【馬】か……。道祖土よ……お主の見立てはどうだ?」

 僧侶・賢雲けんうんの問いにしばし思索したスミジは、飽くまで可能性の一つと前置きしつつ推論を述べる。

「どうも怪異全体は不規則に起きる様ですね。核となる【あやかし】が居るなら一貫した何かがある筈なんですが、今回はそれが無い。つまり……核となっている【あやかし】は何等かの理由で自由に移動ができない。若しくは……」

 怪異ではあるが【あやかし】ではない可能性……。

「それは……もしかして呪物じゅぶつということでしょうか?」
「はい。飽くまでも私の経験測と勘ですけどね」

 三条が述べた【呪物じゅぶつ】というのは、その名の通り『呪いの籠った代物』──【あやかし】の様に意思を持ち合わせることなく、一つの念のみを宿す無機物を指す。
 呪物は無機物故に対象を定める思考はなく、関わる相手に別け隔て無く厄を振り撒くという迷惑な代物だ。

 そして呪物に込められるのは負の感情。負の感情は霊気を歪ませ、強い念により物の性質を変化……それはさながら意思の無い【あやかし】の如く、怪異を振り撒き続ける。

 しかし、呪物は生半可な感情では発生しない。

 魂が消滅しても果たすべきと考える程の恨み。死よりも苦しき地獄を体験し、万物を憎む断末魔……或いは自らの不幸を知らぬ他者への歪んだ嫉妬など、祓い師の術に匹敵する程の霊力が発生した際に誕生すると言われている。

 つまり……呪物は知識さえあれば人為的にも造ることが可能である。

「まだ確かなことは分かりません。学園は領域になってから霊気が増え続けていて追跡が難しいんですよ。なので、皆さんを頼った次第です」
「だから『物祓い専門』の俺も呼んだ訳か……。うん! 事情は理解したぜ、スミっち。それで……報酬の話だけどさ?」
「ああ。今説明するよ、御門《みかど》」

 今回……想定よりも厄介な怪異の為、学園側は報酬の上乗せをすることとなった。だが、九人分の報酬となるとそれでも少々微妙な額と言える。しかしながら、怪異と言われても学園側には実害はまだ軽微なので更なる要求に納得するとは思えない。

 これはアカリの頼みから始まったこと。スミジは自らの事情をぼかしつつ自身の報酬は辞退することも考えていると皆に伝えた。

 だが………。
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