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◆第四章 存在の善悪◆
第十三話 馬頭の出現
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「でも、スミジさん……その男の人が呪物を身に付けているなら、移動している訳ですよね? 学園が領域になるのはおかしいと思うんですけど……」
「そうでもないよ、クレハちゃん。領域は長く滞在している場所でも発生するんだ。それに十中八九は馬にまつわる呪物だから本物の馬が居る学園内は寧ろ領域になりやすい」
同族の居る地に根差そうとするのもまた本能か……怪異としては良くある話だとスミジは口にした。
「問題はその【当人】だけど……御門の見立てはどうだった?」
「今のところは何とも……ただ、俺がスミっちを呼んだ理由はアレだ」
御門が指差したのは建物の上部。コンクリート製三階建ての屋上には人型の影が見える。
「おいおい……まさか、アレって……」
「ああ。間違いないぜ」
「馬頭まで……」
馬頭は地獄の獄卒──馬の頭と人の身体を持ち、地獄に落ちた亡者を責め苛むと言われている。馬頭鬼、馬頭羅刹とも呼ばれるが、存在自体は悪しきものではない。
また馬頭は仏教の菩薩や明王としても祀られている。馬頭観音は他にも様々な形態で伝わり崇められていた。
そのどちらもが罪を憎み断罪する系譜と言われ、憤怒にて悪を排すると伝わっている。当然、信心されているので強力な存在である。
(……馬頭は研究棟の中には入っていない。護符が焼き切れたのは呪物のせいか……。と、なると……)
少し迷ったスミジは事前に確認していた祓い師達の携帯端末に連絡。しばし後、祓い師全員が研究棟の前に集結した。
「結局、負けてしまいマシタネ~」
「ふむ……。まさかお主が見付けるとは……見縊っておったわ」
牧師リカルドと僧侶・賢雲は御門に称賛を送る。対する御門は困った顔で肩を竦めた。
「残念だけど俺は見付けただけなんスよ。競争は“祓ったら”って話っスよね?」
「う~む……確かにそうだが……」
と……そこでスミジは御門のフォローに回る。
「スミマセン。御門は物祓い専門なんで【あやかし祓い】は苦手なんです。でも多分、最終的には御門の手柄になると思いますよ?」
「フム……何かあるのだな?」
「はい。ですが、その前にちょっと相談が……」
スミジは現状わかったことについて話を始め、その上で改めて協力を求めた。それは祓い師としてはやはり異例な行為……。
「今の時点での懸念は呪物を持っている男です。手首に付けたアクセサリーらしいんですが……」
男は白衣を纏っていたことから大学関係者であるのだろう。だが、何故呪物を身に付けているのか……この点がまだ明らかになっていない。
「偶々手に入れた……ってことはないの、スミジさん?」
「多分それはないよ、アオバちゃん。領域を創る程の呪物なんて普通は出回らないし、身内からの譲り受けだとしても災いが強力だから一族が跡絶えていてもおかしくはない。つまり……」
「その男が持っていた物が近年呪物化したか……或いはその男が生み出した。または、呪物と知りながら手に入れたとお考えですね?」
嘉藤の言葉にスミジは頷いた。
「そうなると呪物を持つ男は危険ですね。しかし、道祖土さんは何か確信がある……違いますか?」
「はい。馬頭です」
馬頭は罪を赦さない……その馬頭が研究棟の屋上に居るのは、男の様子を見張っているからに他ならないとスミジは考えていた。
「皆さんに集まって貰ったのは協力を願いたいんです」
「具体的には何をすれば良いのかしら?」
「三条さんと嘉藤さんには呪物の持ち主の身元を特定して親族が無事か確認して貰いたいんです。お願いできますか?」
呪物の影響がどこまで出ているのかの確認……それは結果的に呪物の持ち主の意図を読むことにも繋がる。
但し、その為には研究棟に入り人物を特定せねばならない。
「御門も同行して確認を頼む。アオバちゃんとクレハちゃんも一緒にね?」
「うん」
「わかりました」
「で……スミっちはどうすんだ?」
「俺は馬頭と対話してみるよ。賢雲さんも同行して貰えますか?」
「良かろう」
残る榑木とリカルドはこの場で待機。何かあった際にどちらの加勢も可能な位置であり、また急な事態の守りにもなる。
「わかりマシタ」
「俺も構わない……が、少し良いか道祖土?」
「はい」
榑木はスミジを伴い少し離れた位置に移動。周囲を確認した後、小声での会話を始める。
「お前……【咎憑き】の可能性も想定しているか?」
「流石は『百鬼呪解』の榑木さん……気付いてましたか」
「俺を知ってるのか? いや……そうか、夕霧に聞いたんだな」
「はい。彼女は知人ですので話だけは聞いてます」
榑木は一瞬だが表情を弛めた。
「………。まぁ良い。で……咎憑きのことだが」
「榑木さんはどう思います?」
「有り得なくは無い……としか言えないな。お前は呪物の持ち主が咎憑きと繋がりがあると思ってるのか?」
「飽くまで可能性ですけどね。だから榑木さんにあの場での待機を頼みたいんです」
「外敵への備えか……。わかった、引き受ける」
「報酬は無くて良いんですか?」
「俺のことは聞いてるんだろ? そんな縛りはいらないことも」
「ハハハ……。でも、一応の確認です。食うにも金は必要でしょうし」
「フッ……。お前と同じようなものか」
目を閉じ笑う榑木。スミジも苦笑いで応えている。
「一応言っておくが、俺のことは……」
「大丈夫です。他言はしませんから」
「なら良い」
そして学園の怪異はいよいよ真相へと向かう──。
「そうでもないよ、クレハちゃん。領域は長く滞在している場所でも発生するんだ。それに十中八九は馬にまつわる呪物だから本物の馬が居る学園内は寧ろ領域になりやすい」
同族の居る地に根差そうとするのもまた本能か……怪異としては良くある話だとスミジは口にした。
「問題はその【当人】だけど……御門の見立てはどうだった?」
「今のところは何とも……ただ、俺がスミっちを呼んだ理由はアレだ」
御門が指差したのは建物の上部。コンクリート製三階建ての屋上には人型の影が見える。
「おいおい……まさか、アレって……」
「ああ。間違いないぜ」
「馬頭まで……」
馬頭は地獄の獄卒──馬の頭と人の身体を持ち、地獄に落ちた亡者を責め苛むと言われている。馬頭鬼、馬頭羅刹とも呼ばれるが、存在自体は悪しきものではない。
また馬頭は仏教の菩薩や明王としても祀られている。馬頭観音は他にも様々な形態で伝わり崇められていた。
そのどちらもが罪を憎み断罪する系譜と言われ、憤怒にて悪を排すると伝わっている。当然、信心されているので強力な存在である。
(……馬頭は研究棟の中には入っていない。護符が焼き切れたのは呪物のせいか……。と、なると……)
少し迷ったスミジは事前に確認していた祓い師達の携帯端末に連絡。しばし後、祓い師全員が研究棟の前に集結した。
「結局、負けてしまいマシタネ~」
「ふむ……。まさかお主が見付けるとは……見縊っておったわ」
牧師リカルドと僧侶・賢雲は御門に称賛を送る。対する御門は困った顔で肩を竦めた。
「残念だけど俺は見付けただけなんスよ。競争は“祓ったら”って話っスよね?」
「う~む……確かにそうだが……」
と……そこでスミジは御門のフォローに回る。
「スミマセン。御門は物祓い専門なんで【あやかし祓い】は苦手なんです。でも多分、最終的には御門の手柄になると思いますよ?」
「フム……何かあるのだな?」
「はい。ですが、その前にちょっと相談が……」
スミジは現状わかったことについて話を始め、その上で改めて協力を求めた。それは祓い師としてはやはり異例な行為……。
「今の時点での懸念は呪物を持っている男です。手首に付けたアクセサリーらしいんですが……」
男は白衣を纏っていたことから大学関係者であるのだろう。だが、何故呪物を身に付けているのか……この点がまだ明らかになっていない。
「偶々手に入れた……ってことはないの、スミジさん?」
「多分それはないよ、アオバちゃん。領域を創る程の呪物なんて普通は出回らないし、身内からの譲り受けだとしても災いが強力だから一族が跡絶えていてもおかしくはない。つまり……」
「その男が持っていた物が近年呪物化したか……或いはその男が生み出した。または、呪物と知りながら手に入れたとお考えですね?」
嘉藤の言葉にスミジは頷いた。
「そうなると呪物を持つ男は危険ですね。しかし、道祖土さんは何か確信がある……違いますか?」
「はい。馬頭です」
馬頭は罪を赦さない……その馬頭が研究棟の屋上に居るのは、男の様子を見張っているからに他ならないとスミジは考えていた。
「皆さんに集まって貰ったのは協力を願いたいんです」
「具体的には何をすれば良いのかしら?」
「三条さんと嘉藤さんには呪物の持ち主の身元を特定して親族が無事か確認して貰いたいんです。お願いできますか?」
呪物の影響がどこまで出ているのかの確認……それは結果的に呪物の持ち主の意図を読むことにも繋がる。
但し、その為には研究棟に入り人物を特定せねばならない。
「御門も同行して確認を頼む。アオバちゃんとクレハちゃんも一緒にね?」
「うん」
「わかりました」
「で……スミっちはどうすんだ?」
「俺は馬頭と対話してみるよ。賢雲さんも同行して貰えますか?」
「良かろう」
残る榑木とリカルドはこの場で待機。何かあった際にどちらの加勢も可能な位置であり、また急な事態の守りにもなる。
「わかりマシタ」
「俺も構わない……が、少し良いか道祖土?」
「はい」
榑木はスミジを伴い少し離れた位置に移動。周囲を確認した後、小声での会話を始める。
「お前……【咎憑き】の可能性も想定しているか?」
「流石は『百鬼呪解』の榑木さん……気付いてましたか」
「俺を知ってるのか? いや……そうか、夕霧に聞いたんだな」
「はい。彼女は知人ですので話だけは聞いてます」
榑木は一瞬だが表情を弛めた。
「………。まぁ良い。で……咎憑きのことだが」
「榑木さんはどう思います?」
「有り得なくは無い……としか言えないな。お前は呪物の持ち主が咎憑きと繋がりがあると思ってるのか?」
「飽くまで可能性ですけどね。だから榑木さんにあの場での待機を頼みたいんです」
「外敵への備えか……。わかった、引き受ける」
「報酬は無くて良いんですか?」
「俺のことは聞いてるんだろ? そんな縛りはいらないことも」
「ハハハ……。でも、一応の確認です。食うにも金は必要でしょうし」
「フッ……。お前と同じようなものか」
目を閉じ笑う榑木。スミジも苦笑いで応えている。
「一応言っておくが、俺のことは……」
「大丈夫です。他言はしませんから」
「なら良い」
そして学園の怪異はいよいよ真相へと向かう──。
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