姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第四章 存在の善悪◆

第十五話 馬頭との対話

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 エレベーターにて屋上フロアーへと移動し屋外への扉を開けば、そこには馬頭人体なる存在が二人の到着を待っていた。

「敵意は無いようだが……」
馬頭めずは寧ろ神仏寄りの存在ですからね。恐らく今回の件で祓い師である我々のことを待っていたのでしょう」
「ふむ……。そういうことか……」

 高い知性を持つ怪異は自らがどういう存在かを割と理解している。故に滅多なことでは幽世かくりよから出てこない。それは現世うつしよを乱す行為であるから。
 その点、信仰のある馬頭はかなり期待できる。『領域』となった学園に現れたのは何らかの理由があるとスミジは考えていた。

 そして二人はゆっくりと馬頭の元へ近付いて行く。馬頭はその場から動かずじっと見据えたままだ。

 馬頭のその姿はやはり巨体……恐らく三メートルはあろう男の身体。燃えるような赤いたてがみを持つ馬の頭部には小さな二つの角が突き出ていた。
 服装は古代中国に於ける皮の鎧を纏う武人の装い。そしてその手には長い鉄棍が握られている。

(見た目は馬頭鬼めずき寄りの姿だけど……)

 しかし、馬頭は迫力に反してその目は穏やかな光をたたえてえている。

 馬頭に最初に声を掛けたのは賢雲だった。馬頭は仏教としての信仰が強い。故に仏教宗派である天元明智てんげんめいち宗の僧は対談するに最適な人材……賢雲自身もそんなスミジの意図を悟ったのだろう。

馬頭めず……いえ、馬頭ばとう観音様とお見受け致します。私は天元明智てんげんめいち宗の仏法僧、賢雲と申す者です。お会いできて光栄……なれど、まさか生きている内にあなた様と出会うことになるとは思わせなんだ。して……此度こたび何故なにゆえ顕現なされたのでしょうや?」
『僧・賢雲、そして若き祓い師よ……良くぞ参った。私はそなた達を待っていた』
「待っていた……とは?」
『私は自らの意思で顕現した訳ではない。気付いた時にはこの領域に引かれていたのだ。が……この地にて罪を知り戻る訳にもいかず迷っていた』
「それは……恨みに関するものでしょうか?」
『うむ。其処には幾つかの因果と我が眷属の念が絡む。とはいえ、私がこの地にて力を振るう訳にもいかぬであろう?』

 やはり馬頭は対話が可能な存在だった。

 観音は仏教に於いても神聖な存在……【あやかし】と呼ぶには些か障りがあるかもしれない。

「御高配、流石にございます。実はその件……我々の役割として参じた次第ですが、原因の特定が叶わず遅れてしまいました。申し訳ございません」
『いや……寧ろ良く来てくれた。私が思うより事態は悪くはない。それも祓い師達に由るもの……見事だ』
「過分なお言葉を頂き身に余る光栄。それで馬頭観音様……今回の件、子細は御存知でしょうか?」
『うむ。浄玻璃じょうはりの鏡(※1)にて全て』
「おお……。出来ますればお教え願えませぬか? 逸早いちはやく事態を収拾したいと心得ておりますれば……」
『良かろう』

 そして馬頭は、今回の事件の原因たる呪物とそれにまつわる因果を語り始めた。

 それは、人間という存在のごうの深さを思わせる話だった……。


(※1)浄玻璃じょうはりの鏡:浄玻璃の鏡は生前の行い全てを映すという鏡。本来は地獄の閻魔大王の元にあり裁きを行う際に使用する。
 作中に出現した馬頭は地獄の獄卒の認識も含まれるので複合して演出しています。
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