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◆第四章 存在の善悪◆
第二十一話 物祓い
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御門が懐から取り出したのは黒い皮貼りの小箱。テーブルに置き開いた中には、極細の鎖が三種、組み紐が一つ、そして爪楊枝サイズの金の針が十数本、そして水晶製の指輪が綺麗に収納されている。
それらの内、金の鎖を取り出した御門は素早く多田のアクセサリーに絡めた。
「さて……先ずは……」
鎖の端から親指程の円環型の石を一つ通してアクセサリー側に落とす。石は水晶……やや白く半透明な指輪の様な水晶の環は、アクセサリーに触れた途端黒く濁り砕けた。
「おっと……一つじゃ吸いきれないか。じゃあ……」
御門は続けて三つの水晶を鎖に通し様子を見た。一つ目の水晶は先程のもの同様に黒く濁り砕け、二つ目は濁りはしたもののヒビが入った程度。三つ目はやや色がくすんでいる。
「良し……。これでアクセサリーの呪詛は一旦吸い取った。また呪詛が強くなる前に……」
続いて御門は同じ小箱に納められていた組み紐を取り出し多田の腕に巻き付ける。
直後……多田は意識を取り戻した。
「あ……あれ?」
「アンタ、いま自分と話してただろ?」
「え、ええ……」
「呪詛を宿してた……つってもソイツは確かにアンタ自身でもある。アンタがソイツにしてやれることは認めて謝って受け入れることだな。俺の力で呪詛は取り払ってるから、今の内に何とか和解してくれ」
「……。わかりました」
多田は再び無表情になると僅かづつアクセサリーを外そうと動かし始めた。
「御門……」
「大丈夫だ、スミっち。ホラ……」
多田は遂にアクセサリーを腕から外した。と同時に御門は銀の鎖でアクセサリーを雁字搦めにする。
「フゥ~……やっぱ人間相手は疲れるから性に合わねぇな。でも、これで人格と呪物の分離は上手くいったぜ?」
「中々大した手並みだな」
「アンタ程じゃないけどな、榑木さんよ」
その間も御門は手を休めない。自らのスーツの袖を捲り右前腕部を晒せば、そこには青い狼の刺青《いれずみ》が刻まれていた。
「今からが俺の本職だ」
御門の腕の刺青がまるで生き物のように動き始めると腕からスルリと抜け出した。現れたのは仔犬程の大きさをした銀の毛並みを持つ狼……。
「お前……犬神使いか?」
「正解。つっても、ウチの一族は海外から入ってきた亜種だけど」
「それは珍しいな……」
「今となっちゃ俺しか残っていないけどね、一族」
「………」
狼はテーブルの上で指示を待つ。僅かに尻尾が揺れている姿が愛らしいが、御門は手を近付けないよう榑木に念を押した。
「スミっちは知ってるけど、コイツは大喰らいでさ……。俺以外が手なんか出したら食い千切られるから気を付けてくれよ?」
「………」
御門はその間に小箱から金の針を取り出しアクセサリーに刺して行く。そして五本程刺したところで手を止めた。
「五……いや、六つ必要とはソコソコ強力だな。スコル。準備良いか?」
『ガウッ!』
「スコル……?」
「あ? 今、中二病だと思ったろ? 榑木さんよ……大事なことなんだぜ、これは?」
スコルは北欧神話に登場する狼の名前である。魔狼スコルは太陽を喰らおうと追い掛けている巨大な狼……対して目の前の小さな狼ではあまりに乖離がある。
だが御門は、これも術式の内だと肩を竦めた。
「成る程な……神話から強い名前を貰い力に変える訳か」
「そういうこと。っつー訳で……」
アクセサリーに最後の金の針を刺した瞬間、針同士が帯電……火花を散らす。同時に弾かれるように飛び出したのは黒い靄……それこそが今回の事件の核心たる『咎憑きの遺した術式』。
宙に浮いた靄は少しづつ凝固し形を変え始める。そこで御門はスコルに命令を下した。
「喰え! スコル!」
『ガウッ!』
仔犬程の狼スコルの頭部はまるで海外アニメの様にコミカルに頭部が膨らみ靄を一口で喰らった。そして咀嚼しながらスコルの頭部は縮み直ぐに元の姿に戻った。確かに太陽すら喰らおうとする獰猛性の一端が垣間見えたな、と榑木は肩を竦めた。
「よ~し。良くやったぞ、スコル!」
『クゥ~ン!』
二、三度撫でられたスコルは御門の前腕に吸い込まれるように刺青に戻った。
「これで終わったぜ、スミっち」
「お疲れ、御門。榑木さん……今回の報酬は御門が一番で問題無いですよね?」
「ああ。異論はない」
実際、今回一番活躍したのは御門だろう。呪物を特定し、多田の姿を確認し、更に犠牲や被害無く事を成し遂げた。
「……。その犬神を使えば通常の怪異も祓えるだろう? 何故、物祓い専門なんだ?」
「さっきも言ったけど俺は人間相手すんのが面倒なんだよ。スコルは下手すると人まで喰っちまうから……。そうなると……わかるだろ、榑木さん?」
「まぁ……な」
スコルは狼であるが間違いなく【あやかし】──人を喰らう怪異は凶悪な存在へと変貌する可能性が高い。
そうなれば祓わねばならない対象となってしまう。御門は自分の相棒をそうさせたくないのだろう。
それらの内、金の鎖を取り出した御門は素早く多田のアクセサリーに絡めた。
「さて……先ずは……」
鎖の端から親指程の円環型の石を一つ通してアクセサリー側に落とす。石は水晶……やや白く半透明な指輪の様な水晶の環は、アクセサリーに触れた途端黒く濁り砕けた。
「おっと……一つじゃ吸いきれないか。じゃあ……」
御門は続けて三つの水晶を鎖に通し様子を見た。一つ目の水晶は先程のもの同様に黒く濁り砕け、二つ目は濁りはしたもののヒビが入った程度。三つ目はやや色がくすんでいる。
「良し……。これでアクセサリーの呪詛は一旦吸い取った。また呪詛が強くなる前に……」
続いて御門は同じ小箱に納められていた組み紐を取り出し多田の腕に巻き付ける。
直後……多田は意識を取り戻した。
「あ……あれ?」
「アンタ、いま自分と話してただろ?」
「え、ええ……」
「呪詛を宿してた……つってもソイツは確かにアンタ自身でもある。アンタがソイツにしてやれることは認めて謝って受け入れることだな。俺の力で呪詛は取り払ってるから、今の内に何とか和解してくれ」
「……。わかりました」
多田は再び無表情になると僅かづつアクセサリーを外そうと動かし始めた。
「御門……」
「大丈夫だ、スミっち。ホラ……」
多田は遂にアクセサリーを腕から外した。と同時に御門は銀の鎖でアクセサリーを雁字搦めにする。
「フゥ~……やっぱ人間相手は疲れるから性に合わねぇな。でも、これで人格と呪物の分離は上手くいったぜ?」
「中々大した手並みだな」
「アンタ程じゃないけどな、榑木さんよ」
その間も御門は手を休めない。自らのスーツの袖を捲り右前腕部を晒せば、そこには青い狼の刺青《いれずみ》が刻まれていた。
「今からが俺の本職だ」
御門の腕の刺青がまるで生き物のように動き始めると腕からスルリと抜け出した。現れたのは仔犬程の大きさをした銀の毛並みを持つ狼……。
「お前……犬神使いか?」
「正解。つっても、ウチの一族は海外から入ってきた亜種だけど」
「それは珍しいな……」
「今となっちゃ俺しか残っていないけどね、一族」
「………」
狼はテーブルの上で指示を待つ。僅かに尻尾が揺れている姿が愛らしいが、御門は手を近付けないよう榑木に念を押した。
「スミっちは知ってるけど、コイツは大喰らいでさ……。俺以外が手なんか出したら食い千切られるから気を付けてくれよ?」
「………」
御門はその間に小箱から金の針を取り出しアクセサリーに刺して行く。そして五本程刺したところで手を止めた。
「五……いや、六つ必要とはソコソコ強力だな。スコル。準備良いか?」
『ガウッ!』
「スコル……?」
「あ? 今、中二病だと思ったろ? 榑木さんよ……大事なことなんだぜ、これは?」
スコルは北欧神話に登場する狼の名前である。魔狼スコルは太陽を喰らおうと追い掛けている巨大な狼……対して目の前の小さな狼ではあまりに乖離がある。
だが御門は、これも術式の内だと肩を竦めた。
「成る程な……神話から強い名前を貰い力に変える訳か」
「そういうこと。っつー訳で……」
アクセサリーに最後の金の針を刺した瞬間、針同士が帯電……火花を散らす。同時に弾かれるように飛び出したのは黒い靄……それこそが今回の事件の核心たる『咎憑きの遺した術式』。
宙に浮いた靄は少しづつ凝固し形を変え始める。そこで御門はスコルに命令を下した。
「喰え! スコル!」
『ガウッ!』
仔犬程の狼スコルの頭部はまるで海外アニメの様にコミカルに頭部が膨らみ靄を一口で喰らった。そして咀嚼しながらスコルの頭部は縮み直ぐに元の姿に戻った。確かに太陽すら喰らおうとする獰猛性の一端が垣間見えたな、と榑木は肩を竦めた。
「よ~し。良くやったぞ、スコル!」
『クゥ~ン!』
二、三度撫でられたスコルは御門の前腕に吸い込まれるように刺青に戻った。
「これで終わったぜ、スミっち」
「お疲れ、御門。榑木さん……今回の報酬は御門が一番で問題無いですよね?」
「ああ。異論はない」
実際、今回一番活躍したのは御門だろう。呪物を特定し、多田の姿を確認し、更に犠牲や被害無く事を成し遂げた。
「……。その犬神を使えば通常の怪異も祓えるだろう? 何故、物祓い専門なんだ?」
「さっきも言ったけど俺は人間相手すんのが面倒なんだよ。スコルは下手すると人まで喰っちまうから……。そうなると……わかるだろ、榑木さん?」
「まぁ……な」
スコルは狼であるが間違いなく【あやかし】──人を喰らう怪異は凶悪な存在へと変貌する可能性が高い。
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