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◆第四章 存在の善悪◆
第二十二話 馬の怪の終結
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「俺からも一つ聞いて良いかい、榑木さん?」
「何だ?」
「アンタ……いつ多田の母親に話を聞いたんだ?」
それはスミジも疑問だった。
御門が多田を特定してから榑木が接触するまでに三十分程。その間に多田の故郷に向かい話を聞いてくるのはどうあっても不可能だ。
まるで先に知っていたかの様な対応はやはり異常である。
しかし、榑木はそんなことかと笑った。
「悪い。馬鹿にした訳じゃないんだ。俺には日常に近いからな……つい」
「どういうことです?」
「俺の友人に先見ができる奴が居る。まぁ【あやかし】なんだけどな?」
「じゃあ、今回の話……事前に知ってたんですか?」
「いや……知ったのはさっきだ。ソイツは俺が絡む怪異を視て手紙を送ってくる」
そう言うと榑木は懐から手紙を取り出した。その便箋の数、五通──。
「中はギリギリまで見るなと言われている。未来を事前に知るのは良くないらしくてな……だから、対象が判明するまでは開けないんだ」
便箋の中で唯一開封されている手紙の宛名には『多田』と書かれていた。
「ほへぇ~……未来予知とは面白いな。『件』……じゃないよな?」
「流石に違うな……アレはすぐ死ぬだろ? それに予知するのは不幸だけだった筈だ」
【件】は人面に牛の体を持つ【あやかし】。生まれ落ちて直ぐに未来の予言を残し死ぬという怪異だ。件は確実に死ぬので友人ということは無いだろう。
「友人は見た目は人間と変わらない。というか、予知以外は人そのものだ。新妖の類いだから他の力も弱い」
「そんな【あやかし】が居るんですね」
「ああ。俺には大事な友人だよ」
榑木の友人という【あやかし】は事前に見た予知に従い榑木の助けになるよう行動し情報を集めて送ってくるとのこと。多田比呂人が特定されたので便箋を開封、情報を知ったのが先程のやり取りだったのだ。
「さて……疑問も解けたことだし最後の仕上げと行こうぜ、スミっち!」
「……そうだな」
学園の怪異祓いは終わったが、多田比呂人という人間についてはまだ終わっていない。
祓い師が救うのは現世の人間──故に、仕上げとして多田の心を確認せねばならない。
「多田さん」
スミジが声を掛けると多田は直ぐに反応した。
「………。もう一人の私と……話をしました。そして目一杯謝りました。辛いことを押し付けて悪かった、って」
「それで……どうなりました?」
「仕方無いって笑って許してくれました。それから握手したら消えていて……」
多田はポロポロと涙を流している。全ての感情が綯交ぜになった様な表情は人間そのものとも言えた。一つの人格となり、悲しみと苦しみを追体験したのだろう……だが、その目には確かに力が宿っているのがわかる。
「大丈夫……みたいですね」
「はい。もう……大丈夫です。……。とても不思議な体験をしましたけどね」
「ハハハ……。普通なら一生関わらない話でしょうからね、怪異なんて」
世話になったから依頼料を払うと多田は言ったが、スミジは丁重に断った。行動の後から依頼料を請求するのは御法度というべきものだ。
それに、依頼料は学園から払われている。余計な欲を出しすぎないのもまた、祓い師の心構えである。
「おっと……忘れるトコだったぜ? コレを返さないとな」
御門は馬毛で編まれたアクセサリーを手渡すと、多田は大事そうに白衣の胸ポケットに仕舞った。
「多田さん。最後に一つ……そのアクセサリーを造る切っ掛けになった本は何処に?」
今の多田ならば別人格時の記憶も持っている筈。『咎憑き』の呪物たる本を放置しておけばまた似たような問題が起こる。その前に処分が必要だった。
「本は燃やしました。そうやって灰にしたものを儀式として使った……みたいです」
「そうですか……。じゃあ、大丈夫かな」
「疑わないんですか? 嘘かもしれませんよ?」
「そういう術もありますからね……それに、今のあなたが嘘を吐くメリットが無い」
御門が金の針で弾き出した靄は恐らく灰から生まれた呪詛──。咎憑きの遺した本は内容ではなく本そのものが呪法だった様だ。
「さて……じゃあ、我々はこれで。学園側には原因を祓ったとだけ伝えますから安心してください」
「しかし……私には騒ぎを起こした罰が……」
「悪いのは呪詛ですよ。どうしても罪滅しがしたいなら研究で成果を出して下さい。それが学園への贖罪や貢献になります。それに……」
多田の母と亡き父への恩返しにもなるだろうとスミジは微笑んだ。
多田との対話を終えたスミジ、御門、榑木は、多田と握手を交わし席を立つ。多田の横を通り過ぎる際、榑木は一枚の紙を手渡した。
「これは……」
「あなたの母親からですよ」
「えっ……」
見覚えのある懐かしい文字にて小さな紙に書かれていたのは、たった二言……。しかし、多田にはそれで充分だった。
『元気にしてる? たまには帰っておいで』
多田は……再び涙していたが、祓い師達がそれを見ることはなかった。
こうして学園の怪異……『馬の怪』は無事祓われた。しかし……今回の縁で結ばれた祓い師達の話にはまだ続きがある。
「何だ?」
「アンタ……いつ多田の母親に話を聞いたんだ?」
それはスミジも疑問だった。
御門が多田を特定してから榑木が接触するまでに三十分程。その間に多田の故郷に向かい話を聞いてくるのはどうあっても不可能だ。
まるで先に知っていたかの様な対応はやはり異常である。
しかし、榑木はそんなことかと笑った。
「悪い。馬鹿にした訳じゃないんだ。俺には日常に近いからな……つい」
「どういうことです?」
「俺の友人に先見ができる奴が居る。まぁ【あやかし】なんだけどな?」
「じゃあ、今回の話……事前に知ってたんですか?」
「いや……知ったのはさっきだ。ソイツは俺が絡む怪異を視て手紙を送ってくる」
そう言うと榑木は懐から手紙を取り出した。その便箋の数、五通──。
「中はギリギリまで見るなと言われている。未来を事前に知るのは良くないらしくてな……だから、対象が判明するまでは開けないんだ」
便箋の中で唯一開封されている手紙の宛名には『多田』と書かれていた。
「ほへぇ~……未来予知とは面白いな。『件』……じゃないよな?」
「流石に違うな……アレはすぐ死ぬだろ? それに予知するのは不幸だけだった筈だ」
【件】は人面に牛の体を持つ【あやかし】。生まれ落ちて直ぐに未来の予言を残し死ぬという怪異だ。件は確実に死ぬので友人ということは無いだろう。
「友人は見た目は人間と変わらない。というか、予知以外は人そのものだ。新妖の類いだから他の力も弱い」
「そんな【あやかし】が居るんですね」
「ああ。俺には大事な友人だよ」
榑木の友人という【あやかし】は事前に見た予知に従い榑木の助けになるよう行動し情報を集めて送ってくるとのこと。多田比呂人が特定されたので便箋を開封、情報を知ったのが先程のやり取りだったのだ。
「さて……疑問も解けたことだし最後の仕上げと行こうぜ、スミっち!」
「……そうだな」
学園の怪異祓いは終わったが、多田比呂人という人間についてはまだ終わっていない。
祓い師が救うのは現世の人間──故に、仕上げとして多田の心を確認せねばならない。
「多田さん」
スミジが声を掛けると多田は直ぐに反応した。
「………。もう一人の私と……話をしました。そして目一杯謝りました。辛いことを押し付けて悪かった、って」
「それで……どうなりました?」
「仕方無いって笑って許してくれました。それから握手したら消えていて……」
多田はポロポロと涙を流している。全ての感情が綯交ぜになった様な表情は人間そのものとも言えた。一つの人格となり、悲しみと苦しみを追体験したのだろう……だが、その目には確かに力が宿っているのがわかる。
「大丈夫……みたいですね」
「はい。もう……大丈夫です。……。とても不思議な体験をしましたけどね」
「ハハハ……。普通なら一生関わらない話でしょうからね、怪異なんて」
世話になったから依頼料を払うと多田は言ったが、スミジは丁重に断った。行動の後から依頼料を請求するのは御法度というべきものだ。
それに、依頼料は学園から払われている。余計な欲を出しすぎないのもまた、祓い師の心構えである。
「おっと……忘れるトコだったぜ? コレを返さないとな」
御門は馬毛で編まれたアクセサリーを手渡すと、多田は大事そうに白衣の胸ポケットに仕舞った。
「多田さん。最後に一つ……そのアクセサリーを造る切っ掛けになった本は何処に?」
今の多田ならば別人格時の記憶も持っている筈。『咎憑き』の呪物たる本を放置しておけばまた似たような問題が起こる。その前に処分が必要だった。
「本は燃やしました。そうやって灰にしたものを儀式として使った……みたいです」
「そうですか……。じゃあ、大丈夫かな」
「疑わないんですか? 嘘かもしれませんよ?」
「そういう術もありますからね……それに、今のあなたが嘘を吐くメリットが無い」
御門が金の針で弾き出した靄は恐らく灰から生まれた呪詛──。咎憑きの遺した本は内容ではなく本そのものが呪法だった様だ。
「さて……じゃあ、我々はこれで。学園側には原因を祓ったとだけ伝えますから安心してください」
「しかし……私には騒ぎを起こした罰が……」
「悪いのは呪詛ですよ。どうしても罪滅しがしたいなら研究で成果を出して下さい。それが学園への贖罪や貢献になります。それに……」
多田の母と亡き父への恩返しにもなるだろうとスミジは微笑んだ。
多田との対話を終えたスミジ、御門、榑木は、多田と握手を交わし席を立つ。多田の横を通り過ぎる際、榑木は一枚の紙を手渡した。
「これは……」
「あなたの母親からですよ」
「えっ……」
見覚えのある懐かしい文字にて小さな紙に書かれていたのは、たった二言……。しかし、多田にはそれで充分だった。
『元気にしてる? たまには帰っておいで』
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