姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆幕間① 祓い師達の事情◆

幕間・その3 それぞれの事情 

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「………。それにしても和尚、ダンディっスね」
「そうか? まぁ仕事以外では相応しい姿というものがあるということだ」
「だそうだぞ、スミっち」
「………」
「その点、榑木さんは妥当な姿だよな~」

 榑木は黒革のジャケットとパンツルック。一見、ロックバンドのメンバーにも見える。

「……これは目立たず頑丈だからだ。この服には色々術式も組んであるから便利なんだよ」
「そのケースは? ずっと持ってたみたいだけど……」
「仕事道具が入っている。滅多に使わないがな」

 ビリヤードのキューケースに見える革製のケース。榑木が中を開け取り出したのは日本刀……しかも大太刀だった。   

 当然、全員度肝を抜かれる。

「ちょ、ちょっと待て!? 一体何がどうなって入っていた? サイズが合わんぞ?」
「こういう術式だが……」
「いやいやいやいや……おかしいっしょ? え? どういうこと?」

 困惑する賢雲と御門。他の者達も唖然としている。何せケースの倍以上の長さがある刀が出てきたのだ。手品としか思えない事態である。


 祓い師達の術も十分非常識ではある。有り得ない事象を起こし有り得ない存在を祓うのだから、常人から見れば異様そのものなのだ。

 しかし、それでも物質に関しては世界の法則を超えることはない。スミジの使用する墨や札は使う分減るし、筆は幽世存在を材料とした『幽幻筆』を除き劣化する。
 つまり祓い師達がそれぞれ力を行使する際のものは消費を強いられ、道具は最低限持ち歩かねばならないのだ。

 だが……榑木のやっていることは幽世側の法則を普段から使用していることになる。

「それは……禁呪ではないのですか?」

 【禁呪】とは何等かの大きな犠牲や代償が必要、または甚大な被害のでる『使用を避ける忌むべき術』のことである。三条はあまりの常識の埒外故にその可能性を指摘した。

「禁呪ではないから安心して良い、三条茉莉奈。これは仙術だ」
「せ、仙術!?」

 一同は更なる驚きに晒された……。

 仙術──つまり神仙が使用する術。仙人とは生きながらに世界の法則を理解する者。それは現世うつしよ幽世かくりよだけでなくその先にさえ届き得る力を宿すとされている。
 一端とはいえ力を見せた榑木すばるは最早人間ではないとも思われた。

 だが……榑木はそれを否定した。

「人間は常に『世界』に触れている。その一部を借りるのは祓い師の術も同じ……要はアプローチの違いに過ぎない」
「では……私達も仙術を使えるのですか?」
「可能性はある。俺は少々特殊な過去があってな……結果として色々修得しなければ死んでいた。相棒……いや、師匠に恵まれたからまだ生きている様なものだ」
「……………」

 それでも……やはり異例と言うべき存在には違いない。祓い師達は僅かに動揺を消せないでいた。そこで空気を変えるべく動いたのがスミジだった。

「スバルさんは信頼できる人だから安心して良いですよ」
「スミっち……何か知ってるのか?」
「ああ。俺は知人からスバルさんの話を聞いたことがあったんだ。個人のことだからあまり詳しくは話せないけど、間違いなく頼れる人だよ」

 榑木は照れているのか顔を背け窓の外を見ている。その様子に御門は小さく笑った。

「ハハ。ま、スミっちがそう言うなら俺は信じるさ。困った時は頼りにするから頼むぜ、榑木さんよ?」
「……ああ」
「つぅ訳でだ。話せないことがある場合は自己申告で回避……それで良いか、牧師さん?」
「勿論デス。ワタシも話せないコト、どうしてもアリマス。だから、話せるコトだけで良いので仲良くしまショウ!」
「だとさ、お嬢さん。じゃあ音頭の方頼むわ」

 御門に仕切りを任された三条は、呆れた顔で応えつつ改めて懇親会の挨拶を始めた。

「この場に居る方々は皆、祓い師としての流派が違います。ですが、この懇親会で互いに助け合える関係となれると私も信じたいと思います。先ずはちょっとした軽食と飲み物を御用意致しましたので、気楽に談笑しながら楽しんで下さいまし」

 その間に立ち上がった嘉藤は、別室に用意されていた料理と飲み物を運んできた。ちょっとどころかかなり豪勢な料理に祓い師達の雰囲気も随分と明るくなった。

「んじゃ……先ずは俺からだな。皆見てたと思うけど、俺は物祓い専門の【犬神使い】だ。だけど、日本の【犬神憑き】とはちっとばかり違う」
「質問良いか?」
「何だ、榑木さん?」
「その髪の色は地毛か?」
「まぁね。俺の親父は日本人だけどお袋は北欧生まれなんだよ。金髪はお袋譲りだ」

 御門は母方の一族の話はしないと前置きし話を続けた。

「あの犬……スコルでシタカ? あれも【あやかし】デスヨネ?」
「そうだぜ~? ただ、普段は俺の腕の中に住んでるからよ……まともな職に就けないのさ」

 日本人寄りの顔の造型に金髪、そして腕の刺青紋様──今の日本で普通に働くには少々難がある。まして御門は天涯孤独だという。
 だから御門は選んだ。そうであっても違和感の無い職種を。

 因みに『物祓い』を本業とする御門はリサイクルショップのオーナーでもある。ホスト業は週ニ~三で出勤とのことだった。

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