姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆幕間① 祓い師達の事情◆

幕間・その9 守る覚悟

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 親睦会から翌々日──。

「スミジさん、ありがとうございました」

 懐覧堂内……アルバイトに来ていたアカリは深々と頭を下げている。

「あれからおかしなことは起きてない?」
「はい。あ……そう言えば馬術部に親切な院生が指導に来てくれたって。乗馬が凄く上手な人だそうですよ」
「そっか……」

 多田比呂人は色々と吹っ切れたらしく馬術部に顔を出すようになった様だ。

 【怪異】と接触した者は稀に霊力に目覚める……【領域】と化していたことを考えるとその恐れもあったのだが、今のところ問題は無いらしい。
 スミジは一応、しばらく気を付けるようにとアカリに念を押した。

「それにしても……馬ばかりっていうのも不思議ですね」
「馬って案外そういう話多いんだよ? 馬の怨みは蛇とか猫並にあるし」
「そうなんですか?」
「うん。でも、今回は馬だったからこそ楽に祓えたとも言えるけどね?」

 馬頭めずの存在は『領域』を祓う際に大きな助力となったのは間違いない。その意味では確かに楽な仕事だったとも言える。

「アカリちゃん自身は大丈夫?」
「はい。特には……」
「それなら良かった」

 と……そこで来客が。来訪したのは四十半ば程の落ち着いた雰囲気のある男。
 紺のジャケットを羽織った男は笑顔でスミジに挨拶した。

「やあ、スミジくん」
「貴士さん。珍しいですね、こちらに来るなんて」
「娘達が世話になったと聞いたから御礼にね」

 どうやら美術品を求める客ではないと理解したアカリは、スミジに素性を確認をする。

「スミジさん、こちらの方は……?」
「貴士さん……俺の親戚筋で神社の宮司さんだよ」
「初めまして、久郷アカリと言います。スミジさんのところでアルバイトをしています」
「九頭竜貴士です。宜しくね……あ、コレお土産のケーキだから皆で食べないかい?」
「わぁ! じゃあ、私コーヒー煎れて来ますね!」

 アカリは上機嫌で奥の部屋へと姿を消した。

「……あの娘が例の?」
「ええ。恥ずかしながら憑いているのが強力な【あやかし】でまだ祓いきれていません」
「そうか……。さて……それはともかく、娘達が世話になったね」
「いえ……。俺は飽くまで話をしただけですし。祓い師の技術なんかは殆ど何も教えてませんよ。それより、その……余計なことを話しました」
「妻との話かい? いや、逆に良かったよ。私自身が語るには少し気恥ずかしくてね」
「ハハハ」

 九頭竜姉妹が気にしていた両親の間の愛情……確かに当人が語るには敬遠する内容かもしれない。

「しかし、不思議な縁だ。まさか君と娘達が祓い仕事で出会うとは……」
「初めて会いましたが二人とも真面目で良い子でしたよ」
「少し甘やかし過ぎているかとも思ったけどね」
「まぁ、今回は大目に見てあげて下さい」

 そこで九頭竜貴士は僅かに沈黙した。

「……。今回は【咎憑き】絡みだったと聞いたけど……」
「三条さんから連絡が?」
「うん。幾つか情報交換と今後の連携の確認をね」
「…………」

 懇親会が御開きになる際、九頭竜姉妹を先に帰宅させた後で今後の問題が話し合われた。多田比呂人が手に入れた呪物についてである。

「呪術書は多田比呂人の言った通り『燃やして儀式に使用した』……というのは嘘じゃないでしょう。でも……」
「複製品や類似のものが幾つあるか……だね?」
「ええ。それを書いた【咎憑き】の名前が判らなかったのは痛いですね」
「仕方無いさ。こればかりは皆で……それと公的機関とも協力するしかない。三条さんという大きな協力者もできたのは寧ろ幸運だと思う」
「そうですね……」

 今も何処かに潜んでいるだろう【咎憑き】──これもまた祓い師としての大きな脅威である。

 いつか対峙する可能性は否定できないのだ。その際、人間相手に命のやり取りを繰り広げねばならぬ可能性もある。

「私はあの娘達を本格的に鍛えようと思う。今のままでは【龍】の力に飲まれる可能性があるからね……【咎憑き】達がそれ自体を狙ってくる可能性もある」
「そうですね……」
「せめて自分の身を守れるようにはしてやらないと」

 隠し巫女としているのは【咎憑き】の様な存在から遠ざける意味もある。古くは時の権力者から悪用されないよう隠す意味があったのだが……。

「君も気を付けて。あのは……」
「大丈夫ですよ。そんな真似はさせませんから」
「……。君がそう言うなら大丈夫かな」

 アカリを守るというスミジの強い意志を悟った貴士は小さく微笑む。

 道祖土本家の次期当主。その実力は貴士自身よりもずっと強い。死線を潜り抜けた数も相当なものだろう。
 それでも……貴士には不安が拭えないのだ。

「お待たせしました~」
「おお! 美味そうだ!」
「ダメですよ、スミジさん。先ずは手の消毒です!」
「は~い。さぁ、貴士さんも」
「うん。いただくよ」

 願わくば誰も傷付かない日々を……楽しげなスミジとアカリの様子を見守る貴士は、心からそう願うのであった──。 

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