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◆第五章 森羅の中◆
第三話 スミジ、山に登る
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古来より山はしばしば信仰の対象とされる。
人の力では抗いようの無い噴火、土砂崩れ、雪害などの多くの災害を内包し、同時に果実や水源、樹木という多大な恵みを与える自然の最たるもの──山は確かに神に見立てられるに相応しい雄大さを備えているのだ。
スミジが向かったのは森林限界・高木限界の無い自然豊かな山。それなりに標高はあるものの、岩肌が見えるのは一部のみという場所である。
それはシズカの言っていた通り『ハイキングには向かない』結構険しい山なのだが………。
「こんにちは。良いお天気ですね~」
「こんに!? ……こ、こんにちはぁ……」
スミジは山を往く。そう……リュックを背負い、いつもの作務衣姿で。
空梅雨とはいえ初夏には届かない時期……麓と違い山間部は独特の気流に加えて、岩山や樹木が陰を生み出す影響で気温が低い。その証拠に、中腹辺りで出会った登山家らしき人物は長袖厚着の防寒をしていた。
「だ、大丈夫なんですか……?」
「え? ああ……大丈夫ですよ。こう見えても体力には自信があるのでまだまだ行けます!」
「そ、そうですか……」
違う!そうじゃないんだ!そんな薄着では今はともかく夜に凍えてしまわないか?……と登山家は心の中で叫ぶ。が……あまりに爽やかなスミジの笑顔に登山家はそれ以上何も言えなかった。
しかし、彼は山を愛する者。スミジが通り過ぎた後、僅かに迷った末改めて注意を促そうと振り返ったのだが……そこには既に人の姿が無かった……。
「……作務衣姿の妖怪……いや……」
登山家は空を仰いだ。
きっと先程の者は山の主に違いない。帰ったら早速、ネットで同じ体験をした者がいないか確認してみよう──そう考え足早に山を下りることにした。
その日……同じ様な体験をした者が数名出たが、一番驚いたのはスミジが立ち寄った山小屋の管理人だろう。
「あ、あんた……その恰好でここまで来たのか?」
「ええ。いやぁ……やっぱり自然は良い。心と身体が引き締まりますね。あ、カレーライス頂けますか?」
「あ、ああ……」
それは寒さで身が縮こまっているだけではないのか?と管理人の男は自問する。管理人は当該六十五歳……四十年の山小屋管理の歴史上、初めての事態である。
正直、管理人は『山をナメるな!』と殴りたい気持ちもあった。しかし、スミジのあまりに爽やかな笑顔に何も言えないでいた……。
「時に管理人さん。この山で妖怪を見たという話を聞いたことありませんか?」
「……成る程。【貉】の流れか……」
「えっ? この山は貉が出るんですか?」
落語の【貉】は行く先々で『のっぺらぼう』に出会い、最後にその話をした相手が『それはこんな顔かい?』とのっぺらぼうだったオチで終わる作品である。管理人は目の前の男が『作務衣の妖怪を知らないか?』といつ訊ねてくるか警戒しながらカレーライスを用意した。
「この辺りの山は何が祀られてますか?」
「確か天狗だった筈だが……ま、まさか、アンタは天狗か!?」
「い、いや……私は天狗ではないですよ?」
どうも会話が噛み合わないので、スミジは事情をザックリと説明する。途端に管理人は笑いだした。
「ハッハッハ! 何だ、アンタ祓い師だったか……。驚かせんでくれよ」
「祓い師を知ってるんですか?」
「まぁ山の管理人を長くやっていると色々とな。しかしなぁ……アンタ、その姿には大概驚くぞ?」
「そうですか? 冬の雪山なら流石に防寒するんですが、今日くらいの気温なら問題ないかと……」
「祓い師ってのは頑丈なんだな……」
人の力では抗いようの無い噴火、土砂崩れ、雪害などの多くの災害を内包し、同時に果実や水源、樹木という多大な恵みを与える自然の最たるもの──山は確かに神に見立てられるに相応しい雄大さを備えているのだ。
スミジが向かったのは森林限界・高木限界の無い自然豊かな山。それなりに標高はあるものの、岩肌が見えるのは一部のみという場所である。
それはシズカの言っていた通り『ハイキングには向かない』結構険しい山なのだが………。
「こんにちは。良いお天気ですね~」
「こんに!? ……こ、こんにちはぁ……」
スミジは山を往く。そう……リュックを背負い、いつもの作務衣姿で。
空梅雨とはいえ初夏には届かない時期……麓と違い山間部は独特の気流に加えて、岩山や樹木が陰を生み出す影響で気温が低い。その証拠に、中腹辺りで出会った登山家らしき人物は長袖厚着の防寒をしていた。
「だ、大丈夫なんですか……?」
「え? ああ……大丈夫ですよ。こう見えても体力には自信があるのでまだまだ行けます!」
「そ、そうですか……」
違う!そうじゃないんだ!そんな薄着では今はともかく夜に凍えてしまわないか?……と登山家は心の中で叫ぶ。が……あまりに爽やかなスミジの笑顔に登山家はそれ以上何も言えなかった。
しかし、彼は山を愛する者。スミジが通り過ぎた後、僅かに迷った末改めて注意を促そうと振り返ったのだが……そこには既に人の姿が無かった……。
「……作務衣姿の妖怪……いや……」
登山家は空を仰いだ。
きっと先程の者は山の主に違いない。帰ったら早速、ネットで同じ体験をした者がいないか確認してみよう──そう考え足早に山を下りることにした。
その日……同じ様な体験をした者が数名出たが、一番驚いたのはスミジが立ち寄った山小屋の管理人だろう。
「あ、あんた……その恰好でここまで来たのか?」
「ええ。いやぁ……やっぱり自然は良い。心と身体が引き締まりますね。あ、カレーライス頂けますか?」
「あ、ああ……」
それは寒さで身が縮こまっているだけではないのか?と管理人の男は自問する。管理人は当該六十五歳……四十年の山小屋管理の歴史上、初めての事態である。
正直、管理人は『山をナメるな!』と殴りたい気持ちもあった。しかし、スミジのあまりに爽やかな笑顔に何も言えないでいた……。
「時に管理人さん。この山で妖怪を見たという話を聞いたことありませんか?」
「……成る程。【貉】の流れか……」
「えっ? この山は貉が出るんですか?」
落語の【貉】は行く先々で『のっぺらぼう』に出会い、最後にその話をした相手が『それはこんな顔かい?』とのっぺらぼうだったオチで終わる作品である。管理人は目の前の男が『作務衣の妖怪を知らないか?』といつ訊ねてくるか警戒しながらカレーライスを用意した。
「この辺りの山は何が祀られてますか?」
「確か天狗だった筈だが……ま、まさか、アンタは天狗か!?」
「い、いや……私は天狗ではないですよ?」
どうも会話が噛み合わないので、スミジは事情をザックリと説明する。途端に管理人は笑いだした。
「ハッハッハ! 何だ、アンタ祓い師だったか……。驚かせんでくれよ」
「祓い師を知ってるんですか?」
「まぁ山の管理人を長くやっていると色々とな。しかしなぁ……アンタ、その姿には大概驚くぞ?」
「そうですか? 冬の雪山なら流石に防寒するんですが、今日くらいの気温なら問題ないかと……」
「祓い師ってのは頑丈なんだな……」
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