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◆第五章 森羅の中◆
第四話 大自然の中で
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管理人は祓い師と一括りにしたが、祓い師といえど一般人と感覚は変わらない。スミジが少しズレているのは修行時代に過酷な環境に慣れたが故……。それでも一応、【霊印】で様々な対策していることを当然管理人は知る由もない。
「ま、事情は分かった。確かに登山客から話は聞いているよ。何でも毛深い変な男が出るとか」
「毛深い……ですか?」
「ああ。この山はキャンプ泊する人達も居てな……殆どはその人達の遭遇だ。何でも、夜に焚き火していると登山用の服を着た男が現れるらしい」
見た目は人間そのものだが顔や手が妙に毛深い男は、その目だけが闇のように染まって見えるという。男は火を挟んだ向かい側に座って無言のまま動かないそうだ。
「それだけですか?」
「いや……稀に話し掛けて来るらしい。“腹減った”とか“酒くれ”とか」
「そ、それは、只のオッサンでは……」
「気付くと消えているって話だから幽霊の可能性もあるぞ? ここは雪山にもなるから遭難者が出た過去もあるからな」
管理人は【あやかし】に遭遇してはいないが、幽霊らしきものは見たという。だが、スミジはそういった判断は難しいのだと管理人の言葉を訂正した。
「【あやかし】と幽霊の外見って割と曖昧なんですよ。人型でも【あやかし】だったり、変化していても幽霊だったり……。今回の山男も同じです」
「人の姿してりゃ幽霊なんじゃないのか?」
「それがまた、そうとも限らないんですよねぇ……」
以前も述べたが、幽霊は【あやかし】に変化することがある。呪詛や怨恨による変化を起こす場合もあれば、他の【あやかし】に取り込まれることもある。長く幽霊で居続ける際に土地の影響から存在が変わることもあるのだ。
逆に【あやかし】は、人の似姿をとる個体も居る。殆どは人間が無意識にそう捉えようとする影響だが、中には人に擬態し害を為すものも存在する。
スミジも直接【あやかし】を目にすれば判るが、情報だけでは推察するしかないのだと答えた。
「だからその山男も幽霊かもしれないです。でも、多分……」
「違うってのか?」
「ええ。私に依頼が来たのはあなたが言った山男で間違いないとは思います。でも、その山男の話は他にもあって正体の予測はしてるんですよ」
「それは一体……」
「【覚】ですよ」
「サトリって……あの心を読むヤツか?」
【覚】は人の心を読む【あやかし】である。山中にて遭遇した人間が心を読まれるが、爆ぜた焚き火に驚いて去ってゆく話は割と有名ではないだろうか。
「そんな訳で……どの辺りに山男が出るか教えて貰えませんか?」
「あ、ああ……。特に決まった場所は無いみたいが、聞く限りでは西の稜線のこちら側……後はやっぱり森の中が多いな」
「成る程。分かりました……とにかく、行ってみます」
「アンタ達祓い師に言うことかどうか分からんが……ともかく気を付けてな?」
「ありがとうございます。カレー美味しかったです」
大きなリュックを背負ったスミジは山小屋を後にした。ここからは霊力上昇に向いた土地を探し、夜はそこでキャンプ泊をする予定だ。
(さて……先ずは……)
懐から取り出した札に一筆……描いたのは『提灯おばけ』である。
「古き付喪よ、より深き霊地にてその身を癒せ──【絵妖・化け提灯】」
札がメラメラと燃え盛り膨らんだ中から現れたのは提灯の付喪神。が……かなり透けている。
「う~ん……やっぱり霊地といえど昼間は顕現が難しいな……。ま、良いや。化け提灯、霊脈探し手伝ってくれ」
化け提灯は二、三度明滅した後ふらりと浮遊しながら移動を始める。日中故か勢いは無く、ゆっくりと進んで行く。スミジはその後を淡々と追っていった。
森を抜け小川を越え、岩を乗り越えまた森へ……やがて化け提灯は、森の中の大樹付近で止まった。
「………。へぇ……確かに霊気が清浄な場所だな。化け提灯、ごくろうさん」
化け提灯はそのまま大樹の中へと吸い込まれる様に消えていった。
「良し……この辺りなら期待できるかな。もう少し川の近くで野営の準備しよう」
手慣れた様子でテントを張り、焚き火台を用意し薪を集める。そして浄水ボトルに川の水を汲んだスミジは、その身一つで森の中を駆ける。
「懐覧堂で作業してると身体が鈍るからなぁ……。ちょっと本気で走るか」
そう口にしたスミジは木々を縫う様に森を駆け抜けた。そして勢いそのままに岩山に貼り付き登って行く。まるで蜥蜴のように頂点まで登り詰めると一気に跳躍しつつ岩場から木の枝へと跳び移った。
パルクールの如き身の熟しにて移動を続け小一時間──スミジは最後に作務衣姿のまま川へ飛び込んだ。
そこからしばらく静寂が続き五分程が過ぎた頃、川からのそりと這い上がる作務衣男……その手には一匹のイワナを携えていた。
スミジ、野人化……ではなく、これも修行の一環である。
自然界は幽世とも繋がりが強い。自然の中をその身一つで生き抜けることは幽世にも耐性を宿すことに繋がる。
道祖土家の修行の中には手ぶらでひと月の間山暮らしを行うというものがある。スミジはほんの少し昔を思い出していた……。
「ま、事情は分かった。確かに登山客から話は聞いているよ。何でも毛深い変な男が出るとか」
「毛深い……ですか?」
「ああ。この山はキャンプ泊する人達も居てな……殆どはその人達の遭遇だ。何でも、夜に焚き火していると登山用の服を着た男が現れるらしい」
見た目は人間そのものだが顔や手が妙に毛深い男は、その目だけが闇のように染まって見えるという。男は火を挟んだ向かい側に座って無言のまま動かないそうだ。
「それだけですか?」
「いや……稀に話し掛けて来るらしい。“腹減った”とか“酒くれ”とか」
「そ、それは、只のオッサンでは……」
「気付くと消えているって話だから幽霊の可能性もあるぞ? ここは雪山にもなるから遭難者が出た過去もあるからな」
管理人は【あやかし】に遭遇してはいないが、幽霊らしきものは見たという。だが、スミジはそういった判断は難しいのだと管理人の言葉を訂正した。
「【あやかし】と幽霊の外見って割と曖昧なんですよ。人型でも【あやかし】だったり、変化していても幽霊だったり……。今回の山男も同じです」
「人の姿してりゃ幽霊なんじゃないのか?」
「それがまた、そうとも限らないんですよねぇ……」
以前も述べたが、幽霊は【あやかし】に変化することがある。呪詛や怨恨による変化を起こす場合もあれば、他の【あやかし】に取り込まれることもある。長く幽霊で居続ける際に土地の影響から存在が変わることもあるのだ。
逆に【あやかし】は、人の似姿をとる個体も居る。殆どは人間が無意識にそう捉えようとする影響だが、中には人に擬態し害を為すものも存在する。
スミジも直接【あやかし】を目にすれば判るが、情報だけでは推察するしかないのだと答えた。
「だからその山男も幽霊かもしれないです。でも、多分……」
「違うってのか?」
「ええ。私に依頼が来たのはあなたが言った山男で間違いないとは思います。でも、その山男の話は他にもあって正体の予測はしてるんですよ」
「それは一体……」
「【覚】ですよ」
「サトリって……あの心を読むヤツか?」
【覚】は人の心を読む【あやかし】である。山中にて遭遇した人間が心を読まれるが、爆ぜた焚き火に驚いて去ってゆく話は割と有名ではないだろうか。
「そんな訳で……どの辺りに山男が出るか教えて貰えませんか?」
「あ、ああ……。特に決まった場所は無いみたいが、聞く限りでは西の稜線のこちら側……後はやっぱり森の中が多いな」
「成る程。分かりました……とにかく、行ってみます」
「アンタ達祓い師に言うことかどうか分からんが……ともかく気を付けてな?」
「ありがとうございます。カレー美味しかったです」
大きなリュックを背負ったスミジは山小屋を後にした。ここからは霊力上昇に向いた土地を探し、夜はそこでキャンプ泊をする予定だ。
(さて……先ずは……)
懐から取り出した札に一筆……描いたのは『提灯おばけ』である。
「古き付喪よ、より深き霊地にてその身を癒せ──【絵妖・化け提灯】」
札がメラメラと燃え盛り膨らんだ中から現れたのは提灯の付喪神。が……かなり透けている。
「う~ん……やっぱり霊地といえど昼間は顕現が難しいな……。ま、良いや。化け提灯、霊脈探し手伝ってくれ」
化け提灯は二、三度明滅した後ふらりと浮遊しながら移動を始める。日中故か勢いは無く、ゆっくりと進んで行く。スミジはその後を淡々と追っていった。
森を抜け小川を越え、岩を乗り越えまた森へ……やがて化け提灯は、森の中の大樹付近で止まった。
「………。へぇ……確かに霊気が清浄な場所だな。化け提灯、ごくろうさん」
化け提灯はそのまま大樹の中へと吸い込まれる様に消えていった。
「良し……この辺りなら期待できるかな。もう少し川の近くで野営の準備しよう」
手慣れた様子でテントを張り、焚き火台を用意し薪を集める。そして浄水ボトルに川の水を汲んだスミジは、その身一つで森の中を駆ける。
「懐覧堂で作業してると身体が鈍るからなぁ……。ちょっと本気で走るか」
そう口にしたスミジは木々を縫う様に森を駆け抜けた。そして勢いそのままに岩山に貼り付き登って行く。まるで蜥蜴のように頂点まで登り詰めると一気に跳躍しつつ岩場から木の枝へと跳び移った。
パルクールの如き身の熟しにて移動を続け小一時間──スミジは最後に作務衣姿のまま川へ飛び込んだ。
そこからしばらく静寂が続き五分程が過ぎた頃、川からのそりと這い上がる作務衣男……その手には一匹のイワナを携えていた。
スミジ、野人化……ではなく、これも修行の一環である。
自然界は幽世とも繋がりが強い。自然の中をその身一つで生き抜けることは幽世にも耐性を宿すことに繋がる。
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