姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第五章 森羅の中◆

第六話 サトリ

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 サトリと呼ばれた男は無言のままコーヒーを飲んだ。その目はスミジではなく焚き火に向けられている。

「先ずは自己紹介かな……俺は……」
道祖土さいどスミジ……はらいし……。祓い師? ………。祓い師はこちら側幽世に近い人間……」
「……。流石はサトリ、記憶まで読むのか……」
「来たのはサトリに会う為……霊力もあびる……」
「そういうこと。で……」
「“とうめつ”に来た訳じゃない……本当に話にきただけ……」
「こ、ここまで会話が端折はしょられるのはちょっと妙な気分だな……」

 会話を始めようとすると答えが来る。かなり時間短縮になるので確かに違和感はある。

「それでな?」
「サトリ……服、ひろった。人間……たおれてた」
「やっぱりか……」

 スミジは依頼を受けた際、その【怪異】が発生した土地の歴史を調べる。加えて現地にて更なる調査を行うのだ。
 今回は目撃証言のみであったが、事前に山で起きた事故を調べておいた。

 数年前の冬……全裸の男性が山道にて発見された。男性は既に冷たくなっていたが、不可解な点が幾つかあった。

 先ず、何故服を着ていなかったのか?日本の山で物取りも無いだろうということで自ら脱いだと警察は判断した。しかし、そうなると疑問が生まれる。男性の死因は凍死ではなく転落死と判断されたからだ。

 男性が見付かった場所は転落する程の崖が存在した訳ではない。つまり、男性は『全裸で滑落した後、山道まで歩いた』ことになる。
 しかし、それはあまりに現実的ではない。故に警察は、『ある事実』を理由に誰かが運んだと結論付けた。

 その事実とは、遺体の傍に花が手向けられていたこと──。遺体発見時、季節に合わぬ花が男性の傍に綺麗に並べられていたのである。
 男性の身元から事件性は無いと判断され、事件は不可解さを残しながらも終結となっている。

「お前が運んでやったんだな……。事故に遭った人を家族の元に送ってやる為に」
「そう……。家にかえりたがってた」
「でも、服を……」
「もらった……。人……おどろくから……」
「……成る程」

 サトリは山男と言って良い風体である。故に人の前に現れると相手を怖がらせてしまう。服を着たのはせめてもの配慮らしい。

「………この山の主はお前だな?」

 サトリは小さく首肯いた。山の主……それは、つまり山の神である。

 山の神は善良とは限らない。自然そのものである山の神は恵みを与えると同時に奪う存在でもある。だが、今目の前にいるサトリは人に対して寛容だった。人の死を悼み花を手向ける【あやかし】などスミジも殆ど知らない。

 スミジは、そんな優しい山の主に改めて感謝の意を示す。

「ありがとう、サトリ」
「…………」
「そうだ。酒は………」
「もらう……」
「ハハハ」

 山の神様は酒が好きらしい。

 焚き火で新しく食材を焼きながら、持参した酒の小瓶を開けささやかな宴を行った。

 サトリがぜる焚き火に驚き逃げる……という逸話があるが、今の時代まで山神として存在したのならばその程度で驚く訳もない。
 それでも……その心には常に様々な意識が流れ込むのだろう。人以外の獣、虫、魚、花や木といった植物──そんな中で稀に現れる人間の心は、賑やかでサトリにとっての楽しみだったのかもしれない。

 スミジはできるだけ楽しいことを考え夜を明かす。サトリが寂しくないように……それもまた祓い師の役目だと思ったのだ。
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