77 / 153
◆第五章 森羅の中◆
第六話 サトリ
しおりを挟む
サトリと呼ばれた男は無言のままコーヒーを飲んだ。その目はスミジではなく焚き火に向けられている。
「先ずは自己紹介かな……俺は……」
「道祖土スミジ……はらいし……。祓い師? ………。祓い師はこちら側に近い人間……」
「……。流石はサトリ、記憶まで読むのか……」
「来たのはサトリに会う為……霊力もあびる……」
「そういうこと。で……」
「“とうめつ”に来た訳じゃない……本当に話にきただけ……」
「こ、ここまで会話が端折られるのはちょっと妙な気分だな……」
会話を始めようとすると答えが来る。かなり時間短縮になるので確かに違和感はある。
「それでな?」
「サトリ……服、ひろった。人間……たおれてた」
「やっぱりか……」
スミジは依頼を受けた際、その【怪異】が発生した土地の歴史を調べる。加えて現地にて更なる調査を行うのだ。
今回は目撃証言のみであったが、事前に山で起きた事故を調べておいた。
数年前の冬……全裸の男性が山道にて発見された。男性は既に冷たくなっていたが、不可解な点が幾つかあった。
先ず、何故服を着ていなかったのか?日本の山で物取りも無いだろうということで自ら脱いだと警察は判断した。しかし、そうなると疑問が生まれる。男性の死因は凍死ではなく転落死と判断されたからだ。
男性が見付かった場所は転落する程の崖が存在した訳ではない。つまり、男性は『全裸で滑落した後、山道まで歩いた』ことになる。
しかし、それはあまりに現実的ではない。故に警察は、『ある事実』を理由に誰かが運んだと結論付けた。
その事実とは、遺体の傍に花が手向けられていたこと──。遺体発見時、季節に合わぬ花が男性の傍に綺麗に並べられていたのである。
男性の身元から事件性は無いと判断され、事件は不可解さを残しながらも終結となっている。
「お前が運んでやったんだな……。事故に遭った人を家族の元に送ってやる為に」
「そう……。家にかえりたがってた」
「でも、服を……」
「もらった……。人……おどろくから……」
「……成る程」
サトリは山男と言って良い風体である。故に人の前に現れると相手を怖がらせてしまう。服を着たのはせめてもの配慮らしい。
「………この山の主はお前だな?」
サトリは小さく首肯いた。山の主……それは、つまり山の神である。
山の神は善良とは限らない。自然そのものである山の神は恵みを与えると同時に奪う存在でもある。だが、今目の前にいるサトリは人に対して寛容だった。人の死を悼み花を手向ける【あやかし】などスミジも殆ど知らない。
スミジは、そんな優しい山の主に改めて感謝の意を示す。
「ありがとう、サトリ」
「…………」
「そうだ。酒は………」
「もらう……」
「ハハハ」
山の神様は酒が好きらしい。
焚き火で新しく食材を焼きながら、持参した酒の小瓶を開けささやかな宴を行った。
サトリが爆ぜる焚き火に驚き逃げる……という逸話があるが、今の時代まで山神として存在したのならばその程度で驚く訳もない。
それでも……その心には常に様々な意識が流れ込むのだろう。人以外の獣、虫、魚、花や木といった植物──そんな中で稀に現れる人間の心は、賑やかでサトリにとっての楽しみだったのかもしれない。
スミジはできるだけ楽しいことを考え夜を明かす。サトリが寂しくないように……それもまた祓い師の役目だと思ったのだ。
「先ずは自己紹介かな……俺は……」
「道祖土スミジ……はらいし……。祓い師? ………。祓い師はこちら側に近い人間……」
「……。流石はサトリ、記憶まで読むのか……」
「来たのはサトリに会う為……霊力もあびる……」
「そういうこと。で……」
「“とうめつ”に来た訳じゃない……本当に話にきただけ……」
「こ、ここまで会話が端折られるのはちょっと妙な気分だな……」
会話を始めようとすると答えが来る。かなり時間短縮になるので確かに違和感はある。
「それでな?」
「サトリ……服、ひろった。人間……たおれてた」
「やっぱりか……」
スミジは依頼を受けた際、その【怪異】が発生した土地の歴史を調べる。加えて現地にて更なる調査を行うのだ。
今回は目撃証言のみであったが、事前に山で起きた事故を調べておいた。
数年前の冬……全裸の男性が山道にて発見された。男性は既に冷たくなっていたが、不可解な点が幾つかあった。
先ず、何故服を着ていなかったのか?日本の山で物取りも無いだろうということで自ら脱いだと警察は判断した。しかし、そうなると疑問が生まれる。男性の死因は凍死ではなく転落死と判断されたからだ。
男性が見付かった場所は転落する程の崖が存在した訳ではない。つまり、男性は『全裸で滑落した後、山道まで歩いた』ことになる。
しかし、それはあまりに現実的ではない。故に警察は、『ある事実』を理由に誰かが運んだと結論付けた。
その事実とは、遺体の傍に花が手向けられていたこと──。遺体発見時、季節に合わぬ花が男性の傍に綺麗に並べられていたのである。
男性の身元から事件性は無いと判断され、事件は不可解さを残しながらも終結となっている。
「お前が運んでやったんだな……。事故に遭った人を家族の元に送ってやる為に」
「そう……。家にかえりたがってた」
「でも、服を……」
「もらった……。人……おどろくから……」
「……成る程」
サトリは山男と言って良い風体である。故に人の前に現れると相手を怖がらせてしまう。服を着たのはせめてもの配慮らしい。
「………この山の主はお前だな?」
サトリは小さく首肯いた。山の主……それは、つまり山の神である。
山の神は善良とは限らない。自然そのものである山の神は恵みを与えると同時に奪う存在でもある。だが、今目の前にいるサトリは人に対して寛容だった。人の死を悼み花を手向ける【あやかし】などスミジも殆ど知らない。
スミジは、そんな優しい山の主に改めて感謝の意を示す。
「ありがとう、サトリ」
「…………」
「そうだ。酒は………」
「もらう……」
「ハハハ」
山の神様は酒が好きらしい。
焚き火で新しく食材を焼きながら、持参した酒の小瓶を開けささやかな宴を行った。
サトリが爆ぜる焚き火に驚き逃げる……という逸話があるが、今の時代まで山神として存在したのならばその程度で驚く訳もない。
それでも……その心には常に様々な意識が流れ込むのだろう。人以外の獣、虫、魚、花や木といった植物──そんな中で稀に現れる人間の心は、賑やかでサトリにとっての楽しみだったのかもしれない。
スミジはできるだけ楽しいことを考え夜を明かす。サトリが寂しくないように……それもまた祓い師の役目だと思ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる