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◆第六章 古き大妖◆
第二十一話 霊峰を往く
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「それで……ここからどうする、スミジ?」
「取り敢えず気配のしたところを片っ端から捜してみる。伊庭さんは移動の目安として尾根を歩いて貰いたいんだ。俺が道を外れて捜しに行く間だけ止まってて欲しいんだけど……」
「わかった」
「それと、これを……」
土小屋コースは比較的なだらかな尾根を歩く登山ルート。それでも僅かに道を逸れたら滑落等の危険がある。
加えて……霊場には【怪異】が付いて回る。こと逢魔が刻を過ぎた闇は人ならざるものの世界──たとえどれ程清浄な地であっても闇があればその存在は現れる。何故なら【あやかし】は必ずしも不浄ではないからだ。
具体的に言えば天災……自然現象に善悪の区別がないように、存在が脅威であっても穢れたもので無い場合もある。霊場は【現象としての怪異】が出現しやすい傾向にあった。
伊庭に手渡したのは守りの護符。加えて、常人でも一度程度なら耐えられるよう調整した【参式・霊装紋】を宿した霊印符。身体に張ることで一時的に身体機能を上昇させることができる。
「【あやかし】は見えない人の前には滅多に現れないけどね……だからそれは、飽くまで“もしも”の時だけの手段。戦いの為じゃなく逃げる為のもの……忘れないでくれ」
「わかった」
「じゃあ、行こうか」
仕事柄、祓い師は夜目が利く。スミジが先導し伊庭はその後を付いて行くことになった。時折足を止め気配を探りつつ二人は土小屋ルートの登山道を進む。
気配を微かに感じたスミジは伊庭を待機させ道なき山中へと入り、しばし後に戻る。二、三度これを繰り返したが石鎚山法起坊には出会えない。
「……。本当に会えるのか?」
伊庭は少々不安になった。伝承の地であるならば人の認識により顕現している可能性はある……しかし、それとて必ずではない。
石鎚山法起坊が確認されたという報告は非常に少ないのである。報告されている以上存在はしているかもしれないが、目撃例の少なさはやはり邂逅を回避している様にぬも感じる。
それを裏付けるかの様なスミジの言葉が続く。
「気配はある。凄く強い霊気が一瞬だけ現れるんだよ……でも、向かうと消えている。それ以外の気配は今のところ無害な【あやかし】だよ」
「つまり……俺達は避けられてるのか?」
「う~ん……避けられているっていうか、遊ばれてる? それとも試されてるのかも……」
「試されてる……?」
「恐らく俺達が来たことも、その理由も知ってるんだと思う。天狗は神通力の持ち主だから……」
神通力にてスミジ達の情報を把握した石鎚山法起坊は、その行動を見ているのだろうというのがスミジの推測。理由は覚悟の確認……。
そもそも今回の案件は祓い師が多数動いている。時間さえ掛ければ『牛鬼』は祓われるのは間違いない。
人間が人間だけで解決できるならば助力は必要ないことになる。早く解決し犠牲を減らすことに尽力するならばもっと人員を増やせば済む話なのだ。現にその方向で事態は動いてもいる。
それでも足りぬのは人の怠慢……と考えているかまでは分からない。だが、スミジには一つ確信に近いものがあるらしい。
「試されてるのは俺かな……。内心では牛鬼を祓うよりアカリちゃんが優先だから、性根を見られている気がする」
神通力にて心と記憶を読んでいるからこそ、わざと出現しスミジの行動と様子を見ているのだろう。確かに『自分は早く帰りたいから力を貸して欲しい』では筋が違うやもしれない。
「だけど、それは仕方無いだろ……。そもそもお前はこの地方の祓い師じゃないんだぞ?」
「それは俺達の理屈だからね……。でも、俺の理由も多分理解してるから相手にしないんじゃなく『試してる』のかな」
「成る程……。覚悟を試されてるっていうより、スミジ自身の性格を窺ってるのか」
「若しくは鍛練のつもりなのかも……。霊山を駆け巡るのは修行の一つだ」
険しい山を駆け巡る行為は身体と精神を鍛える割とポピュラーな修行である。現れては消える気配を追わせることで、スミジを鍛練している可能性も否定はできない。
しかし……今、それが本当に必要なのかは甚だ疑問ではあるが……。
「………。どうする?」
「どのみち、俺は居られても残り二日だよ。また来るにしても滞在は三日づつが限度だ」
アカリに施した封印は不安定で長くは放置できない。それを理解して試されてるなら意味がある筈……。
「明日の朝までは続ける。それで逢えないなら海側の捜索に切り替えよう」
「そうか……」
「伊庭さんはどうする? 戻って休んだ方が良いんじゃ……」
「いや……元々俺がお前に持ち掛けた案件だ。朝まで付き合うよ」
「……わかった」
「取り敢えず気配のしたところを片っ端から捜してみる。伊庭さんは移動の目安として尾根を歩いて貰いたいんだ。俺が道を外れて捜しに行く間だけ止まってて欲しいんだけど……」
「わかった」
「それと、これを……」
土小屋コースは比較的なだらかな尾根を歩く登山ルート。それでも僅かに道を逸れたら滑落等の危険がある。
加えて……霊場には【怪異】が付いて回る。こと逢魔が刻を過ぎた闇は人ならざるものの世界──たとえどれ程清浄な地であっても闇があればその存在は現れる。何故なら【あやかし】は必ずしも不浄ではないからだ。
具体的に言えば天災……自然現象に善悪の区別がないように、存在が脅威であっても穢れたもので無い場合もある。霊場は【現象としての怪異】が出現しやすい傾向にあった。
伊庭に手渡したのは守りの護符。加えて、常人でも一度程度なら耐えられるよう調整した【参式・霊装紋】を宿した霊印符。身体に張ることで一時的に身体機能を上昇させることができる。
「【あやかし】は見えない人の前には滅多に現れないけどね……だからそれは、飽くまで“もしも”の時だけの手段。戦いの為じゃなく逃げる為のもの……忘れないでくれ」
「わかった」
「じゃあ、行こうか」
仕事柄、祓い師は夜目が利く。スミジが先導し伊庭はその後を付いて行くことになった。時折足を止め気配を探りつつ二人は土小屋ルートの登山道を進む。
気配を微かに感じたスミジは伊庭を待機させ道なき山中へと入り、しばし後に戻る。二、三度これを繰り返したが石鎚山法起坊には出会えない。
「……。本当に会えるのか?」
伊庭は少々不安になった。伝承の地であるならば人の認識により顕現している可能性はある……しかし、それとて必ずではない。
石鎚山法起坊が確認されたという報告は非常に少ないのである。報告されている以上存在はしているかもしれないが、目撃例の少なさはやはり邂逅を回避している様にぬも感じる。
それを裏付けるかの様なスミジの言葉が続く。
「気配はある。凄く強い霊気が一瞬だけ現れるんだよ……でも、向かうと消えている。それ以外の気配は今のところ無害な【あやかし】だよ」
「つまり……俺達は避けられてるのか?」
「う~ん……避けられているっていうか、遊ばれてる? それとも試されてるのかも……」
「試されてる……?」
「恐らく俺達が来たことも、その理由も知ってるんだと思う。天狗は神通力の持ち主だから……」
神通力にてスミジ達の情報を把握した石鎚山法起坊は、その行動を見ているのだろうというのがスミジの推測。理由は覚悟の確認……。
そもそも今回の案件は祓い師が多数動いている。時間さえ掛ければ『牛鬼』は祓われるのは間違いない。
人間が人間だけで解決できるならば助力は必要ないことになる。早く解決し犠牲を減らすことに尽力するならばもっと人員を増やせば済む話なのだ。現にその方向で事態は動いてもいる。
それでも足りぬのは人の怠慢……と考えているかまでは分からない。だが、スミジには一つ確信に近いものがあるらしい。
「試されてるのは俺かな……。内心では牛鬼を祓うよりアカリちゃんが優先だから、性根を見られている気がする」
神通力にて心と記憶を読んでいるからこそ、わざと出現しスミジの行動と様子を見ているのだろう。確かに『自分は早く帰りたいから力を貸して欲しい』では筋が違うやもしれない。
「だけど、それは仕方無いだろ……。そもそもお前はこの地方の祓い師じゃないんだぞ?」
「それは俺達の理屈だからね……。でも、俺の理由も多分理解してるから相手にしないんじゃなく『試してる』のかな」
「成る程……。覚悟を試されてるっていうより、スミジ自身の性格を窺ってるのか」
「若しくは鍛練のつもりなのかも……。霊山を駆け巡るのは修行の一つだ」
険しい山を駆け巡る行為は身体と精神を鍛える割とポピュラーな修行である。現れては消える気配を追わせることで、スミジを鍛練している可能性も否定はできない。
しかし……今、それが本当に必要なのかは甚だ疑問ではあるが……。
「………。どうする?」
「どのみち、俺は居られても残り二日だよ。また来るにしても滞在は三日づつが限度だ」
アカリに施した封印は不安定で長くは放置できない。それを理解して試されてるなら意味がある筈……。
「明日の朝までは続ける。それで逢えないなら海側の捜索に切り替えよう」
「そうか……」
「伊庭さんはどうする? 戻って休んだ方が良いんじゃ……」
「いや……元々俺がお前に持ち掛けた案件だ。朝まで付き合うよ」
「……わかった」
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