姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第二十二話 天狗の思惑

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 土小屋ルートは山頂・天狗岳まで二時間以上を要する道程。夜間、しかも捜索しながらの移動となると更に時を浪費する。
 スミジ達が石鎚山に到着したのは夜十時過ぎ……間も無く四時間が経過しようとしていた。

「はぁ……はぁ……。駄目だ……全っ然つかまらねぇ……」 

 気配を感じる度跳び回るスミジだったが、大天狗・石鎚山いしづちやま法起坊ほうきぼうには一向に出会うことができないでいた。

「明らかに遊ばれている気がする……。試されてるのか分からなくなってきた」
「無理するな。石鎚山法起坊に逢えなくても牛鬼捜索は続けなくちゃならないんだ。もし明日対峙……なんてことになったら、疲弊しすぎて戦えないぞ?」
「分かってるんだけどさ……。くっ……まただ」

 時間が経過するにつれ強い霊気が出現する回数が増えている。しかも近くに……。明らかにスミジを煽っているのは間違いない。

 天狗は超越である反面、かなり悪戯好きな面もある。遊ばれている可能性も浮上してきたが、スミジは最早後には引けなかった。

「今なんて直ぐそこまで来てたのに……」
「おい。ちょっと落ち着け」
「こうなったら……意地でも見付けてやる」
「落ち着けって言ってんだろうが!」
「がふっ!」

 伊庭はスミジの頭に手刀を振り落とした。

「……。痛い」
「当たり前だ。ちょっとは落ち着けっての……。良いか、スミジ? 相手は一種の神の類だ。たとえお前が練達の祓い師でも人間……六通ろくつう使える相手に通じる訳がないだろ?」
「ま、まぁ確かに……」

 六通ろくつうは神通力の代表的な六つの力。心を読み、事象を読み、一瞬で移動する等の力を宿す天狗……しかも大天狗相手に人間のスミジが相手になる訳もない。

「心を読む相手はお前も知ってるだろ? なら……どうするのが良いかも分かるよな?」 

 伊庭の冷静さを目の当たりにしたスミジは僅かに目を見開いた。そして目を閉じ深呼吸を二、三度行う。
 再び目を開いたスミジはすっかり落ち着きを取り戻していた。

「……。伊庭さんの言う通りだ。ちょっと意固地になってた……悪い」
「分かれば良い。それから、今からはこっちは気にしなくて良い。石鎚山法起坊には何か意図がある気がする……誘き出された場所にも理由があるんじゃないのか?」
「場所の理由……」
「良く観察しろ。そういうの、お前は得意だろ?」
「……。分かったよ。でも……本当に一人で大丈夫か?」
「俺をナメんな。俺はお前の荷物じゃない……邪魔になる位なら意地でも肩を列べて歩いてやる」
「伊庭さん……」

 力強い伊庭の叱咤にスミジは肩が軽くなった気がした。

 故郷では頼れる先輩だった伊庭。祓い師としてスミジが成長してからも、伊庭は戦えずとも守られる側ではなかった。大源寺の騒動時でも伊庭を軽んじていたかもしれない……スミジは己の傲慢を恥じた。

「……伊庭さん。悪い……俺は伊庭さんを……」
「別に良い。それよりも、折角法起坊の存在を掴んだんだ。良く観察しろ、有効な方法を選べ。お前なら何か分かる筈だ」
「ハハハ……今日の伊庭さんは頼りになるな。……少し行ってくる」
「おう、こっちは気にすんな」

 バシリ!と背を叩かれたスミジは一跳びで森の中へと姿を消した。

 そして………残された伊庭は───。

「………。フッフッ。アヤツはこれで良かろう」

 スミジを見送った伊庭……いや、伊庭の姿をしていた『別の何か』はそれまでとは違う低い声でそう呟く。
 次の瞬間には修験者の容姿に翼を持つ『天狗の面』を付けた大男へと変化していた。

「さて……残るもう一人の方も見てやらねばな。少々面倒だが仕方あるまい」

 いつの間にか手にしていた錫杖を地に突き、修験者は闇に溶けるように消えた──。 




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